
短歌は一瞬を切り取る。小説は一瞬から広げていく――。
31文字の世界の達人が挑んだ長編小説は、あまりにもエモーショナルだった!
読んだ人から、文字通り「圧倒的な支持」を受けている小説『僕の悲しみで君は跳んでくれ』に迫る!
構成/吉田大助
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お笑いの目的は「笑わす」こと小説の目的は……
──小説を読むことは昔からお好きだったんですか?
岡本 読書量が多いわけではないんですが、本は常に読んできました。最初のきっかけは、高校の頃に乙一さんの『夏と花火と私の死体』という小説を本屋さんで見つけて、「なんなんだ、このタイトルは?」と。買ってみたら死体目線での話で、それまで小説にはあまり興味がなかったんですが、ハマってしまいました。
朝倉かすみさんの『田村はまだか』と、朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』は、今回書いたお話に直接影響を受けました。主人公になるはずの人が出てこなくて、その周りにいる人たちがメインで進んでいく、という構造が好きみたいなんです。
前に出てきたちょっとした人やセリフが、後のほうで繋がって「あっ、あれか!」となる楽しさは、伊坂幸太郎さんから明らかに影響を受けています。伊坂幸太郎さんがダントツで好きで、この人は僕を楽しませるために本を書いてるんじゃないかなと思っているくらいなんです(笑)。

──伊坂フレーバー、感じました。細かいエピソードが魅力的で会話や地の文にユーモアがあり、物語を面白くするための仕掛けが無数に張り巡らされている。
例えば、「僕の悲しみで君は跳んでくれ」は実は、壮平君が作ったオリジナル曲の歌詞の一節なんですよね。
この一節に連なる歌詞が何なのか、歌詞全体を通して何を意味しているのかが少しずつ明かされていく。この演出も、本作のリーダビリティを高めていますね。
岡本 他の歌詞は全く決まっていなくて、各章のお話を作っていく中で出てきた、引っかかりのあるセリフを歌詞にして繋げていきました。「僕の悲しみで君は跳んでくれ」という言葉の意味も、書き出す前は何もわかっていなかったんです。そこも小説を書きながら考えていったというか、気が付いていった感じです。
──ただ、恋愛要素は伊坂作品にはあまりないものかも。岡本さんは短歌やエッセイでもたびたび恋愛をモチーフにして、キュンとくる瞬間を表現されていますよね。
岡本 登場人物たちは25歳の男女なので、一緒にいたらそういう感情は出てくるものかなと思いましたし、ずっと好きだけどずっと伝えられない、というタイプの人が愛おしくて描きたくなっちゃうんです。編集者さんに「もうちょっとキュン要素を」と言われたことも大きかったんですが(笑)。
──そのアドバイス、めちゃめちゃ重要だったと思います(笑)。
岡本「小説の中に、短歌とかバンバン出していいんじゃないですか」とアドバイスしていただいたことも大きかったんです。僕は、過去に自分の本の中で出したものは、他の作品に使うのはダメだと思い込んでいました。小説に、短歌なりエッセイの一部をバンバン取り入れることにしたおかげで、中身を濃いものにすることができたと思っています。
――漫才と小説の違いについて感じていることはありますか?

岡本 めちゃくちゃあります。まず単純に、漫才のネタは2、3分で終わるものがほとんどですが、小説は長い(笑)。
あと、お笑いは基本的に「笑わす」ってことを目的にして考えるんですけど、小説って読む人がどういうふうに思うかは、こちらが決めることではないような気がするんです。むしろ「ここでこう思ってほしい」とか「ここで感動してほしい」って、決め込まないで書いた方がいいのかもしれない。
そう考えるようになってからは、とにかく登場人物たちのことを想像して、この作品世界で起きたことを見てきたように書ければいいなと、それだけを考えるようになりました。
――自分はこんなことを感じた、ここで笑ってここで感動した、という読者の声がこれからたくさん届くことになると思います。
岡本 怖さもありますけど、楽しみが大きいです。僕は本当に運がいいと思っているんです。小説を書くチャンスをいただけて、本を出すことができた。自分から小説家と名乗るのはまだ難しいんですが(笑)、見つけていただいた恩返しのためにも、小説を書き続けていきたいと思います。
(「小説幻冬」でもお楽しみください)
僕の悲しみで君は跳んでくれ

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』と、短歌とエッセイを出して来た、歌人芸人の岡本雄矢さんが、初めての小説を刊行!
短歌という”31文字”の制限の中で、表現に挑んできた岡本さんが、初めて生んだ長編が、とにかくヤバかった!
18歳の時に “あいつ”が放った光を、もう一度見たい。「その一瞬」のために始まった青春の延長戦は、あまりにも――。読んだら、誰かを“応援”したくなる!全ての人の感動スイッチを押す、胸アツ青春小説の登場です。
〈あらすじ〉
札幌で高校時代を過ごした仲間たちには、共通した「忘れられない瞬間」がある。学校祭の中庭のステージで見た、瀬川壮平の姿だ。
当時の仲間たちが同窓会と称して集まっていたある日、母校の中庭が無くなるというニュースが。
もう一度、あの場所で壮平を見たい!
しかし、東京でプロの活動を始めた壮平のステージは果たして実現するのか?
10代を共に過ごした仲間と、もう一度青春することはできるのか?
掴めそうで手放してしまった「欲しかった未来」に、もう一度手を伸ばしてもいいのか?
大人になってなんとなく流されていく日々に、「あのとき感じた希望の感触」が蘇る!