
芸人歌人として短歌を詠み「31文字」の感動を追求してきた岡本雄矢さん。
このたび、初めて小説を刊行。タイトルは、『僕の悲しみで君は跳んでくれ』。このタイトル、実は「短歌の下の句として思いついた」もの。
このタイトルのフレーズは、冒頭から登場するのですが、それはいったいどんな形で……!?
そして、ラストには、このタイトルの意味が、別の輪郭で浮かび上がりますので、ぜひ本書をお読みいただきたいのですが、
ひとまず、読んだ人を騒然とさせている冒頭を、緊急公開!
* * *
壮平君の右腕が力強く振り下ろされて、ギターがジャーンともギューンともいえる音を鳴らした。
ギターってこんな音が鳴るんだ。そう驚いていると、もう一度、ギターがジャーンと鳴り、続いて壮平君の右手の指先がすごい速さで動き出した。ジャカジャカと音が鳴る。その音のひとつひとつが空に向かって飛んでいくようだ。
学校の中庭。
壮平君の鳴らすギターの音。
雲ひとつない空。
いつの間にかギターの音にベースとドラムの音が加わって、本格的なバンドの演奏になっていた。三人だけでこんなにすごい音が鳴るんだと、私は圧倒される。
激しく頭を振って、ギターを弾いていた壮平君が、ステージの真ん中まで出てきてマイクの前に立つ。
「やります」
激しい演奏とは不釣り合いな丁寧な言葉の後に、ギターの音が再びジャーンと鳴って、と思ったら、体を屈ませた壮平君が、そのまま跳んだ。
その瞬間、私は自分の体が一瞬軽くなったような気がした。これはなんだろう? 今までに味わったことのない感覚。自分が今持っているモヤモヤとしたものを、壮平君が抱えて跳んでくれた。そんな気が、たしかにした。壮平君はギターを弾きながら、マイクに向かって早口で捲くし立てている。なにを言っているのかは、ほとんど聞き取れなかった。それでも──
君の未来が美しくあるように
その歌詞だけは、なぜかはっきりと聞こえた。
僕の悲しみで君は跳んでくれ

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』と、短歌とエッセイを出して来た、歌人芸人の岡本雄矢さんが、初めての小説を刊行!
短歌という”31文字”の制限の中で、表現に挑んできた岡本さんが、初めて生んだ長編が、とにかくヤバかった!
18歳の時に “あいつ”が放った光を、もう一度見たい。「その一瞬」のために始まった青春の延長戦は、あまりにも――。読んだら、誰かを“応援”したくなる!全ての人の感動スイッチを押す、胸アツ青春小説の登場です。
〈あらすじ〉
札幌で高校時代を過ごした仲間たちには、共通した「忘れられない瞬間」がある。学校祭の中庭のステージで見た、瀬川壮平の姿だ。
当時の仲間たちが同窓会と称して集まっていたある日、母校の中庭が無くなるというニュースが。
もう一度、あの場所で壮平を見たい!
しかし、東京でプロの活動を始めた壮平のステージは果たして実現するのか?
10代を共に過ごした仲間と、もう一度青春することはできるのか?
掴めそうで手放してしまった「欲しかった未来」に、もう一度手を伸ばしてもいいのか?
大人になってなんとなく流されていく日々に、「あのとき感じた希望の感触」が蘇る!