
「やめたいのに、やめられない習慣」「続けたいのに、続けられない習慣」に誰もが一度は悩んだ経験があるでしょう。そんな「不毛な時間」をなぜ過ごしてしまうか。どうすれば「生産的な時間」に変えられるのか。
「アドラー心理学ベースの問いかけ」により、のべ3万人以上の「ムダな行動」を改善してきた佐藤悠希さんの著書『不毛な時間をゼロにする』(サンマーク出版)が出版されました。何も生み出さなかった「不毛な時間」が再び動き始め、「建設的な時間」が流れていく感覚をもたらしてくれる一冊。本書から、一部をご紹介します。
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わたしがまだ会社員として勤めていたころの話です。
営業先からの帰り道、20代後半の女性チームメンバー、シミズさんと、山手線の車内でゴトンゴトンと揺られていました。
午後の日差しが暖かく車内もポカポカしていたせいか、なんとなくプライベートなことを聞いてみたくなりました。
「ねえ、シミズさん。なんでも望みが叶うとしたら、本当はどうなりたい?」
シミズさんは話し上手なので、あれやこれやと壮大な目標や、馬鹿げた夢を楽しく話してくれるかな、と思っていました。
でもそのときの彼女は、いつもと違ってフリーズしたまま動かなくなってしまいました。下を向いていたので、目線も合っていません。彼女は少し考え込んでから、
「うーん……生活保護をもらわない程度に、暮らしていければいいですかね」
とぽつり。
「仕事に楽しさとか求めてないんで」とも言われて
電車内にいきなりガンガン冷房をかけられたかのように、一瞬でわたしの血の気が引いてしまいました。そして投げやりな感じではなく、本心からそう思っているように、こうも言いました。
「仕事に楽しさとか、求めてないんで」
正直、ショックで膝から崩れ落ちそうでした。
いま一緒にやっている仕事に対して、シミズさんはその程度の思いだったのか……。
いや、そんなことは問題じゃない! わたしや会社は、希望に満ちているはずの20代の彼女に、夢を見させることすらできていないのか……。複雑な思いが入り混じり、「このままではいけない」と感じました。
後年、わたしは独立して、年間におよそ1000人の社会人をコーチングするようになりました。そして、このときのシミズさんのような心理状態にある人が、じつは性別、年代、肩書きを問わず、たくさんいらっしゃることを知ることになります。
試しにいま、ご自身に
「もし何でもできるとしたら、本当はどうなりたい?」
と、問いかけてみてください。
10秒以内にパッと答えが浮かぶ人は、どれくらいいらっしゃいますか?
13年間もケンカし続ける夫婦
また別のある日のこと。
飲料系メーカーで営業部に課長としてお勤めの40代ワタナベさんが、肩を落としてぽつりと漏らしました。
「妻と結婚して13年になりますが、これまでずっと、週に1回は口喧嘩してきているんです……」
こちらもわたしには、衝撃的なお話でした。
長い間一緒に過ごす家族やパートナーであれば、週1回の口喧嘩が何度か続くことはあるでしょう。しかし、13年もの間ずっと続いていると聞くと、さすがに重たい話に聞こえました。
奥さんの子どもへの小言が気になってしまって、「言いすぎだろ」と注意してはケンカ、家事の分担ができていなかったことに対して、「言った言わない」でケンカ……。口喧嘩が常態化しすぎていて、普通なら見過ごせるような些細なことですら、すぐにゴングが鳴ってしまう状態でした。
ワタナベさんに詳しく話を聞いてみると、それぞれが子どものことを考えていたり、家事負担を減らそうと思っていたり、お互いを大切にしている良いご関係なのですが……完全にボタンをかけ違えていたのです。
バラエティ番組なら笑い話で済むかもしれませんが、現実にこれだけ愛情のすれ違いが続いてしまうと、本当に不毛です。ワタナベさんの時間だけでなく、奥さんやお子さんの貴重な人生の時間すら浪費しかねません。
なぜ「不毛な時間」を過ごしてしまうのか
さて、皆さん。
一体何の話をしているのだろう、と思われますよね。
じつは、ここで登場した20代のシミズさんと、40代のワタナベさん夫婦の話は、根っこのところで「同じ問題」を抱えています。
それは、ともに「不毛な時間を過ごしている」ということに他なりません。
同僚のこと、友人のこと、家族のこと。当たり前ですが、現実の世界でいつも自分の思うとおりに物事が進むわけではありません。
しかし、誰もが自分なりに一生懸命やっているはずです。
それなのに、なぜか明るい未来が感じられない。
なぜか事態が好転していかない。
むしろ、悪循環を起こしているケースさえある。
これこそが、本書でお伝えしていく【不毛な時間】です。
生活保護をもらわない程度に暮らしたいと言っていた20代のシミズさんも、普段はとても一生懸命に働いている、誰からも愛される女性です。
13年間ずっと口喧嘩をしてきたというワタナベさんも、実際には奥様とお子さんを深く愛していらっしゃる素敵な男性なのです。
そんなふうに、日々を、真面目に誠実に過ごしている人たちが、どうして不毛な時間を過ごしてしまうのでしょうか。
そのヒントは「心のズレ」にあります。
誰もが「本音」とは違う行動をとっている
心のズレとは、「心」のど真ん中で思っていることと、違う生活を送っている状態です。
多くの人が、自分は自分の思っているとおりに行動していると認識していますが、実際にはまったくそんなことはないのです。
そこには年齢や肩書などまったく関係なく、たとえばプライム上場企業でバリバリ働いている憧れの社会人のように見えても、心の中は荒んでいたりするケースがよく見られます。
そのような「不毛な時間」を、わたしは次のように表しています。
不毛な時間 =【費やした時間】×【心のズレた角度】×【情熱をかけた量】
時間、心のズレ、情熱、この3つの掛け合わせによって、不毛な時間のボリュームが変わってきます。
時間をかければかけるほど、心のズレが大きければ大きいほど、情熱があればあるほど、そこに感じる【不毛さ】は大きくなっていくわけです。
「時間が溶けてしまう」原因はどこにある?
不毛な時間は、身の周りのアチコチに見られます。
◆努力が報われない
「いろいろ効率化しているのに、あっという間に時間が溶けていく」
「自分はがんばっているのに、人生がまったく楽しくならない」
◆仕事が楽しくない
「やりたいことが見つからなくて、仕事がツラい……」
「あの上司(部下)は、こちらの気持ちを全然理解してくれない……」
◆家族・知人に悩む
「うちの親、どれだけ心配しても聞く耳を持ってくれない」
「何度言ったら、うちの子どもは言うこと聞いてくれるの?」
「できれば、あの人と一緒にいたくないんだよな……」
これらは日常的によく見られる悩み事ですが、じつはいずれにおいても無関係ではありません。
むしろ一生懸命やっているのに明るい兆しが見えない、心がズレているという点において共通しており、いずれもとても不毛な時間です。
本書で最もお伝えしたいポイントは、まさにここです。
心のズレこそが、あなたに【不毛な時間】を生み出しているか、【生産的な時間】を生み出しているかを左右しているのです。
そして、ズレが直るだけで、あなたの時間の密度は大きく変わっていきます。