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国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶

2025.08.07 公開 ポスト

日本人だけが他人を潰したがる? 学術実験で見えた“陰湿すぎる国民性”加谷珪一(経済評論家)

日本人の隠れた本性が景気を停滞させている! 政府系金融機関などのコンサルティングを務めた経験を持つ加谷珪一さんが、日本経済の長期的低迷を「国民性」という誰も触れたがらない視点で暴いた注目の一冊『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』。本書より一部を抜粋してお届けします。

日本人に顕著な「スパイト行動」の傾向

日本社会が不寛容であることは、学術的な調査研究でも明らかとなっています。

大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授(現高知工科大学経済・マネジメント学群特任教授)らの研究によると、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られたそうです。

この研究は被験者にゲームをしてもらい、公共財に投資をすると自分はその利益を得られる一方、公共財であることから相手にも利益があるという状況を想定し、被験者がどのような行動を取るのか確かめるというものです。

仮に相手が投資を行わなくても、自分が投資すれば自分は利益を得られますが、相手はその投資にタダ乗りしますから、何もせずに儲かることになります。こうした状況に遭遇した場合、被験者の行動は人によって大きく変わります。

相手がタダで利益を得ているといっても自分も儲かるので投資は行うという人と、相手がタダ乗りするのは許せないという感覚から、自分の利益が減っても、相手の利益をさらに減らそうとする人に分かれるのです。

自分の利益が減っても相手を陥れようとする行為を学術的にはスパイト(悪意、意地悪)行動と呼びますが、似たような実験を日本人、米国人、中国人に対して実施し、その結果を比較したところ、相手の利益をさらに減らそうとするスパイト行動は日本人に特に顕著だったことが明らかとなりました。

日本人は他人の足を引っ張る傾向が強いということですが、この実験ではさらに興味深い現象も導き出されています。

日本人は他国よりもスパイト行動が顕著なわけですが、この実験を繰り返していくと、他人の足を引っ張る行動が制裁として機能するようになり、徐々に協力的になっていくという結果が得られたのです。

日本人はよく他人の足を引っ張りますが、一方で、他人からの制裁を恐れ、過剰なまでに組織や上司に忠誠を誓うというケースもよく見られます。日本の長時間残業やサービス残業はその典型かもしれませんが、他人の足を引っ張る行動が、恐怖を生み出し、これが逆に組織の秩序をもたらしているわけです。

一連の実験結果は身近な感覚としてよく理解できるのではないでしょうか。

批判に阻まれる日本の技術革新

日本では何か新しい技術やビジネスが誕生するたびに声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できないことがほとんどです。その間に他国が一気にノウハウを蓄積してしまい、結局は他国にお金を払ってその技術やサービスを利用しているケースはザラにあります。無人機(ドローン)の業界はまさにその典型といってよいでしょう。

ドローンの市場は中国と米国の独壇場となっており、日本メーカーは手も足も出ません。日本政府が保有するドローンを精査したところ、ほとんどが中国製だったという安全保障上、笑えない話もあります。実際、中国製のドローンは低価格で、しかも日本製より圧倒的に高性能ですから、安全保障上のリスクがあっても、各省庁は中国製を採用していたというのが現実なのです。

しかしドローンが登場してきた当初は、この分野で圧倒的なシェアを握るのは日本企業だと考えられてきました。しかし日本企業は既存の技術にあぐらをかき、積極的なソフトウェア開発を行いませんでした。

ドローンのような製品は、実際に飛ばして改良を重ねることが大事ですが、日本国内では「危険だ」「あんなものはオモチャだ」といった感情的な反発が強く、実際に空を飛ばす実験は事実上、禁止された状態が長く続きました。この間に中国企業はあっという間に実力を蓄え、今では圧倒的なナンバーワンとなっています。

成功者が妬まれる社会とテクノロジーへの不信

新しい技術に対して声高な批判が寄せられる意外な理由として考えられるのは、テクノロジーがもたらす利益です。一般的に新しいテクノロジーが普及すると、その技術を持っている人は多くの利益を得られます。つまり新しいテクノロジーが普及するたびに、それを得意とする誰かが大きな利益を得ているわけです。

日本人が他人の足を引っ張る傾向が顕著なのだとすると、新しいテクノロジーの普及で自身の生活が便利になったとしても、それ以上に儲かる人がいるのは許せないという感情が働く可能性が否定できません。結果として、新しいものは普及しない方がよいと考える人が一定数出てきても不思議ではないでしょう。

米国の調査会社エデルマンが行った信頼度調査によると、日本人の中でテクノロジーを信頼する人の割合は66%となっており、26カ国中最低レベルでした。

ランキングの上位には中国やインドネシアなど新興国が目立ちます。新興国は経済成長が著しくテクノロジーの恩恵を感じやすい状況にあります。一方、米国やフランス、ドイツ、英国といった先進国は下位グループに入っていますから、日本の順位が相対的に低いことは特に問題ではありません。しかし日本は多くの人が自国のことを技術大国であると誇りに感じており、米国や英国に対して、もの作りを軽視し、消費にしか興味がない国だとして批判する風潮も根強く残っています。

こうした国であるにもかかわらず、テクノロジーに対する信頼度が最下位というのは不思議な感じがしますが、新しいテクノロジー=他人の利益と考えると、つじつまが合うのではないでしょうか。

日本社会では、テクノロジー分野に限らず経済的な成功体験を披露することは、場合によっては大きな批判を浴びます。出る杭は打たれるということわざからも分かるように、日本では成功者は基本的に妬まれますから、自身の成功体験を積極的に他人に語りたがりません。このため成功のロールモデルが共有しにくく、これがビジネスチャンスを狭めています。しかしながら、成功者が妬まれ、足を引っ張られるということは、実はお金に対する欲求が強いことの裏返しでもあります。

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この続きは幻冬舎新書『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』でお楽しみください。

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国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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