“今度の「合法的脱税(マネーロンダリング)」は、暗号資産(クリプト)! これが令和の冒険ミステリーだ!!”
橘玲さん11年ぶりの書き下ろし長編『HACK(ハック)』を脳科学者の中野信子さんにお読みいただきました。
本書が問う究極の選択
ぬるい幸せか、ひりつくような自由か?
仮想通貨、トクリュウ、宗教二世……と、近年、巷を騒がせたモチーフが本作にはちりばめられています。これまでならビジネス書のようなスタイルで出版されていたであろう、橘玲さんならではの高い取材力によって集められ分析された情報が、本作でひとつの物語として再構築されていくさまは興味深いものでした。
主人公については、彼が高い知能を持つことを示すエピソードが複数、語られていきます。彼は、自分についてあまり多くを語るキャラクタとして造形されてはおらず、また作中で過度な描写もされることはありません。この人物描写は、事物に対して控えめでストイックな態度を持ち、どこからも等距離で客観的であることを自らに課すような、橘さん自身のありようを反映しているようにも見えます。
一方で、主人公と深い関係になる女性の姿も描かれていくのですが、この人に関する描写を総合していくと、なるほど本作の書評を私に依頼しようとお考えになった理由はこのあたりかな……という感じもしなくはありません。的外れであったらお恥ずかしい話ですが、情報収集力の高い橘さんのことですから、おそらく当たらずといえども遠からずといったところではないでしょうか。読者の皆様に向けてはここで多くを語ることはせず、本作を読んであれこれ詮索してみてほしいと思います。
心的負荷のかかる判断が求められている時、しばしば人間の脳は、自分にとって都合の良い要素を限定的かつ脆弱な根拠から抽出し、それに基づいて意思決定を行います。ほとんどの失敗の因はここにあり、その蹉跌から自由になるための鍵が知能です。
とはいえ人類の平均値を考えれば、人間は自分が思っているほど頭のいい生物では、残念ながらありません。ただ生き延びていくだけならば、高い知能なんて特に必要ありませんしね。
騙されながらぬるく幸せに生きるのか、ひりつくような自由を希求して生きるのか。あなたなら、どちらを選ぶでしょうか。
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