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おっさんだって、やりたいよ!

2024.04.03 公開 ツイート

「9歳の天才子役」vs「54歳のアングラミュージシャン」のガチンコ勝負。勝敗の行方は? スギム(クリトリック・リス)

収録で出会った9歳の男の子。人生の先輩としてリードしてあげようと話しかけたものの……パンツ一丁で人生を歌う“サブステージの王様”クリトリック・リスことスギムのエッセイ連載第5回!

*   *   *

ラジオCMの声優をしました。

ラジオといえば我は週一でLuckyFM茨城放送の「ミッドナイトクレイジーラジオ」という音楽バラエティ番組でメインパーソナリティを務めてます。今回、そことは全く関係の無いCM制作会社の人から「オーディションに参加しませんか?」とメールがきて、自信はなかったけど時間があったんでダメ元で参加してみることに。後日届いたのはまさかの合格連絡。ウキウキしながら参加したものの、慣れない声の仕事は、ほんま大変でした。

 

 

CMは全部で10パターン以上もあって、録音にまる1日かかるスケジュール。

収録当日、制作会社に到着して待合室に通されると、既にスーツを着たおじさんと男の子が座っていた。おじさんは芸能プロダクションの人で男の子の付き添いで来ているらしい。男の子に年齢を聞いたらハキハキと「9歳で小学3年生です」と答えた。しっかりした子だ。

CMでは「謎のおっさん」と「無垢な子供」の心温まるやり取りが繰り広げられる。

我は「謎のおっさん」役なので、隣の男の子は「無垢な子供」役だろう。大人だらけで長時間に及ぶ収録に、こんな小さい子が大丈夫か?と心配になった。

イラスト:スギム

時間になるとスタジオに通され、クライアント、広告代理店の人、プロデューサーなど、CMに携わる人達を次々と紹介された。普段ノーフューチャーなバンドマンや底辺の酒クズばっかりと関わっているので、久しぶりにちゃんとした人達の前に出て緊張した。

「ミュージシャンのスギムです」と挨拶をした。こういう場では「クリトリック・リス」の名前は出さない方が賢明だ。ライブハウスの客から「存在そのものがセクハラだ!」と言われたことがあり、今回提出したプロフィールにはクリトリック・リスとバレるようなことは一切書かなかった。制作会社の一部の人は知ってるが、クライアントには伝えていないはずだ。どこの企業が社運を賭けたCMにリスキーなタレントを使う? 仕事を終えるまではパンイチで暴れ回る変態キャラは封印し、常識ある人物として通すのだ。

 

まず年配のプロデューサーから、オーディションで我と男の子が選ばれた理由が明かされた。

「昔はハリウッド映画の子供役の吹き替えは、子供の声が出せる大人の声優を使っていた。でも『E.T.』で初めて子供役と同じ年頃の子を使ってそれが素晴らしかった。今回はその感じを目指そうと思って、キャラに合った年齢の方を選ばせてもらいました。」

んんん?……?「イー ティー オウチ…」の有名なセリフは何となく憶えてるけど、子供の声までは憶えていない。7歳の孫悟天の声を87歳になる野沢雅子さんが演じていても全く違和感を覚えないように、声を聞いただけで声優の年齢までは想像できないのでは。ピンとこないなぁ。きっとプロデューサーの意図は、役に合わせて演技をするというより、自然体でやってくれって事なんだろう。隣を見たら男の子は「なるほど」と言うように頷いてた。54歳の我でも理解に苦しんだのに子供に分かるわけねぇだろ! 君、さては「知ったか」してるなぁ?

 

収録の時間となり我と男の子の2人は、防音の録音ルームに通された。大きなガラス窓の向こう側に居るプロデューサーの指示をヘッドフォンで聞く。我は演技の勉強をした事がないけど何度か映画にも出てるしこの子より6倍も生きてる。リードしてあげなくてはいけない、お手本にならないといけない、という使命感と責任感があった。だがそんな考えは無用だった。

男の子はプロデューサーからの「静かに泣く演技を3パターンください」という難しい指示にも見事に応えた。①好物のハンバーグが食べられなくて泣く。②道に迷って泣く。③大切なペットと別れることになって泣く。セリフ無しでシクシク泣くだけなのに3パターンを演じ分けてみせた。

凄い!しかもこの子は自分が天才ということを自覚していて自信を持っている。プロデューサーからオッケーが出た時のドヤ顔は9歳とは思えないプロの顔だった。

「では次、スギムさんお願いします。」

ダメだ……。何回やってもどれも同じになる。泣くにバリエーションなんて出せない。全てのパターンが子供に完敗した悔し泣きになってしまう。

我が苦戦している中、ふと横を見たら、彼はなんとデスクにうつ伏せになり寝ていた。とんでもない大物だ。

 

休憩中も男の子と2人きりだった。不安にさせまいと積極的に喋りかけた。「演技うまいね。やっぱり将来は俳優を目指してるの?」って聞いたら、キッパリと「僕はもう俳優です」と返された。

「あっ、あぁ…ごめんね。失礼なことを言うてもうたね。実は、おじさんもテレビに出たことがあるし、何本か映画にも出たよ」と共通のネタで話を盛り上げようとしたら「僕はこの間、朝ドラに出ました。今まで映画に出た数は…えっと…1、2、3…」と指を折り始め、「あーー多すぎて分からないやー!」と強烈なマウント返しに遭ってしまった。

話が続かなかったので次は「最初プロデューサーからE.T.の話をされたけどよく分かんなかったよね?」と切り出したら「E.T.は観たことないけど、スターウォーズなら分かります」と。いやいや、スターウォーズなんてどうでもよくって、難しい例えだったよね? と同じ気持ちを共有したかったんだよ。

言葉を交わすたびに「子供だからといって舐められたくない」という彼のプライドがビンビン伝わってくる。サッカーが好きらしく、聞いたこともない海外選手の名前をペラペラと得意げに挙げていく。我が9歳の頃はウルトラマンの怪獣を憶えるのに必死だった。令和と昭和ではここまで違うのか? それともこの子が特別にませてるのか? どちらにせよ末恐ろしい子だ。

 

密室の中で長い間ずっと男の子と2人っきりだったので、トイレに行った際、1人になれたという開放感もあって小便器の前でチンチンを出した瞬間、「悔しぃーーっ!」と思わず声が漏れてしまった。

その時、ガチャ!っと扉が開いた。ヤバっ!今の声を聞かれたかも? 入って来たのはクライアントだった。隣の小便器にきて「Wikipediaであなたの事を拝見しましたよ。面白いですね」と言われた。うわっ!ヤバっ!クリトリック・リスのことバレてたやん!

焦りながら「こんな僕なんかを使って頂いて、本当にありがとうございます。」チンチンを握ったまま頭を下げた。

クリトリック・リスを知った上でCMに使ってくれるとは、なんて理解のある会社だろう。株価上がれ!

 

男の子のパートは我より先に終わった。スタジオにお母さんが迎えに来てた。上品で我よりずっと若くて綺麗な方だ。親の遺伝子は子供に宿るんだな。我は酒と女が好きなハゲ親父の遺伝子を確実に受け継いでいる。

笑顔で手を振って去っていく男の子は、仕事を終えて普通の9歳の子供に戻っていた。彼が将来有名になったら自慢しよう。しまった!サインをもらっておけばよかったな。

終わってみると苦労したことも忘れ、全て楽しかった記憶に塗り替えられる。CMの完成が楽しみだ。

 

情報の解禁や公開が決まれば、クリトリック・リスのXアカウント(@sugi_mu)で発表します。今後も音楽以外の分野であろうがチャレンジしていきたいのでお気軽にオファーください。反社との付き合いもないし法に触れるようなことは一切しておらず、クリーンなので担当様ご安心を。

クリトリック・リスという名前と、X上に泥酔した裸のおっさん達が登場するというリスクはありますけどね。

*   *   *

ライブ情報

4/7(日) 東京・中目黒スパークジョイ
4/13(土) 大阪・心斎橋ロフトプラスワンウエスト
4/19(金) 東京・新宿レッドクロス
4/20(土) 新潟・糸魚川山楽「宴会ライブ」予約:070-3517-7106(※10:00~20:00)
4/26(金) 奈良・ネバーランド
5/3(金)   東京・西永福JAM
5/4(土)   東京・渋谷ラママ    
5/6(月・祝)埼玉・熊谷モルタルレコード
5/7(火)  大阪・心斎橋パンゲア
5/12(日) 大阪・堺ファンダンゴ
5/17(金) 東京・高円寺無力無善寺
5/19(日) 兵庫・神戸カミングコーベ
5/22(水) 大阪・堀江vijon
5/25(土) 大阪・難波ベアーズ
6/1(土)  岡山・井原市hoshioto
6/2(日)  大阪・心斎橋火影    
6/9(日・昼)東京・池袋adm
6/12(水)  大阪・堀江vijon
6/15(土・昼)名古屋・鶴舞公園奏楽堂
6/16(日) 東京・渋谷やついフェス
6/23(日) 三重・四日市CLUB ROOT TIGET
6/24(月) 大阪・難波ベアーズ
7/6(土) 大阪・見放題ライブサーキット
7/7(日) 名古屋・見放題ライブサーキット
7/10(水) 東京・渋谷ロフトヘブン

チケット:フォーム予約

メディア出演

茨城放送ミッドナイトクレイジーラジオ 毎週土曜日22~23時 放送中

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おっさんだって、やりたいよ!

中年サラリーマンが酔った勢いで初ライブ、その後脱サラし各地のライブハウスやフェスのサブステージを湧かして回る。パンツ一丁で人生を歌う「サブステージの王様」、クリトリック・リスことスギムのエッセイ連載スタート!

バックナンバー

スギム(クリトリック・リス) ミュージシャン

ソロ音楽ユニット「クリトリック・リス」として活動中。

音楽経験のまったくなかった中年サラリーマンが酔った勢いで、行きつけのバーの常連客達とバンドを組むが、初ライブ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそになりパンツ一丁で楽器を持たずに行った即興パフォーマンスが、コミカルでありながらなぜか感動してしまうと話題となる。42歳で脱サラして以降は、全国のライブハウスをドサ回りしながら生活している。

X(Twitter): @sugi_mu
ライブスケジュール&予約: クリトリック・リス ライブ 前売り予約フォーム

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