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日本語の大疑問

2024.03.06 公開 ポスト

「来れる」「食べれる」…日本語教科書に「ら抜き言葉」は載せるべき?国立国語研究所

ことばのスペシャリスト集団・国立国語研究所が叡智を結集して身近ながらも深遠な謎に挑む、人気シリーズ第2弾『日本語の大疑問2』より、一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

外国人学習者にも「ら抜き言葉」を教えた方がいいのでしょうか

回答=金田智子

教えた通りに日本語を学ぶわけではない

次の言葉のうち、「ら抜き言葉」はどれでしょうか。

(1)帰れる

(2)しゃべれる

(3)眠れる

(4)着れる

 

一段動詞やカ変動詞の可能形が「~られる」ではなく、「~れる」となっていると、それらは「ら抜き言葉」と呼ばれます。この中で、「ら抜き言葉」は、(4)の「着られる」の「ら」がない「着れる」だけで、ほかはもともと可能形が「~られる」にはならない五段動詞です。

しかし、何を「ら抜き言葉」と呼ぶのかを実は知らない人、いつの間にか無意識に使っている人は、日本語を母語とする人の中でも少なくありません。

 

日本語教科書のほとんどは、動詞の可能形として、「ら抜き言葉」の「食べれる」「来れる」ではなく、「食べられる」「来られる」を紹介しています。そして、五段動詞の場合は「帰る→帰れる(kaeru+eru)」、一段動詞の場合は「食べる→食べられる(taberu+rareru)」というように、可能形の作り方を示しています。

ところが、学習者は教える側の期待通りに覚えるとは限らず、気が付くと「食べれる」「来れる」を使っていた、というようなことがしばしば起こります。

学習者にしてみれば、動詞の種類によって活用形を覚えるのは面倒なので、簡単に済ませてしまうということもあります。たしかに、「帰れる」がいいのなら、「食べれる」も大丈夫と考えるのも無理はありません。

日本語を教える教師と生徒のイメージ写真

そして、教室外での言葉の使われ方も、学習者の言葉の学び方に大きな影響を与えます。「食べれる」や「来れる」を使う日本人は多く、特に若年層の多くはそれらを「正しい」と認識しています*1。日本人に「おさしみ、食べれる?」などと問われることは多いでしょうし、学習者が「来れる」を会話で使っても、周囲の人に訂正されることはあまりないでしょう。

「ら抜き言葉」を学習者が使う危険性

このような現実を反映し、「ら抜き言葉」を紹介する初級教科書も国内外で出版されています*2。ただ、「この形もよく使われる」という紹介にとどまり、使うための練習はありません。

実は「ら抜き言葉」は、動詞によって使用率や「正しいかどうか」という意識に差があります。「食べれる」「来れる」などと違い、「考えれる」「信じれる」などは、使用する人も「正しい」と考える人も、それほど多くはないのです。その上、話し言葉に比べて、書き言葉での「ら抜き言葉」の使用率は高くありません。

 

そういった現状の中で、例えば、留学生がレポートに「……と考えれるが、……。」と書いた場合、読み手はどう思うでしょうか。この一言から、文全体が稚拙だという印象を持ってしまうかもしれません。先述した教科書には、必要な情報は提供するが、学習者が不用意に「ら抜き言葉」を使うことから生じうる、このような危険性は避けよう、という作成者の意図がうかがえます。

言葉の変化、地域差などはどの言語にも存在しますが、だれもがそれを自覚しているとは限りません。日本語学習者にしても、日本語についてはもとより、自身の母語についても変化や異なりを意識したことがないという人もいるでしょう。

「ら抜き言葉」は教えない、と決めることも一つの方法ですが、これをきっかけに、日本語を学習する人もそれを助ける人も、自らの規範意識や言語の使用実態に気づき、何をどう使用するかを考えることもできます。そうすることは、双方にとって、言葉に対する理解を深めるための貴重な機会となるのではないでしょうか。

 

*1─旺文社生涯学習検定センター(2002)「『第3回ことばに関するアンケート』集計結果」『生涯学習検定ニュース』VoL.5

*2─坂野永理ほか(1999)『初級日本語 げんきII』The Japan Times

*文化庁文化部国語課(2016)『平成27年度 国語に関する世論調査』財務省印刷局

 

金田智子(かねだ・ともこ)…学習院大学 文学部 教授。専門は日本語教育、教師教育。日本語教師というのは、教室の内外でどんな役割を果たしているだろうか。どのような力が必要か。授業を分析し、養成・研修の場で様々な人とやりとりをしながら、これらの問いを自分自身に投げかけ続けている。

関連書籍

国立国語研究所編『日本語の大疑問2』

ふだん自由自在に扱っている(ように感じる)日本語なのに、一旦気になると疑問は尽きない。漢字から平仮名を生み出したのはいったい誰? 「稲妻」はなぜ「いなづま」ではなく「いなずま」か? 「1くみ」「花ぐみ」など「組」が濁ったり濁らなかったりする法則とは? ()【】『』といった多くの括弧をどう使い分ける? ことばのスペシャリスト集団・国立国語研究所が叡智を結集して身近ながらも深遠な謎に挑む、人気シリーズ第2弾。いたって真面目、かつユーモア溢れる解説で日本語研究の最先端が楽しく学べる!

国立国語研究所編『日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界』

毎日あたりまえに使っている日本語。だが、ふと疑問に思うことはないだろうか。 そもそも漢字はいつから日本にあるのか? 「シミュレーション」を「シュミレーション」とつい発音してしまうのはなぜだろう? 「確認させていただいてもよろしいですか」は乱れた日本語なのか? これまでの絵文字・顔文字とLINEのスタンプでは何が違う? ことばのスペシャリストが集う国立国語研究所が、国民の抱く素朴だが奥深い疑問に呻吟(しんぎん)しながら出した名回答を厳選。 日本語の教養をこの一冊でアップデート!

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国立国語研究所

昭和23(1948)年に、日本人の言語生活を豊かにする目的で誕生した、日本の「ことば」の総合研究機関。ことばの専門家が集まり、言語にまつわる基礎的研究および応用研究を行う。平成21(2009)年10月に大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所となり、大学に属する研究者とともに大型の共同研究・共同調査を行うなど、さらに活発な活動を展開。略称は国語研、NINJAL。webサイト「ことば研究館」内の「ことばの疑問」コーナーでよくある言葉の質問に答えている。

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