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1980年、女たちは「自分」を語りはじめた

2023.12.08 公開 ポスト

「ノーが言えない」上野千鶴子さんが河野貴代美さんの講座を受けた40年前の出会い河野貴代美

12月11日(月)19時より、40年来の友人であり、フェミニストの同志である、カウンセリングのパイオニア、河野貴代美さんと社会学者の上野千鶴子さんが「おひとりさまの老後を生きる」をテーマにオンライン講座を開催します。

開催を前に、2023年3月に発売された河野さんの著書『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』の巻末よりおふたりの対談の一部をお届けします。
(構成:安楽由紀子 写真:菊岡俊子)

脱医療化、社会モデルへの転換へ

上野 河野さんから私に問いかけたい疑問があるとお聞きしました。

河野 ええ。これまでたくさんのフェミニズム関連の叢書、全集が出ているけれども、その中にフェミニストカウンセリングという項目が入っていない。どうしてフェミニストカウンセリングが頭をかすめなかったのか。それがずっと疑問だと上野さんに言ったことがきっかけで、この本が始まっているんですけども。フェミニストカウンセリングの現場は徹底して臨床です。アカデミズムの中のフェミニズムは理論的な構築ですよね。そこをどう結びつけていくかは非常に難しい。私からすれば、社会学者は臨床心理学が嫌いなんだ、興味ないんだと思ってしまう。

上野 いくつか理由があります。1つは実験心理学と臨床心理学の間に格差があって、臨床心理学は二流の学問だと思われてきたことです。そもそも臨床心理学を教えている大学はすごく少ない。だから理論化があまりできていない。2つめは、カウンセリングには技法はあるが、理論はなさそうだという偏見です。カウンセリング業界から技法でもケーススタディでもない理論は生まれないのでしょうか。3つめ、フェミニストカウンセリングはアメリカ生まれのものをあなたが輸入したと私は思っていました。

私たちジェンダー研究者が『日本のフェミニズム』(岩波書店)を編んだ時のポリシーは、日本生まれのオリジナルなテキストであること、そして日本語で書かれたものという言語ナショナリズムでした。だから外国語で書かれたテキストも、日本語で書かれていても外国を対象としたテキストは採用しませんでした。アンソロジーを作るのは排除と選別のルールです。でも、今日聞いてびっくりしたのは、フェミニストカウンセリングのカリキュラムをあなたが完全にオリジナルで作ったということ。だとしたら理論化もできたんじゃないでしょうか。

河野 理論化をどう捉えるかってことによりますけどね。

上野 あなたが「セラピィ」という言葉を使わずに「カウンセリング」としたことはものすごく重要だと思います。フェミニストカウンセリングの理念である脱医療化、脱病理化をもっと鮮明に打ち出して、情報発信してくださったらよかったのに、と感じます。

私が持っているカウンセリング一般に対する偏見は、心理学的還元主義です。ジェンダーの問題を心というブラックボックスに還元することにつねに疑問を持ってきました。そこじゃないだろうと私が言うたびに、河野さんは「あなたの言う通り」と言ってきたけれども、そういう情報発信があったという手応えがありません。

河野 それはよくわかりました。フェミニズムなんだから、ケースは出せないにしても、情報発信しないことに意味がないですよね。フェミニストカウンセリングをフェミニズムの流れでわかってもらいたいという意欲があったかどうかと言われたらあまりなかったことは確か。

上野 今日改めてあなたの話を聞いて、ソーシャルワークからスタートしたところが腑に落ちました。だとしたらフェミニストカウンセリングも最後はソーシャルワークに戻るのではないでしょうか。ジェンダーの問題は心の問題ではなく構造の問題、個人の問題ではなく社会の問題です。そうした大きな理論的見取り図を示してほしいです。

河野 なるほど。

上野 それがないとは言いません。河野さんの著作にもそれらしいことはそこここに書いてありますが、もっとバシッと筋を通してほしかった。障害学が医療モデルから社会モデルにパラダイムシフトしたのは医療に対する大きなチャレンジでした。同じようにフェミニストカウンセリング業界から精神医療業界に対して大きなチャレンジができたはずなのに、なぜそういうムーブメントを起こせなかったか。

ジェンダーの病は明らかに社会モデルに依拠しています。医療モデルから社会モデルへ脱病理化してほしい。たとえばPTSDは完全に外因性ですから、本人に理由はありません。最終的には心の問題を社会化していくしかない。フェミニストカウンセリングもカウンセラーが制度リテラシーをきちんと身につけて、クライアントを制度的な支援に繋ぐというソーシャルワーカー的な働きをやってくれてたらいいのにと思いますが、その期待が満たされているように思えません。

河野 確かに、医療化に戻りつつある傾向はありますね。私もこの本を書いたのは、フェミニストカウンセリングは「フェミニスト」であり「カウンセリング」なんだということをもっとわかってもらいたいという思いがあります。

上野 では、まだ書き足りないことがあるとしたら次に書いてください。

河野 次(笑)?

上野 はい。今日は言いたい放題言わせていただきましたが、河野さんにもまだまだ言い分がありそうです。

河野 いいえ、とんでもございません。よくわかりました。ハグしたい。

上野 私がこれまでブツブツ言ってきたことがやっとわかってもらえてうれしいです。河野さんからはいつも「あなたは誤解している」と言われてきましたから、今日は「よくわかった」と言ってもらえて。

河野 そんなことはないでしょう。いつも同意してるじゃないですか。断定するから誤解が生まれるんですよ。今流行りの「~かな?」って言えばいい。

上野 「知らんけど」とか(笑)?
 

(写真:Unsplash/Andy T)

――お二人の出会いはいつですか。

河野 40年前、上野さんが「自己主張のトレーニング」に来た時ですね。私ね、すぐにこの人は自己主張できないとわかった。

上野 そう。80年代初めに、京都に河野さんがアサーティブ・トレーニング講座の講師にいらっしゃいました。私がその講座を「受ける」と言ったら、周りが「あんたがこれ以上、自己主張する必要なんてない」と笑いました。私は「何をおっしゃる。私はノーが言えない女です」と言いました。そして、河野さんの講座を受けました。「どうして受けたんですか」と聞かれて「私はノーが言えません」って言ったら、「そうでしょう」ってすぐにこの人は言いました。「わかるわ」って。なぜわかったのですか?

河野 話の中から、人に譲ってしまう他者優先の人だと思ったんです

上野 他者優先ではなく、「気配り」と言ってください(笑)。

河野 はい、はい。気配りね。ペラペラしゃべる人が必ずしも自己主張できるということじゃないと、これまでの体験として入っていたんです。

上野 その後、あなたがどんなに冷たいことを言ったか、覚えていないでしょう。

河野 なんて言ったの?

上野 「仕方ないわよね、だってノーが言えないんだから、自分で負担を背負えるところまで背負うしかないわね」って言われました。身も蓋もない言い分でした。

河野 それはその通り。でもその後、私に会うたびに、「だんだんノーが言えるようになりました」と報告を受けたんですよ。

上野 はい、おかげさまで。今日はずいぶん「ノー」を言いましたね(笑)。

河野貴代美さん×上野千鶴子さんオンライン講座
「おひとりさまの老後を生きる」

開催日時:2023年12月11日(月)19時~21時
場所:Zoomウェビナー

2024年1月8日(月)23時59分まで視聴可能なアーカイブを販売中です。詳細は、幻冬舎大学のページをご覧ください。

関連書籍

河野貴代美『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』

「このひとがいなかったら、日本にフェミニストカウンセリングはなかった。 最後の著書になるかもしれないと、明かされなかった秘密を今だから語り残す。」 ――上野千鶴子(社会学者) フェミニストカウンセリングは、「苦しいのは、あなたが悪いのではない」と女性たちへ「語り」を促し、社会の変化を後押ししてきた。 女性たちが語り、聞いてもらえるカウンセリング・ルームをはじめて作った創始者がエンパワーメントの歴史をひもとく。

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1980年、女たちは「自分」を語りはじめた

2023年3月8日発売『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』について

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河野貴代美

1939年生まれ。シモンズ大学社会事業大学院修了(MS)。元お茶の水女子大学教授。専門は、フェミニストカウンセリング、臨床心理学、フェミニズム理論、社会福祉。日本にフェミニストカウンセリングの理論と実践を初めて紹介し、各地におけるカウンセリングルームの開設を援助。後、学会設立や学会での資格認定に貢献。著書『自立の女性学』(1983年、学陽書房)、『フェミニストカウンセリング(Ⅰ・Ⅱ)』(新水社、1991/2004年)、『わたしって共依存?』(2006年、NHK出版)ほか、翻訳書に、P・チェスラー『女性と狂気』(1984年、ユック舎)、H・パラド他『心的外傷の危機介入』(2003年、金剛出版)ほか多数ある。

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