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1980年、女たちは「自分」を語りはじめた

2023.08.31 公開 ポスト

「あなたは誰?」と聞かれたら…“役割を離れた自分”を語ることへの日本女性の飢え【再掲】河野貴代美

日本ではじめて「女性解放」の視点での心理療法、フェミニストカウンセリングを実践した河野貴代美さんが、後進のカウンセラー加藤伊都子さんとともにオンライン講座「人生100年時代の女性の生き直し方~生きづらさから生きやすさへ~」を9月16日(土)に開催します。心理的苦難を抱える女性たちに「苦しいのは、あなたが悪いのではない」と「語り」を促し、社会の変化を後押ししてきたフェミニストカウンセリングの活動を河野さんの著書『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』よりご紹介します。

(写真:iStock.com/bee32)

カウンセリングを通して自己を語り、自己覚知を目指す

私が日本にフェミニストカウンセリングを持ち込もうとしたかについては、前述の「語り」へのこだわりとともに、別種の意図もあります。

フェミニズムの総合的実践や各論運動の実践にもまして、フェミニズムを底上げするためには、個々の女性の意識改革が、まずは性別役割分担を問い直すのに重要だと考えたからです。「そうは思っても、わかっていても、なかなかそうできない」事実はいうまでもありません。

女性解放運動の牽引者、フリダーンの著作の登場人物たちでも、あの本がなければ意識改革は難しかったでしょう。どの人の場合もインセンティブが必要ですし、米国の多くの女性には、そのうえにCR(女性の意識覚醒を目的にしたグループディスカッション)の実践がありました。個別にセラピィが必要だと思った時に、アクセスもあったのです。

わが国においては、根強い建前と本音という意識の二重構造があります。あまりにも意識せずにそれらを使い分けていれば、その乖離に気づくのも容易ではありません。そのためには私個人の体験からも、時間をかけてじっくり自分に向き合うカウンセリングという手法が最適であると考えました。

カウンセリングがどのように受け入れられるか、受け入れられないかは、まったく不明でした。「やってみるしかなかった」のです。2年分のオフィスの家賃を用意して、それまでにダメになれば、畳んでしまうしかない、と覚悟を決めました。

幾人かの仲間に私の意図を語り、1980年2月東京に「フェミニストセラピィ〝なかま〟」を創設した当初、日本では個人カウンセリングは現在ほど知られていませんでした。

幸いしたのは、その頃少しずつ主要メディアに女性が起用されはじめていた現状があり、さらにメキシコにおける1975年の第1回世界女性会議でメディアの女性たちと知り合ったことです。女性ジャーナリストはフェミニストカウンセリングの紹介記事をけっこう書いてくれました。

フェミニストカウンセリングという目新しさもあっただろうし、これは私の勝手な想像にすぎませんが、まだまだ圧倒的に男性社会のなかで働くことが大変だという現実に対して、ひょっとして自分もカウンセリングを受ける機会があるかも、といった気分が彼女たちにもあったのでしょうか。ともあれ、閑古鳥が鳴くかもしれないという懸念は払拭されたのです。

日本の同胞も、声をあげ、語り、聞いてもらうことに飢えていたことがわかりました。

「あなたは誰?」への答えを考えるカウンセリング

米国滞在中フェミニストセラピィ開業のことは伝聞しており、その目的についても大きな共感を寄せていました。残念ながら、私には、米国で実践する気持ちも機会もないまま、わが国での開業になりました。それでよかったと思っています。

米国では、本来カウンセリングはかつて就職相談の時に使われた用語だといわれています。より丁寧な相談といえるでしょう。現在米国では、就職相談は基本的にインターネットで行われます。もともと相談という言葉は、日本ほど広く使われておらず、一言でいえる英語もありません。使うとすればコンサルティングになるでしょうか。しかしこれはどちらかといえば、もっと実利的、現実的なノウハウを目指す実践のニュアンスがあります。

日本ではセラピィではなく、フェミニストカウンセリングと呼び換えました。その理由は、セラピィが治療という意味であるなら、フェミニストカウンセリングは治療を目的にしないからです。またカウンセリングのほうが理解されやすいからでした。しかし、お膝元の米国ではカウンセリングは使われず、フェミニストセラピィの用語は変わっていません。

ではカウンセリングとはどのような実践をいうのでしょうか。私見では、「あなたは誰ですか―who are you?」への答えを自分なりにカウンセラーと共に考えていく作業過程だということになります。要するにその人のアイデンティティを発見したり、見直したりする過程といってもよいでしょう。よく求められる健康保険証、運転免許証といったIDもそれへの重要な具体的答えの一つです。もっとも本書で使うID――アイデンティティは、そのような具体的な「何か」ではありません。

ここで読者にもお考えいただきたいと思います。

もし「あなたは誰ですか?」と問われたら、あなたの答えは?

なかなか困難であろうと思うからこそ、自問をお願いしたい。もちろん、名前、年齢、仕事、国籍等々、具体的な事項は挙げるのが簡単です。そんなことはわかっている、でもまだあなたが誰かはわからないとさらに問われたら? 

そう問われたのは実は私自身です。

*   *   *

続きは『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた』をご覧ください。

河野貴代美さん×上野千鶴子さんオンライン講座
「おひとりさまの老後を生きる」

開催日時:2023年12月11日(月)19時~21時
場所:Zoomウェビナー

2024年1月8日(月)23時59分まで視聴可能なアーカイブを販売中です。詳細は、幻冬舎大学のページをご覧ください。

関連書籍

河野貴代美『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』

「このひとがいなかったら、日本にフェミニストカウンセリングはなかった。 最後の著書になるかもしれないと、明かされなかった秘密を今だから語り残す。」 ――上野千鶴子(社会学者) フェミニストカウンセリングは、「苦しいのは、あなたが悪いのではない」と女性たちへ「語り」を促し、社会の変化を後押ししてきた。 女性たちが語り、聞いてもらえるカウンセリング・ルームをはじめて作った創始者がエンパワーメントの歴史をひもとく。

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1980年、女たちは「自分」を語りはじめた

2023年3月8日発売『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた フェミニストカウンセリングが拓いた道』について

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河野貴代美

1939年生まれ。シモンズ大学社会事業大学院修了(MS)。元お茶の水女子大学教授。専門は、フェミニストカウンセリング、臨床心理学、フェミニズム理論、社会福祉。日本にフェミニストカウンセリングの理論と実践を初めて紹介し、各地におけるカウンセリングルームの開設を援助。後、学会設立や学会での資格認定に貢献。著書『自立の女性学』(1983年、学陽書房)、『フェミニストカウンセリング(Ⅰ・Ⅱ)』(新水社、1991/2004年)、『わたしって共依存?』(2006年、NHK出版)ほか、翻訳書に、P・チェスラー『女性と狂気』(1984年、ユック舎)、H・パラド他『心的外傷の危機介入』(2003年、金剛出版)ほか多数ある。

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