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タイパの経済学

2023.11.08 公開 ツイート

宿題のタイパを追求すると「人に任せる」が最適解 お金を払ってでも効率を求める心理 廣瀬涼

「タイパ」と「コスパ」は同時に検討されることもあるようです。Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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宿題をやる目的は?

ここまで、動画の視聴におけるタイパについて論じてきたが、タイパは「宿題」を例に挙げるとわかりやすいだろう。

私たちは学生時代から数多くの宿題をこなしてきた。とくに夏休みの宿題は、夏休みが始まる前に問題集を終わらせる者もいれば、最終日に家族総出でなんとか終わらせる者もいたのではないだろうか。

疑うことなく与えられ続けてきた宿題。宿題をやる目的は何なのだろうか。

考えられる目的は2つある。1つ目は、宿題をすることで学力を高めたり勉強の習慣をつけることである。これは先生が宿題を与える理由であり、学生に期待していることである。問題を自分で解くこと(考えること)自体が目的なのだ。

2つ目は、宿題をやっていないことで怒られない(内申書に響かない)状態にすることだ。別に勉強に興味がない者にとっては、学力をつけたり、勉強の習慣をつけることを必要としないため、目的にはならない。ただ、宿題を提出しないことで先生にとやかく言われたり、怒られることがわずらわしい場合、宿題を終わらせておく必要がある。ある意味、宿題を終わらせておくことはリスクマネジメントになるわけだ。

この場合、宿題を終わらせておくことが目的のように見えるかもしれないが、提出が求められなかったり、終わらせてなくても怒らない先生ならば、宿題を済ませておく必要はない。本当の目的は「(宿題をやっていないことで)怒られることを回避する」ことにあり、先生との不快なコミュニケーションを回避したいのだ。

 

さきほど、コンテンツを媒介にコミュニケーションがとられるため、コミュニケーションツールとしてコンテンツを消費しなくてはならないと述べたが、これに性質は似ている。宿題が済んでいれば不必要に怒られないため、不快なコミュニケーションをとらないためには宿題を終わらせておく必要があるのだ。

 

(1) 宿題をすることで学力を高める。勉強の習慣をつける
→ 問題を解くこと自体が目的となる

(2) 宿題をやっていないことで怒られない(内申書に響かない)状態にすることが目的となる(リスクマネジメント)
→ 宿題を終わらせた状態にしておく手段は複数ある

 

ここまでを整理すると、(1) が目的ならば、どれだけ時間をかけて済ませてもとくに問題はない。むしろ時間が長いほうが試行錯誤を重ねたり、考察を深めることができるため、宿題をすることで学力を高めたり、勉強の習慣をつけるという目的達成に近づく。

しかし、(2) は怒られないことが目的であり、そのために宿題が済んでいる状態を作っておく必要があるにすぎない。そのため、宿題を終わらせた状態にしておく手段は複数ある。

タイパを追求するなら「人にやらせる」が最適解

(2) でタイパを追求するのならば、愚直に問題を解くことはタイパが悪い。答えを写せば、自分で思考する手間も時間も省けるため、タイパはよくなる。さらに人にやらせれば、自分が写す手間も省けるため、自身にかかるコストは皆無といえる。

ただ、脅されたりしない限り、好きこのんで宿題を代わりに写してくれる変わり者などいないだろう。そこで、「ジュースおごるから」「500円あげるから」と、代わりに写させることへの対価を支払おうとする者もいる。タイパを追求するために、本来宿題をするうえでかかるはずのない金銭的なコストを発生させてまでも、時間の効率性を追求しているのだ。

ときには、500円でやってもらおうとしたけれど、600円ならやってやると予算以上の請求をされたりすることもある。金額と、実際に自分が答えを写す労力を比較した際に、600円なら他人に頼まないで自分でやるという決定をするかもしれない。

その場合、効率性と実際に発生する金銭的コストが天秤にかけられており、タイパと同時にコスパも検討されているといえる。いくら手間が省けるといっても割高だから、スーパーで下処理がされている食材は買わずに、そのままの食材を買うという消費行動と似ているかもしれない。

日常生活において、タイパを重視しないで主体的に消費する場合、その消費結果が目的となり、消費過程に意味がある。一方、タイパを重視する場合、消費過程はある状態になるための手段であるため、そこに意味を見出しにくい。どうすれば手間をかけずに済むかを、また手間をかけないことでかかる費用を考慮しながら、タイパを検討するのである。

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この続きは幻冬舎新書『タイパの経済学』でお楽しみください。

関連書籍

廣瀬涼『タイパの経済学』

Z世代を中心に、コスパならぬ「タイパ」(時間対効果)の追求が当たり前となった。時短とは異なり、「限られた時間でより多く」「手間をかけずに観た(経験した)状態になりたい」という欲求が特徴で、モノやコンテンツをコミュニケーションの“きっかけ”“手段”ととらえているという。背景にはサブスクの普及、動画のショート化などの環境変化と、「時間を無駄にしたくない」「いますぐ詳しく(=オタクに)なりたい」といった意識の変化がある。もはや純粋に消費を楽しむことはできないのか? 一見不合理なタイパ追求の現実を、気鋭の研究者がタイパよく論じる。

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タイパの経済学

Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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廣瀬涼

ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て2019年、ニッセイ基礎研究所に入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。昨今は自身の経歴を活かして若者(Z世代)の消費文化についても研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBSテレビ『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)がある。生粋のディズニーオタク。

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