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タイパの経済学

2023.10.26 公開 ポスト

映画は「鑑賞」から「消化」へ Z世代はネタバレで「効率的に消費」したい廣瀬涼

特に目的があるわけでもなく効率を重視して倍速動画やネタバレを見る――Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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「消費しなくてもよい」のに求められる効率

2020年、世界のデジタルデータの年間生成量は59ZB(ゼタバイト)を超え、2025年には180ZBに到達すると予想されている。私たちになじみ深いGB(ギガバイト)で換算すると「1ZB=1兆GB」となり、180ZBが途方もない数字であるとわかるだろう。昔よりも圧倒的に処理しなくてはいけない情報が増えているのだ。

「1日24時間」は変わらないのに、消費者はYouTubeをはじめとした動画プラットフォームやサブスク、SNS、あわせて従来のメディアであるテレビ、マンガ、ゲーム、雑誌、音楽も消費しなくてはならない。情報がありあまるなかで、時間的な制約が存在しているともいえる。

 

しかし、情報が溢れているからといって、それを必ずしも消費しなくてもよい。また、YouTubeやTikTokの視聴にしても、Twitterのタイムラインをさかのぼるにしても、私たちは惰性的に時間(情報)を消費している側面がある。目的を持って消費を行っているわけではなく、ただ流れてくるものを受動的に消化し、「明日も早いしそろそろ寝るか」「そろそろ最寄り駅だ」「頼んだラーメンが出てきた」と、消費(視聴など)をやめるきっかけも自発的というよりは外部要因によるもので、コンテンツの消費は行動と行動の間をつなぐ側面も大きくなっている。

明確な目的もなく、情報やコンテンツを受動的に浴びている現代の消費者は、なぜ時間の消費に対して効率性を追求するのだろうか。節約した時間は有効的に使えているのだろうか?

消費者は経済的制約があるなかで、「どうせ消費するモノなのだから」お得に済ませて、余剰を増やしたり、最大限の効用を得ようとすることは、合理的な消費行動といえるだろう。ざっくり言えば、コスパはお金に余裕がないから、お得に消費したいから追求されているわけだが、タイパは時間がないわけではないし、節約した時間を有効的に使うわけでもないのに追求されているのだ。

例えば、ジムに通ったり、能動的な趣味に使ったり、家事に回すなどといった目的があるわけではないのに、一般的に必要と思われる消費の過程すら省いてまでも、時間を節約しようとすることは合理的といえるのだろうか。

コンテンツが鑑賞(芸術)対象から消費(消化)対象になった

冒頭で述べた通り、タイパの概念が広く認知されるようになったきっかけは、若者を中心に行われていたファスト映画倍速動画視聴文化が顕在化したことにある。ファスト映画は映画の映像を無断で使用し、字幕やナレーションをつけて10分程度にまとめてストーリーを明かす違法動画のことで、著作権法違反で2021年6月に初めて逮捕者が出ている。

この若者の動画視聴方法の姿勢に関しては、前述の『映画を早送りで観る人たち』で深く論じられており、メディアでその問題が取り上げられるきっかけを生んだといえるだろう。日本トレンドリサーチの「WEB上の動画に関するアンケート」(2021年)によれば、ファスト映画の視聴経験がある人は全体の9.3%であった(そのうち「違法と認識したうえで視聴した」割合は15.6%)。

もちろん、著作権法違反であると認識している視聴経験者が素直に「ある」とは回答しないだろうが、それでも「ある」の割合は大多数とはいえないだろう。

 

しかし、読者の皆さんも以下のような経験はないだろうか?

  • ネット広告でたまたま目に入ってきたマンガの一部を読んで、課金したくないけど結末が気になるからネタバレサイトレビューを探す
  • ドラマや音楽番組を見逃したので、Twitterで検索して違法アップロードの切り抜き動画を視聴し、タイムライン上の話題についていこうとする
  • 映画視聴前にTwitterであえて他人の感想ネタバレ投稿を見てから、映画館へ足を運ぶ

これらの事例も、あえて内容を知るために著作権法を犯したり、あえて新鮮さを放棄してコンテンツの中身を知ろうとしており、ファスト映画と根底にある消費欲求は同じといえるだろう。

例えば、映画の楽しみは映像美、内容、役者の表情、音楽、など、さまざまな要素が挙げられるだろうが、それらを全部無視して、要約されたコンテンツを消費するということは、端的に言えば初見の感動を放棄してまでもタイパを追求していることになる。

それは映画の楽しみそのものを放棄することになるわけで、内容を知ったうえで視聴したり、倍速で視聴したり、そもそも内容だけ知って観た気になるという消費行動そのものはまぎれもなく非合理的な行動といえるだろう。

でも、その非合理的なことが求められてしまっている。これは、コンテンツが鑑賞(芸術)対象から消費(消化)対象になっているからに他ならない。

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この続きは幻冬舎新書『タイパの経済学』でお楽しみください。

関連書籍

廣瀬涼『タイパの経済学』

Z世代を中心に、コスパならぬ「タイパ」(時間対効果)の追求が当たり前となった。時短とは異なり、「限られた時間でより多く」「手間をかけずに観た(経験した)状態になりたい」という欲求が特徴で、モノやコンテンツをコミュニケーションの“きっかけ”“手段”ととらえているという。背景にはサブスクの普及、動画のショート化などの環境変化と、「時間を無駄にしたくない」「いますぐ詳しく(=オタクに)なりたい」といった意識の変化がある。もはや純粋に消費を楽しむことはできないのか? 一見不合理なタイパ追求の現実を、気鋭の研究者がタイパよく論じる。

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タイパの経済学

Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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廣瀬涼

ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て2019年、ニッセイ基礎研究所に入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。昨今は自身の経歴を活かして若者(Z世代)の消費文化についても研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBSテレビ『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)がある。生粋のディズニーオタク。

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