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タイパの経済学

2023.10.27 公開 ツイート

映画館に足を運ぶのはタイパが悪い?! 若者の映画鑑賞は「いつ」観るかより「どう」観るか 廣瀬涼

「損」をしたくないから映画館に行くのは非効率――Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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お金も時間も「損」をしたくない

お金や時間をわざわざかけたのにつまらない役に立たないという結果が生まれると、若者はそれを「」をしたと解釈する。若者の言う損とは、従来の費用対効果に見合わない消費結果に加えて、その消費を行ったことで発生する他の消費機会の損失、(自分に関係なくても)他人だけが得をしている状態など、消費によって生まれる負の影響のことを指す。

「こんなつまらないモノを消費しなければ、他の楽しいモノが消費できたかもしれないのに……」「みんなはタダでもらっているのに、私は定価で買ってしまった……」など、実際に損失が生まれていなくても、マイナスな感情に働くことを避けたいと考え、損を回避することが消費を決定づける大きな要因になっているわけだ。

若者が映画、とくに映画館での視聴経験に対して抵抗感を示す理由としては、以下のようなものが挙げられる。

  • 映画料金を払う余裕がない(他のコトに使いたい)
  • おもしろいかわからない映画に時間もお金もかけたくない
  • 鑑賞中、他のことができないことに対するストレス(マルチタスクで情報を消費したい)
  • 予期しない感情の起伏を得ることがストレス(だからネタバレを好む)
  • テレビでもリアルタイム視聴以外にTVerやサブスクがあり、時間のコントロールは消費者側にイニシアティブがあるのに、映画館の上映時間に予定を合わせたり、途中で止めたり飛ばすことができないといったように、コンテンツ側に時間のイニシアティブがあることが不便
  • 劇場公開から配信までの期間が短くなっている昨今、わざわざ足を運んで映画館で視聴する動機がない

映画鑑賞は若者にとって、タイパ的にもコスパ的にも決していい消費対象ではないがゆえに、「いつ観るか」よりも「どのように観るか(消費するか)」がまず消費者にとっての関心事となる。いかにお金をかけずに視聴するかといった視聴媒体の検討や、ファスト映画倍速視聴など、いかに「損に対するリスクを軽減できるか」という手段にばかりに気がいってしまうのだろう。

ある女子高生の視聴習慣

日常生活を振り返ってみてほしい。好きなドラマや最近観た映画、スポーツの結果やテレビで紹介されていた話題のフードまで、私たちのコミュニケーションはコンテンツをベース(媒介)に行われることがほとんどだ。まだテレビが主たるメディアだった時代は、人気テレビ番組があり、それを観なければ次の日の話題に乗り遅れると言われたものだ。

現在はテレビに限らず、さまざまな娯楽(コンテンツ消費の仕方)があるため、交友関係や所属するコミュニティによってコミュニケーションのフックとなるコンテンツが異なり、コミュニケーションをとるうえでさまざまなコンテンツを消費しておくことはある意味ノルマとなっている。

以下は、日々のコンテンツ視聴習慣について筆者がある女子高校生にインタビューしたものだ。

  • 家庭ではテレビ番組の話題をベースにコミュニケーションがとられており、リアルタイムの放送やTVerを利用して視聴している
  • 親友からおすすめのアーティストを紹介されれば、YouTubeでMVを検索したり、音楽のサブスクでプレイリストを再生し、音楽に触れる
  • 学校のクラスでは「ブレイキングダウン」が流行っていて、本編を観るためにABEMAを利用したり、SNSに投稿されている切り抜き動画から情報を収集している
  • Twitterで3つの趣味アカウントを持っていて、ディズニーの趣味のためにDisney+を、YouTuberコムドットを観るためにYouTubeを、巨人の試合を観るためにDAZNを利用している
  • インターネット上で拡散され流行するネタや画像・動画をはじめとしたネットミームや話題の時事ニュースを観たり、TikTokでトレンドになっているテレビの切り抜きなどを視聴することでSNS上のトレンドを消化している

彼女に限らず、読者の皆さんを含めた現代消費者のほぼすべてが、実社会、オンラインにかかわらずコンテンツの視聴を前提としたコミュニケーションをとるという経験をしているのである。要するに「○○を観た(消費した)」という状態があったうえでコミュニケーションがとられるわけである。

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この続きは幻冬舎新書『タイパの経済学』でお楽しみください。

関連書籍

廣瀬涼『タイパの経済学』

Z世代を中心に、コスパならぬ「タイパ」(時間対効果)の追求が当たり前となった。時短とは異なり、「限られた時間でより多く」「手間をかけずに観た(経験した)状態になりたい」という欲求が特徴で、モノやコンテンツをコミュニケーションの“きっかけ”“手段”ととらえているという。背景にはサブスクの普及、動画のショート化などの環境変化と、「時間を無駄にしたくない」「いますぐ詳しく(=オタクに)なりたい」といった意識の変化がある。もはや純粋に消費を楽しむことはできないのか? 一見不合理なタイパ追求の現実を、気鋭の研究者がタイパよく論じる。

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タイパの経済学

Z世代を中心とした意識の変化を分析する幻冬舎新書『タイパの経済学』より、内容を抜粋してお届けします。

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廣瀬涼

ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て2019年、ニッセイ基礎研究所に入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。昨今は自身の経歴を活かして若者(Z世代)の消費文化についても研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBSテレビ『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)がある。生粋のディズニーオタク。

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