
インターネットに氾濫するデマや誤情報にだまされることなく、正しい情報を得るにはどんなことを心がければよいのでしょうか。新刊『事実はどこにあるのか 民主主義を運営するためのニュースの見方』を発表した、ジャーナリストの澤康臣さんは、お金を払って「紙の新聞」を読むことをすすめます。なぜ、いまの時代にあえて「紙の新聞」なのか? 長年、記者として活躍してきた澤さんだからこそ語れる、深い理由を教えていただきました。
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ネットのデマにだまされない方法
── インターネットには、デマや誤情報がたくさん混ざっていると思うのですが、本当に必要な情報を見きわめるにはどうしたらよいのでしょうか。

もっとも大切なのは、出典を見ることです。ツイッターでも、フェイスブックでも、「この情報はどこから来たのか?」を考えるようにしてみてください。
投稿した人は信用できる人なのか? ウイルス学のなんとか先生が言っていたというなら、その人は本当に専門家なのか? 厚生労働省が発表しているというなら、それは本当なのか? 調べることはできますよね。
その意味で、「ある専門家が言っていた」など、出典をごまかしている情報には注意が必要だと思います。調べてくれるな、と言っているようなものですから。映像でいえば、モザイクがかかっているようなものです。モザイクの向こうには全然関係ない人がいた、ということがないとは言えません。
── 他にはありますか?
一つひとつの情報が正確かどうかと同時に、情報のバランスも考える必要があると思います。インターネットは、自分が興味のあることを深く突きつめていくには、最強のツールでしょう。でも、興味のないことに目を向けさせるのは、ちょっと難しいと思うんです。
本屋さんに行くと、まったく知らないジャンルの本を、面白そうだなと思って手に取ることがありますよね。同じことを、ニュースでもやったほうがいいと思うんです。そうでないと、狭い世界のニュースだけくわしくて、それ以外のことは知らないということになりかねません。
人間というのは、何を知らないかを知ることはできません。知るためには、視界の広いメディアに触る必要があります。私自身、スマートフォンもスマートウォッチも使っていて、デジタルツールは大好きですが、視界の取りやすさでいうと、まだ紙に追いついていないところがあると思います。
紙の新聞を広げて読んでいる人は、ずいぶん減ってしまいました。けれども、全ジャンルをババっと見るにはすごく便利なツールです。大事なことほど大きな見出しで書いてあるので、チラ見だけでどんどん入ってくる。もう少し時間をかければ、その次に大事なニュースも入ってくる。
私はこれを「見出しスキャン」と呼んでいます。一面から最後まで、順番にチラ見していく。短ければ5分もかかりません。紙の新聞は、時間コスパの面で見てもすごくいいツールだと思うので、みなさんにもおすすめしています。
ニュースの「有料化」が進んでいる
── でも、紙の新聞はとるのにお金がかかりますよね。となると、ニュースは無料で読めるものだけ読んで、お金をかけるならネットフリックスとかに課金したほうが楽しめるという人もいそうです。

おっしゃる通り、月に数千円となるとけっこう痛いですよね。できるだけ安く提供できるのが一番だと思います。しかし一方で、事実かどうかを確認するには、多くの人手を割かないといけないことがよくあります。ちゃんとやろうとすると、どうしてもコストはかかってしまうんです。
そこで現在、何が起こっているかというと、どこの新聞社もテレビ局も、これまでは無料でインターネットに記事を出していましたが、どんどん有料化が進んでいます。そうしないと、本当に持たなくなってきているんです。
ですから今後は、無料で読めるニュースは報道専業、あるいは報道を本格的にやっているメディアではなく、ローコスト・ノーコストの情報中心になってくると思います。
もちろん、それで十分という考え方はあるかもしれません。でも、無料のニュースだけを読むのは、社会人として生きていくうえで、かなりリスクがあるように思います。ただちに自分が得をするという意味でも、ニュースにお金を払うことは悪くないと思います。
もう一つは、この本の第一章で挙げたような不正を発見する社会のしくみの一つが、ニュースを出している報道機関だということです。そういうものが死に絶えてしまった社会よりは、存続して回っている社会のほうが、おそらく私たちが安心して生きられる社会だと思うんです。
そのための投資として、薄く広く、できるだけ多くの人で支えていくのは意味があることではないかと思っています。
── 今回の本のサブタイトル「民主主義を運営するためのニュースの見方」に引きつけて言えば、民主主義の運営資金だと思えばいいのかもしれません。
運営資金というのは、いい言葉ですね。「民主主義とジャーナリズムはともに栄え、ともに滅びる」という言葉があります。民主主義のコストにはいろいろありますが、そのうちのささやかな一部は、パーフェクトではないにせよ、まともな報道が回っているようにすることに払ってもいいのではないでしょうか。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】澤康臣と語る「『事実はどこにあるのか 民主主義を運営するためのニュースの見方』から学ぶ情報の扱い方・受け取り方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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