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大人の読解力を鍛える

2023.05.08 公開 ツイート

アウトプットを意識してインプットの精度を高める「瞬間要約力」トレーニング 齋藤孝

社会人にとって必須のスキルをひとつ挙げるなら、やはり「コミュニケーション力」ではないでしょうか。明治大学文学部教授で、テレビでもおなじみの齋藤孝さんの著書『大人の読解力を鍛える』は、行間を読む、感情を読む、場の空気を読む、想像力を働かせて相手の心情を察するといった、コミュニケーション全般のスキル向上をめざす社会人必読の一冊。その中から一部を抜粋してご紹介します。

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スピーディーに本質をつかむには?

もっとも身近な論理的文章の宝庫とも言える新聞記事を、読解力の養成に活用しない手はありません。新聞記事の読解に求められるのは、文学作品のように自己投影したり、感情を推察するのではなく、長く詳細に書かれた文章を「さっと読んで」「すっと要約して」「ぱっと発表する」というスキルです。

(写真:iStock.com/BrianAJackson)

スピーディにインプットして、スピーディに本質を抽出して、それをアウトプットできる能力。これを私は、瞬間的な要約という意味で「瞬間要約力」と呼んでいます。

この瞬間要約力を鍛えるために、私は大学でも新聞を教材に使った授業を行っています。

 

学生たちには、まず「新聞要約ノート」をつくってもらいます。それ専用にノートを1冊用意して、見開きの左ページに気になった新聞記事の切り抜きを貼り付けます。次に、対向面となる右ページにその記事の要約と、その記事を選んだ理由、記事に関する意見や感想などのコメントを書き込みます

そして授業の際に、学生を何人かのグループに分け、それぞれが自分の要約ノートを基にしてピックアップした記事の要約を1分程度で発表し合うのです。

この方法の応用版で、本の一節を読んで内容を要約し、簡潔にスピーチするというトレーニングもあります。本の場合には、理論的な記述が多い新書を使って行っています。

学生たちには、それぞれ気に入った新書を持参させ、二人一組のペアにしてお互いの本を交換します。次に、1分なり3分なり5分なりと制限時間を決めて、相手が持参した新書をザッと読んでもらいます。

時間が来たら、書かれている内容を自分なりに要約して、お互いに説明し合うのです。

慣れるとみんなできるようになる

「新書1冊を3分で読んで要約して話す」という課題は、無理難題のようですが、慣れると、みなそれなりにできるようになります。瞬間要約力を体感できるトレーニングです。この力は、書店でどの本を買おうか迷っているときにとりわけ実践的に試せます。

(写真:iStock.com/Pranithan Chorruangsak)

本ではなく、「これから私が話す内容を要約して、〇分間で隣の人に説明してください」といった、聞いた話の要約と発表にチャレンジしてもらうこともあります。

この課題のポイントは、新聞にせよ、新書にせよ、誰かの話にせよ、その内容の最重要ポイントを見極め、簡潔に要約し、さらにそれを手短にアウトプットするところまでを行うという点にあります。

 

最初は要領がつかめずに苦労する学生も大勢います。でもアウトプットすることが前提となると、インプット、つまり読解の真剣度合いも精度も大きく違ってきます。

「要約して人に伝える」という意識を持つことで、読み方にも変化が表れてきます。ただ読むのではなく、「結局、何が重要で、何を伝えたいのか」を考えて読むようになる。その姿勢でトライを繰り返すことで、次第にポイントを外さない的確な要約と発表ができるようになっていきます。

この瞬間要約力トレーニングのいいところは誰でも簡単に取り組めるという点です。新聞記事の要約ノートをつくるのが面倒なら、適当な記事を読んでそれを要約し、時間を決めて自分の言葉で誰かに説明してみるという方法でもかまいません。

重要なのはアウトプットを前提にして読みの精度を高めることなのです。

関連書籍

齋藤孝『大人の読解力を鍛える』

人間関係におけるトラブルの多くは、相手が「何を伝えたいか」「何を言いたいか」を正しく理解できていないことから発している。情報が複雑に飛び交う現代だからこそ、言葉を、言葉の集合体としての情報を、正確に読み解く力が不可欠なのである。本書では具体的なテキストを挙げながら、行間を読む、感情を読む、場の空気を読む、想像力を働かせて相手の心情を察するといったコミュニケーション全般のスキル向上を目指す。社会人必読の一冊。

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大人の読解力を鍛える

社会人にとって必須のスキルをひとつ挙げるなら、やはり「コミュニケーション力」ではないでしょうか。明治大学文学部教授で、テレビでもおなじみの齋藤孝さんの著書『大人の読解力を鍛える』は、行間を読む、感情を読む、場の空気を読む、想像力を働かせて相手の心情を察するといった、コミュニケーション全般のスキル向上をめざす社会人必読の一冊。その中から一部を抜粋してご紹介します。

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齋藤孝

1960年、静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。『身体感覚を取り戻す』で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。『15分あれば喫茶店に入りなさい』『イライラしない本』など著書多数。累計発行部数は1000万部超。

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