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文化系ママさんダイアリー

2008.11.01 公開 ポスト

第十九回

モヤモヤ育児雑誌クルーズ(2)「日経Kids+」堀越英美

 知人のパパさんによると、「父親向け育児雑誌はお受験かロハスばっかり」、なんだそうだ。お受験派の雄が「プレジデントファミリー」なら、競合誌の「日経 Kids +」はロハス派の代表格である。

「プレジデントファミリー」に先駆けること1ヶ月、(おそらくは日本初の)お父さんのための育児雑誌として創刊された「日経 Kids +」。創刊号(2005年12月号)の特集「子供の夢の育て方」からして、「プレジデントファミリー」のギトギトぶりとは比較にならぬさわやかさだ。第2特集の「子どもコーチング」では、キャッチボールの仕方から歯磨きの仕方や箸の持ち方の教え方までをDVD付きでお父さんにレクチャー。昔ながらのしつけもコーチングと言い換えればあら不思議、体育会系パパさんが腕まくりする姿が目に浮かぶようである。ゴルフの教え方を教えるななめ45°のコント「レッスンレッスンプロ」みたいだけど。

 その他の記事も、「親子のマナー講座」「子どもたちに直撃シリーズ こんなパパがかっこいい!」「山村留学日記 8kmの通学路」と、お勉強のべの字もない。頻出キーワードは「健康」「自然」「道徳」。

 しかしこの健全さが仇となったか、後発の「プレジデントファミリー」に部数で大きく水をあけられてしまい、2006年3月にはさらなる競合誌「AERA with Kids」も創刊。以降は、「子どもが輝くために親がすべきこと! 潜在能力を引き出す最強メソッド」(2006年4月号)、「学力を伸ばす個性を生かす最高の教育」(2006年6月号)と、徐々にお勉強ネタが増えていく。

 子どもに勉強させるにも、“教育パパゴン”にはなりたくない日経父さん。学習系の記事には、「ゲーム性を持たせて」「遊びながら」「親子で楽しめる」などの言葉がやたら目立つ。でもその学習法といえば、「新聞紙で一番大きな文字探し」、近所をぐるぐる回って「地図記号の意味や道路や川の役割を歩いて学ぶ!」、ねんどやビーズで漢字を作って「漢字アート」(2007年9月号)……普通に一人で勉強させたほうが早くないか? 文学知識の暗記術も教えてくれるのだが、何を思ったか「夏目みかんを石の代わりにポッチャンと池に投げた」「樋口一葉は葉っぱ1枚でたけくらべをした」「島の先(崎)の藤村は完全にハカイされた」とオヤジギャグ三昧(2008年3月号)。知識さえ覚えれば文学の中身はどうでもいい、という態度は「プレジデントファミリー」に一脈通じるところがあるけれども。

 お勉強はともかく、体育会系ネタ、自然ネタは「日経Kids+」の独壇場である。アウトドア特集となれば火のおこし方、ハンモック・釣り竿の作り方から教えるし(2007年9月号)、キャンプ料理のレシピはダッチオーブンで作る鯛の塩釜(2006年9月号)。「プレジデントファミリー」の食べ物ネタ「市販のカレールーを使ってひと工夫 頭がフル回転する 特製勝負カレーの作り方、食べ方」(2008年12月号)に比べると、一点の曇りもないスローライフぶりである。教育雑誌の定番・読書特集を組んでも、そのテーマは「体と心」「虫の観察」「生き物・自然」「生きる力」「星や宇宙」(2006年9月号)と、やっぱりロハス。「自然素材でアートを作る」(2007年6月号)では、木の実で人形を作るためにグルーガンまで買わせちゃう。夫婦仲が子どもの教育に影響するとあれば、<セックスレス夫婦は「耐震偽装の家と同じ!」>(2007年11月号)と、夜のキャッチボールも全力投球だ。

 そんなロハス父さんにトンデモの魔の手が忍び寄る。2008年3月号「早期教育vsスロー教育」特集で早期教育の教室として取り上げられているのは、“波動”でおなじみ「○田式右脳教育」。ロジカルシンキングを重んじるプレジデント父さんに比べて、日経父さんはトンデモに対する耐性が若干弱めなのかもしれない。ロハスな父さんの奥さんもやっぱり自然食品大好きのエコ母さんなので、連載記事「親子の幸せな食卓」には、「お気楽マクロビオティック」やら、○ムウェイの「魔法のレンジ」やら、マイナスイオンを出すと評判の食器やらが飛び出す。

 といっても、ツッコミどころはそんなもの。全体的には文句をつけがたい、ごくごく穏当な教育雑誌である。「もちろん勉強も大事だけど、子どもはのびのびとたくましく育つべき、ですよね?」と問われれば、「そうですね」と答えるほかないわけで……。でも自分が子どもだとしたら、日経父さんよりはプレジデント父さんに育てられるほうがマシな気がする。プレジデント父さんは学校の成績さえよければ放っておいてくれそうだけど、日経父さんはあちこち連れ回すわ、「ゲーム感覚で勉強しよう!」とオヤジギャグを暗記させようとするわ、ニュース番組を見ながら道徳について討論をふっかけてくるわ、ひたすら面倒くさそうだ。

 などとうがったことを思うのも、ほかならぬ私の父が体育会系だからかもしれない。唐突に「夏休みの自由研究は古墳にしろ!」と言われ、「なぜ今、古墳?」と問う間も与えられないまま古墳巡礼に付き合わされたことなどを思い起こしてしまう。勉強中に「大学受験で友達ができるのか! その点スポーツでできた友達というのは……」と理不尽に怒られたりもした。昔だったからその程度で済んだものの、持ち前の体育会系ガッツで「日経Kids+」の育児プランを全部実行された日には……と考えると心底恐ろしい。ああ、昭和生まれでヨカッタ。

 しかし自分の家庭を思い返してみても、教育パパゴンより体育会系パパさんのほうが数は多そうなのに、なぜ「日経 Kids +」は「プレジデントファミリー」に負けてしまうんだろう。

 そうだ、あれは今春定年退職を迎えた釣り好きの父のために、グローバルの包丁セットに男性向けの魚料理本や男の料理エッセイをつけて贈ったときのこと。プレゼントが本であることに、父は露骨にガッカリ。何度帰省しても、本は読まれた形跡がないまま母の部屋の棚に収まっている。そういえば、父がコミック誌と新聞以外の活字を読んでいるのを見たことがなかった。

 体育会系パパさんは字が苦手、これが「日経 Kids +」の一番の敗因のように思えてならない。もしも部数が低迷してお困りなら、お節介を承知でコミック誌にリニューアルすることをお勧めしたい。巻頭は「実録・清水國明物語」あたりで。 

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フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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