
2023年になった。
なんて未来的な響きなんだ。車は空を飛び、人々は少しだけ地面から浮いた状態で歩き、ネコ型のロボットが飛び回っていそうな、そんなワクワクするような西暦だ。
しかし、実際のところ、タイヤは相変わらず地を張っているし、せいぜいお掃除ロボットが家の中を這いずりまわっている程度の未来である。
※我が家にはそのお掃除ロボもおりません。全手動掃除機を使っています。

令和5年。お正月には妻の実家にも帰省し、親戚の子どもたちと久々に”凧揚げ”をした。多分、唐揚げ以外の物を揚げたのは小学生以来だ。(何で凧”揚げ”と書くのだろう。)
糸が撓まないように風を受けて走る子どもたちの笑い声は、僕が子どもの頃となんの変わりもない。
そして凧揚げに飽きれば、みんなで一つのテレビを囲って、大声を出しながら白熱するのだ。
マリオカートで。
これぞ日本のお正月。ビバ任天堂。
ファミコンからスーパーファミコン、ゲームボーイ、任天堂64、ゲームキューブを経て、ついに超進化型、任天堂ゲームSwitchへ。コントローラがワイヤレスになってるだけで、少年香川からしたら充分未来だ。未来過ぎる。
マリオは世代を超え、本当に色褪せない、文字どおりの名作である。
やや小さくなり扱いにくくなったコントローラーを握り締めながら、僕は2023年も平和なお正月を過ごさせてもらった。
願わくばこの平和な世界が、我が子が大人になる頃にも続いていきますように。
* * *
お雛様
娘のぴーちゃんはまだ寝返りもできないけれど、この数ヶ月で表情がとても豊かになった。何より、とても愛想が良い。親戚や友人に話しかけられれば『ニコリ』と微笑み、誰に抱かれても嫌がることもなくホクホクしている。我が子ながら末恐ろしい、愛され気質の魔性の女である。
記念撮影もニコニコ写ってくれるので、写真を撮るのもすこぶる愉しい。
色々と多感に反応してくれるので、なんでもない家族の行事や季節の行事が盛り上がる。
クリスマスやお正月も楽しかったし、2月になれば節分やバレンタイン。3月は桃の節句。4月はお花見、5月こどもの日……
なんだかんだ毎月イベントごとがあるし、少し気が早いけど今後入学式とか、発表会とか、
子どもが主役の行事も親として参加するのはなんだか楽しそうだ。
桃の節句といえば雛人形である。
地域性や、それぞれの家庭でのしきたりや、こだわりがあるのかもしれないが、うちの家族では”雛人形は母方の祖父母から贈られる”という文化があった。
僕には二つ上の姉がおり、実家に飾ってあった雛人形も、やはり母方の祖父母から贈られた物だったらしい。
妻の実家にも同じ文化があったので、先日、妻の両親がぴーちゃんのために雛人形を選びに連れて行ってくれた。
専門店に入ると、所狭しとさまざまな”雛壇”が展示されていた。僕にはまったく未知の世界だったのだけれど、色々な種類がある。

昔ながらの大所帯5段くらいの『段飾り』
2~3段の小規模な『出飾り』
2ペアになっている『新王飾り』
そのまま雛壇の台座に雛人形を仕舞える『収納飾り』
ガラスケースに入った『ケース飾り』
その他にも今風なテディベアが雛人形になっているタイプや、人気の職人さんが手掛けているような高級品もある。
人形も、人形に着物を着せた「衣裳着人形」と
木を彫って着物を模られた「木目込人形」がある。着物の種類も豊富だ。
ちなみにお値段はピンから、”すんごいピン!”までであるっ!
うちの実家に飾られていたような段飾りなんて、目玉がぼんぼりになりそうなくらいのお値段だった。
『嫁ぎ先のお家で娘に恥をかかせるわけには!』と、昔の人は随分と立派な雛人形を無理してでも贈っていたのではないだろうか。
考え方は人それぞれだけど、僕個人としては、あまり立派な雛人形は我が家には必要はないのではないかと思った。段飾りなんてそもそも置く場所がないし、お雛様とお殿様、2人いれば十分だ。高価なものを買ってもらうのは申し訳ないし、なんなら1番お安いやつで良いと申し出た。が、両親もそう簡単には許してくれない。
孫に贈るのだからと、大変立派で大きな物を薦めれる。今の元気な妻があるのもきっと雛人形のお陰なのだからと、ご両親にも熱い想いがある。
時代は変わったんです! お義母さま!!!
妻が元気に育ったのは人形のおかげなんかじゃなく、お義父さんお義母さんの愛情と汗と涙のおかげです!!
僕のごり押しで、どうにか小ぶりな物で堪えてもらうことにはなったものの、最終的に選んでもらったのはとても立派な物だった。台座がついた『収納飾り』タイプの雛人形である。
念のためぴーちゃんにこれでいいかと尋ねると、ニコニコと嬉しそうにお雛様を見つめている。気に入ったようだ。
『これは、女の子にとって、結婚するまでの守り神になるのよ。』

と義母。知らなかったけれど、雛人形って悪いことや病気から守ってくれる厄除けなのだとか。
その昔、幼い僕は姉の立派な雛人形の飾りの刀を振り回したり、勝手に座る位置変えたり、ざんざん遊び道具にしていた。(ごめん姉ちゃん!)
ぴーちゃんのことを守ってくれるのだと思うと、ものすごく有難い守り神が用心棒として我が家にやってくるような心強い気持ちになる。決して安鋳物ではないし、大切にしなければ。
そしていつの日かぴーちゃんが嫁にいき、僕にも孫ができたとき、今度は雛人形を贈る立場になるわけである。
え? ぴーちゃんが嫁に……? 許さん!!
キミに父さんと呼ばれる筋合いはない!
雛人形さん! どうか娘についた悪い虫を斬り捨ててください!

2023年。新しい物も文化も増え続けているのだと思う。多様性が尊重される時代でもある。男女のボーダーもなくなりつつあるこの世界で、女の子に贈る雛人形は今後も生き残っていくのだろうか。雛人形を作る職人さんや取り扱うお店が、どれだけ存在し続けるのだろう。
それでもきっと変わらない物や文化もあって、お正月のマリオカートのように少しずつ形を変えながらも色褪せずにちゃんと残り続けて行くのではないかと思う。
そこには必ず、大切な家族を想う愛情があるし、どんな未来でもきっと愛情そのものがなくなることはないはずだ。
相変わらず雛壇で騒ぐガヤ芸人のようなやかましい父親だけど、マリオやピーチ姫やお雛様と共に、娘を守っていく所存である。
さて、どこに雛人形置こうかな~。
娘が生まれてから全然やってないゲーム機を片付けて、雛壇に置き換えようかな。
歌ときどき旅、今は育休中

旅するシンガーソングライター香川裕光、このたび父になりました。ので、育休をとって、初めての子育てに七転八倒。愛あふれる家族エッセイの連載です。