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ニャタレー夫人の恋人

2022.11.13 更新 ツイート

『チャタレイ夫人の恋人』『ペスト』『変身』…本を読み続けた2年間 菊池良×五島夕夏 対談後半 菊池良

『チャタレイ夫人の恋人』『華麗なるギャツビー』『あぁ無情』など、一度は聞いたことのある世界の名作文学。その登場人物をネコにしちゃった! という、奇妙でかわいらしい作品『ニャタレー夫人の恋人 世界文学ネコ翻案全集』が発売となりました。

菊池良さんが「小説幻冬」で約2年間連載していたこちらの作品に、伴走してくださったのが、挿絵を担当した五島夕夏さんです。刊行にあたり、菊池さんと五島さんの特別対談を実施しました。前編に続き、単行本用の描き下ろしイラストのことから、絵本のことまで、自由にお話が広がった後編をお届けします。

撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

*   *   *

『ニャタレー』が文学の入り口になることを願って

菊池 取り上げてる作品は、事前にはどのくらい知ってましたか?

 

五島 3分の1くらいしかちゃんと読んだことなかったと思います。後から調べて、読ませていただいたものもあるんですが、例えば「にゃあ無情」は、以前『レ・ミゼラブル』を絵本にしたことがあって、そのときに編集者さんに「文庫版のこれを読みなさい」って言われて、読んでいました。

原作を読んでから『ニャタレー』を読み直すと、きれいに必要な所をピックアップして、前編後編くらいの文字数に収められているのが、すごいなと思いました。私がまとめようと思ったらこうはいかないって尊敬しています。いらないところ、結構バッサリ切られてるじゃないですか。でも原稿を読むと、絵を描く上で「あ、ちょっと入れたいな」って思う小物が出たりもして。

原作を読むきっかけをくださったという意味でもありがたかったです。それこそカフカの『変身』とか、虫になっちゃうやつでしょっていう知識だけだったので、『ニャタレー』をきっかけに原作を読んでみたら、こんなに生々しい虫の描写が長く続くんだって思ったりとか。文字なのに見たくなくなるって初めての感覚で。改めて文学を読む時間をもらえたなって思ってます。

 

菊池 よかったです。この作品は文学の入り口になればいいなって思って書いたので、うれしいです。

五島 最初、なぜこのシリーズを書こうと思ったんですか?

 

菊池 最初はほんとに語呂合わせですね。「チャタレイ夫人」と「ニャタレー夫人」っていう語呂合わせが浮かんで、あれ、ネコでやったらおもしろそうって。

 

五島 たしかに、ちょっといやらしい要素が毛づくろいに変わってたりとか、ネコにすると途端にすごくかわいくなりますよね。

 

菊池 「チャタレイ」と「ニャタレー」が最初にあって、それからいろんな文学をネコ化していくと面白いんじゃないかって思って空想した感じですね。

 

五島 最後に伏線が繋がったりとか、皆が集合したりとか、こんな上手にまとまるんだって思いながら、読みました。ちゃんと最後はニャタレー夫人ことコニーが主人公であるというところに帰ってきたりもして。

時代もほんとは、色々行ったり来たりしてるはずのに、どこか一つのお話としてまとまっているのが面白いです。

脳内では最初からカラーで動いていた

――単行本のカバーは「世界文学全集」っぽくしたいというご意向が菊池さんからもあって、それでデザイナーの大武尚貴さんと相談しつつ、五島さんにカラーイラストの描き下ろしをご依頼しました。

 

菊池 改めて本になると、いやあ、本当にかわいい。こういう額縁とか、コニーの周りの花とか、そういうのが昔の児童書っぽくってすごく好きですね。

 

五島 そうですね、肖像画っぽい感じですかね。

 

――ずっとモノクロで描いていたものをカラーに起こすのはいかがでしたか?

 

五島 モノクロとはいえ、最初からキャラクターについて毛色のことなどをお話していたので、脳内ではむしろカラーで動いていた感じはあったんです。

――あっ、そうだったんですね。

 

五島 むしろ初めてカラーに起こせて楽しいぐらいでした。

 

――このイラストは絵具で描かれているんですか?

 

五島 そうですね、全部、トールペイントっていう木に描く用の絵具を使っています。水を混ぜなくても柔らかめにできていて、割とどんな方でも使いやすいような絵具だと思うんですけど。もともとこういう風に書くのは好きだったので、提案してもらえてうれしかったですね。

 

菊池 ネズミもすごくいいですよね。

 

五島 実は帯を外すとその後ろに隠れてるのがかわいい。

 

――コニーとオリバーは全身でとか、そういう違いもかわいいですよね。

 

五島 そうですね、実はちょっとずつ瞳の色味とかも変えているんです。
オリバーはちょっとむくっとした、野生のネコっぽい体をしているので、その感じは全身の方が伝わるかなとか、考えながら描きました。

 

――モチーフも色々書いていただきました。

 

菊池 紅茶のセットとか。

 

五島 回想しながら、こんな回があったなとか懐かしくなりながら描きました(笑)。

 

――出来上がった本を手にして、いかがですか?

 

五島 デザイナーの大武さんのご指示も最初から明確ではっきりしていらっしゃったので、私は割とイメージ通りに出来上がったなあという印象です。

 

菊池 僕も思い描いた通りです。

 

五島 でも、これまでの菊池さんの作品からすると、新しい感じがしますよね。

 

菊池 そうだと思います。僕の本は毎回違うんですけど(笑)。『ニャタレー』は児童文学っぽさを出したかったので。

 

五島 たしかに。

 

菊池 そんなかわいらしさをいれつつ、世界文学の割と重めな話を展開するという。

 

五島 たしかにお子様が読んでも入り口としてはいいですよね。こっちがオリジナルになるくらいです。

愚直に原作を読んで、再構築し続けた2年間

――五島さんも『レ・ミゼラブル』の絵本を描かれたり、菊池さんはこれまでの作品がまさにそうですが、文学作品を自身の中に取り込んでアウトプットして、ということをされているお二人が出会われたんだなーと、お話を伺いながら思いました。

 

五島 そうですね。私は絵本を作ったときに、子どもに寄り添い過ぎるのもおこがましいのかもしれないと思ったんです。あえて大人の言葉のままがいいところもあったりして。

 

菊池 そこは、面白いし難しいところですよね。

 

五島 なので、菊池さんのこのかみ砕き力はすごいと思います。どうやって抜粋箇所を決めてこられたんですか?

 

菊池 愚直に原作を読んで、重要なシーンに付箋とか貼って、それで再構成する感じです。

 

五島 すごい。月刊連載でそれをやってらっしゃったなんて、読むって作業だけでも大変ですよね。

 

菊池 そうですね。この作品で取り上げた『チャタレイ夫人の恋人』『ペスト』『動物農場』『華麗なるギャツビー』『月世界旅行』『変身』などの海外古典もたくさん読みましたし、漫画原作の仕事で、日本文学の仕事もしてたので、本はたくさん読んでいました。

 

五島 そういえば、最初の打ち合わせの帰り道に、「これから今日芥川賞候補作を全作品読むんです」って言って別れたことを思い出しました(笑)。

 

菊池 ちょうどその時期でしたね。

 

五島 「え、何冊くらいあるんですか?」て聞いたら「たくさんあって」って。「あ、お疲れ様です」とか言って別れましたよね。そもそも読むこと自体もお仕事なんだなと思って。

 

菊池 芥川賞の本(『芥川賞ぜんぶ読む』)が出た後だったので、その次の最新の候補作を読むお仕事でした。誰が取るのか予想するとか、そういう仕事が来るようになって(笑)。

 

――芥川賞と言えば菊池さん、みたいな感じになってたんですね。

 

五島 読むスピードが上がりそうだ(笑)。

 

菊池 今も、新しい作品が発表されるたびに一応読んでいます。

 

五島 たくさんの作品を同時に読んでいると、登場人物がごちゃごちゃになったり、お話が重なってきちゃいそうです。

 

菊池 でも面白いですよ。今回取り上げた海外文学作品も、どれも内容が被ってないじゃないですか。だから、文学って何でも入る器なのかなって思いますね。

現在は絵本を年間1000冊読破中!

――次は何を読んでいらっしゃるんですか?

 

菊池 今は絵本をひたすら読んでいます。去年、絵本を1000冊読んだんですよ。仕事でも何でもないんですけど

五島 えええ、すごい! 思い立ってですか?

 

菊池 はい、思い立って。

 

五島 絵本は私も大好きなので、たくさん読んでいる方だと思うんですけど、多分1年で抜かされてると思う(笑)。

 

菊池 去年1000冊読んで、ああ疲れた、今年はもういいかなって思ったんですけど。

 

五島 絵本とはいえ、疲れますよね。それに絵本の方がおかしな描写があったりしますしね。

 

菊池 シュールだったりしますしね。でも6月くらいに、やっぱり今年も1000冊だと思って。今700冊まで来ました。

 

五島 それってどう選んでいるんですか?

 

菊池 ランダムです。目についたものとか、知っている作家さんとか。

 

五島 今のところ、すごく気に入った作品ってありました?

 

菊地 僕はお笑いとか好きなんで、大喜利系の絵本は好きですね。ヨシタケシンスケさんとか、長新太さんとか。

 

五島 わかります。私も長新太さん大好きです

 

菊地 「もしも~だったら」みたいなのは好きですね。あとは『あしにょきにょき』っていうただ足がただ伸びるだけの絵本。

 

五島 ちょっとシュールなのが好みなんですね。

 

菊池 そうですね。シュールで、あと物理法則とか無視するようなやつ。そういうのを読んで自分の発想に取り入れられたらなとか思いつつ。絵本自体も作ってみたいなとも思ってます。

 

――児童文学から絵本に、また年代がさらに下がりましたね。

 

五島 たしかに。

 

菊池 またジャンルが変わっちゃうんですけど。

 

――なんだか繋がりのあるお二人だったなあっていうことが、2年たって再度認識できましたね。

 

菊池 そうですね。五島さん、こういった月刊の挿絵の仕事っていうのは?

五島 人のお話にちゃんと毎月連載でって形は初めてでした。なので編集さんから「最終回が見えてきました」ってご連絡いただいたときに、あ、そうか、終わるんだ、みたいな。割と永遠に毎月の決まり事みたいな感じで描いていたので。そっか終わるんだな、いつかと思って。愛着がわいてるので、このお仕事が終わったとき、どうなっちゃうんだろうみたいな。

 

菊池 そうですようね。2年間、長かったなと自分では思います。だって2年って、もうすぐ高校卒業ですよね。

 

五島 子どもが歩き出すくらいの感じですもんね。

 

菊池 もう喋ってますよね。

 

五島 しかもいろいろと状況が目まぐるしく変わるような2年間でしたもんね。

 

菊池 改めて、2年間ありがとうございました。

 

五島 こちらこそ、ありがとうございました!

関連書籍

菊池良『ニャタレー夫人の恋人 世界文学ネコ翻案全集』

「ニャタレー夫人の恋人」 「華麗なるニャツビー」 「にゃあ無情」 「千夜一夜(せんにゃいちにゃ)物語」 「ニャン月記」…… どんな運命も、猫におまかせ。 ニャタレー夫人が案内する“猫文学”全12篇。 大ヒットシリーズ「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」の菊池良、海外文学を猫で解く!

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菊池良

1987年生まれ。作家。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著が累計17万部を突破する。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』などがある。

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