1. Home
  2. 社会・教養
  3. バイアスとは何か
  4. 恥ずかしいことをした自分は注目されている...

バイアスとは何か

2022.10.16 公開 ツイート

恥ずかしいことをした自分は注目されている「スポットライト効果」 藤田政博

「今日の服はイマイチだなあ……」という日ほど、人にジロジロ見られているような気がすること、ありませんか?

合理的判断を邪魔し、現実を歪んだ形で認識してしまう「バイアス」。もとは人間が生き残りに有利になるため受け継いできた心理的なフィルターですが、場合によっては差別を生んだり、裁判の結果に影響をおよぼす危険性もあるそう。この「バイアス」を実例や研究結果を挙げながらわかりやすく解説する新書『バイアスとは何か』より、一部を抜粋してご紹介します。

「自分は見られている」と過剰に思ってしまうスポットライト効果

セルフ・ハンディキャッピングで見たように、私たちは他者の目から見た自分の印象を考えて行動することがあります。それだけ、自分は他者から見られていると思っていて、それを気にすることがあるということです。

(写真:iStock.com/master1305)

たとえば、今日の服はいまいちだなあ……と思いながら職場に出かけていくことはないでしょうか。それを引け目に感じながら、同僚に会ってあいさつし、仕事に入ります。翌日、その同僚に「昨日の服装、イマイチだったんだけど、きょうは決まったよ!」といったところ、そもそも同僚は昨日の服装を覚えていなかった、ということはないでしょうか。

そんなとき、同僚がちゃんと見てくれていなかったことにがっかりするかもしれません。でも、それはあなたにスポットライト効果が起こっているからなのかもしれないのです。スポットライト効果とは、実際以上に他の人が自分に注目していると思うバイアスのことです。

 

この効果を確かめた次のような実験があります(Gilovich et al., 2000)。大学生の実験参加者を109人募り、そのなかからターゲットとなる学生15人を選びました。その15人には、1人ずつ実験控え室に来てもらい、バリー・マニロウという甘いマスクの男性歌手の顔が大写し(21センチ×24センチ)になっているTシャツを着てもらいます。このTシャツを着ると恥ずかしく感じることは事前調査で確認済みでした。この状態は、自分に注意が向いた状況を作り出します。

バリー・マニロウ『エッセンシャル・バリー・マニロウ

ターゲットとなる実験参加者がこのようになった状態で、実験室に案内されます。その部屋では、テーブルの向こうに他の実験参加者が4~6人ほど座っています。1人のターゲットと4~6人の観察者が、まるで面接の椅子のセッティングのように、テーブルを挟んで向かい合わせに座ります。

が、ターゲット参加者が座ろうとしたところで実験者に呼び止められ、廊下に連れ出されます。そして、次のように聞かれます。「テーブルの向かいに座っていた人たちには、あらかじめあなたのシャツに描いてある人を覚えておくようには言っていません。この状態で、何人の人があなたのシャツに描いてあった人を覚えていると思いますか?

 

もし、ターゲットの人が、観察者の人たちから自分が見られていると思っていれば、人数を多く答えるでしょう。その予想人数と、実際に観察者の人が何人覚えていたかを比べると、自分は注目されると考えすぎていたか否かがわかります。

この実験では、ターゲット参加者は、観察者のうち45%強が自分の着ていたTシャツの人物を当てることができると予測しました。しかし、実際にTシャツに人の顔が描いてあることを覚えていて、なおかつそれがだれかを当てた観察者は25%弱しかいませんでした。ターゲット参加者の予想の平均値と、実際の観察者で正解した人の割合は、平均して23%違っていたのです。

このパターンは、Tシャツに描いている人物を、着ていると恥ずかしく感じる人物ではなく、ボブ・マーリー(レゲエミュージシャン)、ジェリー・サインフェルド(コメディアン)、キング牧師(社会運動家)といった、着ていて誇らしく感じる人物に替えても同じでした。

この実験の参加者のように、私たちは自分の服装などを実際よりも他者から注目されていると思うバイアスがあります。

現実の状況に基づきつつ、それを自分よりに解釈したバイアス

あまりにもそう思い込みすぎると恥ずかしいことも起きそうですが、この研究では、スポットライト効果はある程度現実的状況に基づいていそうだということも述べられています。

(写真:iStock.com/jack_lisbon)

なぜなら 、ターゲット参加者の正解の予測値と、観察者の成績との間には有意な相関(r = 0.50)があったからです。つまり、観察者がターゲット参加者をまったく見ていなさそうなのにターゲット 参加者が高い予想値を回答したり、あるいはその逆に観察者がターゲット参加者をよく見ていたのに低い予想値を出すといったことはあまり起こっていなかったのです。

もし、現実とまったく関係なくターゲット参加者が正解率 を予測していたら、これほど高い相関係数は出ませんから、スポットライト効果は現実の状況に基づきつつ、かなりそれを自分よりに解釈したものと言えそうです。

*   *   *

この続きはちくま新書『バイアスとは何か』をご覧ください。

藤田政博『バイアスとは何か』

物事を現実とは異なるゆがんだかたちで認識してしまう現象、バイアス。それはなぜ起こるのか、どうすれば避けられるのか。本書では、現実の認知、他者や自己の認知など日常のさまざまな場面で生じるバイアスを取り上げ、その仕組みを解明していく。探求の先に見えてくるのは、バイアスは単なる認識エラーではなく、人間が世界を意味づけ理解しようとする際に必然的に生じる副産物だということだ。致命的な影響を回避しつつ、それとうまく付き合う方法を紹介する画期的入門書。

{ この記事をシェアする }

バイアスとは何か

「今日の服はイマイチだなあ……」という日ほど、人にジロジロ見られているような気がすること、ありませんか?

合理的判断を邪魔し、現実を歪んだ形で認識してしまう「バイアス」。もとは人間が生き残りに有利になるため受け継いできた心理的なフィルターですが、場合によっては差別を生んだり、裁判の結果に影響をおよぼす危険性もあるそう。この「バイアス」を実例や研究結果を挙げながらわかりやすく解説する新書『バイアスとは何か』より、一部を抜粋してご紹介します。

バックナンバー

藤田政博

1973年生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業、同修士課程修了。北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。政策研究大学院大学准教授などを経て、現在は関西大学社会学部教授。専門は、社会心理学、法と心理学、法社会学。著書に、『司法への市民参加の可能性──日本の陪審制度・裁判員制度の実証的研究』(有斐閣)、『Japanese Society and Lay Participation in Criminal Justice』(Springer)、『裁判員制度と法心理学』(共編、ぎょうせい)、『法と心理学』(編著、法律文化社)などがある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP