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バイアスとは何か

2022.10.23 公開 ツイート

「ゴレンジャー」の敵軍団は全員同じ格好「だから」悪者に見える 外集団等質性バイアス 藤田政博

戦隊モノの金字塔「ゴレンジャー」の敵軍団が、悪の集団であるとひと目で認識できるのには「バイアス」が巧みに作用しているそうです。

合理的判断を邪魔し、現実を歪んだ形で認識してしまう「バイアス」。もとは人間が生き残りに有利になるため受け継いできた心理的なフィルターですが、場合によっては差別を生んだり、裁判の結果に影響をおよぼす危険性もあるそう。この「バイアス」を実例や研究結果を挙げながらわかりやすく解説する新書『バイアスとは何か』より、一部を抜粋してご紹介します。

※記事初出時、タイトルに誤りがありました。訂正し、お詫び申し上げます(2022/10/25)

人は人を見た目で判断してしまう

人を見かけで判断することが多い私たち。その見かけは、物理的、身体的なものだけではなく、社会的、抽象的な見かけも関係があります。それはいわゆる「属性」というものです。たとえば、職業(Crowther & More, 1972)や収入の多さといった、見かけからはすぐにはわからなそうなものも、バイアスを生み出す源になっています。

それだけでなく、私たちは実は見た目から見えない属性を推測し、印象形成に使用しているのです。たとえば、顔のわずかな手がかりからその人の社会階層を推測することを示した研究があります。具体的には、魅力度、勤勉さ、積極性を評価し、それをもとに他者の所得水準などを推測し、それによって印象形成をしています(Bjornsdottir & Rule, 2017)。魅力度・勤勉さ・積極性のうち、印象形成の際に最も重視されるのが顔の魅力度です。

(写真:iStock.com/Caiaimage/Tom Merton)

目に見える手がかりからその人の属性を推測することは、ある程度意味のあることです。顔の色艶は生活習慣や食べているものを反映するでしょうし、長期的に成功するには勤勉性が必要です(Bjornsdottir & Rule[2017]では、顔写真から写真の主がどのくらい一所懸命働きそうかとどのくらい頭がよさそうかを参加者に評定させたスコアを合わせたものを、勤勉性評価としています)。長年の習慣や勤勉性は、おそらく場面が違っても発揮されるでしょうし、長期的に続くでしょう。したがって、他者を判断するのに有力な手がかりとして使用されるのです。ただ、見た目から他者の属性を推測する際に、顔の魅力度が大きく関わっているところがバイアスといえるかもしれません。

加えて、第2章で見たように私たちは代表性ヒューリスティックスというバイアスを持っています。人が持っている属性から、その属性を持っている人っぽさを判断し、それによって相手を判断しているのです。

 

このように考えると、私たちは他者と直接コミュニケーションをするから、見た目やカテゴリーをもとにさまざまな判断を行っていることがわかります。実社会では、それに加えてその人に関する評判を周囲から聞き集めて判断することもあるでしょう。そういった情報は、当てになるかもしれませんし、そうでないかもしれません。

というのも、その判断は周囲からの情報なども含めたさまざまな手がかりから自分が推測したものであって、その人そのものの情報ではないからです。自分の作り上げた推測に無意識に固執する度合いが強いと、相手をそのフィルターを通してしか見られないだけではなく、実際に相手からそのような行動を引き出すことにもなるでしょう。

以上のようなバイアスを私たちがもっていることを心にとどめ、自分の判断を保留しつつ他者と出会い、他者との直接の相互交流を通じて自分で得た情報をもとに印象を形成するようにしてゆきたいものです。

「自分たち」以外の集団をひとくくりにしてしまう「外集団等質性バイアス」

著者が子どもだった頃に有名で人気があった戦隊もののテレビ番組に、「ゴレンジャー」がありました。ゴレンジャーは、5色の彩り豊かな戦闘服を着た5人組の主人公が、悪の戦隊と戦うという設定の物語です。

主人公たちの衣装が彩り豊かなだけでなく、その物語には、戦闘になる前の日常的な行動を描くシーンもありました。そのシーンではそれぞれのキャラクターの特徴や性格がよくわかるエピソードがふんだんに盛り込まれていました。たとえば、黄色は食いしん坊でしょっちゅうカレーを食べているとか……。

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一方、悪の戦隊は、リーダー以外の戦闘員の衣装がすべて黒ずくめで統一されているだけでなく、行動も同じ。個々の戦闘員の性格が描かれることはありません。

このような物語をみていると、私たちは自然と主人公たちのほうに感情移入します。主人公たちを自集団のように、悪の戦隊のほうを外集団のように感じるのです。

それに一役買っているのが、「外集団等質性バイアス」ではないかと思います。

 

外集団等質性バイアスとは、外集団に属する人たちの性格や社会的態度などが実際以上に似通った者として認知されることです(Ostrom & Sedikides, 1992)。内集団に属する「私たち」のメンバーは、個人個人が別個の人として個人化され、十分詳しく認知されています。個性豊かで多士済々というわけです。

それに対して、外集団のメンバーは、個人としてではなく悪の戦隊の一員としてのみ、いわばカテゴリー化されたかたちで認知されています。カテゴリー化された認知対象は、集団の特徴をより強く持っているように感じられるのです。

「ゴレンジャー」の味方と敵の描き方は、私たちのバイアスに沿った描き方となっているので自然に味方と敵に分かれて見え、味方のほうに感情移入しやすくなるようにできています。

(写真:iStock.com/sqback)

このようなバイアスを持っている私たちですが、外集団の人たちと仲良くなって個人化されてくると、外集団の人たちもいろいろであってそれぞれの個性を持っているということが感じられてきます。

このことから考えると、草の根レベルの国際交流が、どれほど重要なことか理解できるでしょう。お互いの国に親しい人ができることによって、個人化されて認知されるようになります。それによって相手の国の人を、その人が属する国というカテゴリーでひとくくりにして好きになったり嫌いになったりするのではなく、人と人として付き合う余地が出てくるのです。

*   *   *

この続きはちくま新書『バイアスとは何か』をご覧ください。

藤田政博『バイアスとは何か』

物事を現実とは異なるゆがんだかたちで認識してしまう現象、バイアス。それはなぜ起こるのか、どうすれば避けられるのか。本書では、現実の認知、他者や自己の認知など日常のさまざまな場面で生じるバイアスを取り上げ、その仕組みを解明していく。探求の先に見えてくるのは、バイアスは単なる認識エラーではなく、人間が世界を意味づけ理解しようとする際に必然的に生じる副産物だということだ。致命的な影響を回避しつつ、それとうまく付き合う方法を紹介する画期的入門書。

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バイアスとは何か

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藤田政博

1973年生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業、同修士課程修了。北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。政策研究大学院大学准教授などを経て、現在は関西大学社会学部教授。専門は、社会心理学、法と心理学、法社会学。著書に、『司法への市民参加の可能性──日本の陪審制度・裁判員制度の実証的研究』(有斐閣)、『Japanese Society and Lay Participation in Criminal Justice』(Springer)、『裁判員制度と法心理学』(共編、ぎょうせい)、『法と心理学』(編著、法律文化社)などがある。

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