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バイアスとは何か

2022.10.09 公開 ツイート

「外国人犯罪は多い」という思い込み マイノリティ同士を結びつけてしまう「錯誤相関」バイアス 藤田政博

目立ちがちな「少数派」がなんとなく悪さを働いているように思えてしまう、そんな経験はありませんか?

合理的判断を邪魔し、現実を歪んだ形で認識してしまう「バイアス」。もとは人間が生き残りに有利になるため受け継いできた心理的なフィルターですが、場合によっては差別を生んだり、裁判の結果に影響をおよぼす危険性もあるそう。この「バイアス」を実例や研究結果を挙げながらわかりやすく解説する新書『バイアスとは何か』より、一部を抜粋してご紹介します。

外国人犯罪は本当に多いのか

正常性バイアスや楽観バイアスは自分に悪いことは起きないという方向性のバイアスでした。では、そのようなバイアスに囚われている場合、悪いことはどこで起きると感じられるのでしょうか? それは、自分たち以外のところです。

こうした悪いことは自分たち以外のところで起こっているという見方はさまざまな偏見につながります。そういった見方を起こすバイアスの一つが、錯誤相関と言えるでしょう。

ここでは「外国人による犯罪」を例として錯誤相関を説明しましょう。

(写真:iStock.com/Hyunho Song)

平成のある時期、「外国人による犯罪」が特に取り沙汰されました。当時騒がれたのは来日外国人でしたが、そのような報道が続くと、なんとなく来日外国人は犯罪をしがちだ、といった感覚も芽生えてきかねません。

こういったときは、データを使ってそういった感覚がどれくらい実態と合っているかを確認しましょう。「令和元年版犯罪白書」(法務省法務総合研究所[2019]から、本文・図表・データにアクセスできます)を参照すると、平成の30年間の日本の刑法犯の検挙人員数と外国人の検挙人員数が出ています。外国人は、来日外国人とそれ以外の外国人に分けた数値が出ています。また、各年の新規来日者数、日本の総人口も出ています。

以上のデータを使って、新規来日者数に対する来日外国人の刑法犯の検挙人員数の割合を計算したものと、日本人の人口に対する日本人の刑法犯の検挙人員数の割合を計算したものをグラフに表したのが次の図です(図3-2参照)。

図3-2 日本人・来日外国人の検挙者の割合

この図を見ると、来日外国人の検挙者割合は日本人の検挙者割合を下回っていることが多く、最も高い平成4~8年頃でも日本人と同じくらいです。平成15年以降は日本人・外国人とも割合が下降していますが、これは日本での犯罪認知件数・犯罪発生率自体が減っていることのほか、外国人に関しては来日者数の増加によって分母が大きくなっていることが影響していると考えられます。

外国人の犯罪についてあまり単純に割り切ったことを言うことはできません。犯罪をした外国人は再入国が難しくなるので、再入国できる外国人の多くは犯罪をしない人になっていきますし、一度帰国して同じ年に再入国した外国人が複数人としてカウントされる可能性もあります。また、ここに盛り込まれていない統計の存在も示唆されています。

とはいうものの、かつて「来日外国人の犯罪が頻発している」と報じられて不安を感じたほどには、来日外国人のうち犯罪をして検挙される人の割合は多くないと思いませんか?

目立つものどうしを結びつけてしまう「錯誤相関」

それでは、なぜ私たちは、来日外国人という日本社会における少数派の人たちは悪いことをするかもしれないと実態以上に感じてしまうのでしょうか? そこに働いていると考えられるのが、錯誤相関というバイアスです。

(写真:iStock.com/PeopleImages)

私たちは、他者を認知する際にまずカテゴリーを用います(Fiske & Neuberg, 1990)。性別や年代、職業、出身地、国籍などを使ってその他者がどんな人かを推測します。相手にそれほど関心がない場合や、話したり親しくつきあったりしない場合は、相手に対する情報処理はその水準で終了します。しかし、コミュニケーションなどをして相手の情報が多数入ってきたり、人間関係ができたりすると、単なるカテゴリーに属する人物としてではなく、相手を個別化して、個人としての性格などを認識するようになります。

対人認知でカテゴリー的認知から始まる理由としては、私たちは初対面の相手についてはそもそも関心を持たないことも多いこと、情報が少ないこと、そして、私たちの脳の情報処理システムは、会う人会う人すべてを個別化して記憶できるほどの量の情報を処理できないことが挙げられます。

 

そうすると、少数派であるカテゴリーに入っている人は、目立つことになります。というのは、社会においては多数派は文字通り多数を占めているわけですから、物理的な形状の認知でいう「図」か「地」かでいうならば(無藤ほか、2018, 第3章)、「地」に当たります。私たちは「地」の部分は背景として形を認識せず、「図」のほうが形を持っているように感じます。社会的な認知は物理的な認知とまったく同じとは言えませんが、これと同じように目立つもののほうを認知します。

一方、社会において犯罪を行う人も社会全体から見ると少数派です。前記の図のように、犯罪をして検挙される人は人口の0.15~0.3%くらいで、数が少なくかつ社会的に望ましくない行為をしたため、とても目立ちます。

社会における少数派と、社会において犯罪をする人々。どちらも数が少なく「目立つもの」です。もしかすると、私たちは目立つ者どうしを結びつけて認知しやすいバイアスを持っているのではないでしょうか? だから、少数派の人=悪いと考えてしまうのではないでしょうか。この仮説を検証する実験が行われました(Hamilton & Gifford, 1976)。

*   *   *

この続きはちくま新書『バイアスとは何か』をご覧ください。

藤田政博『バイアスとは何か』

物事を現実とは異なるゆがんだかたちで認識してしまう現象、バイアス。それはなぜ起こるのか、どうすれば避けられるのか。本書では、現実の認知、他者や自己の認知など日常のさまざまな場面で生じるバイアスを取り上げ、その仕組みを解明していく。探求の先に見えてくるのは、バイアスは単なる認識エラーではなく、人間が世界を意味づけ理解しようとする際に必然的に生じる副産物だということだ。致命的な影響を回避しつつ、それとうまく付き合う方法を紹介する画期的入門書。

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バイアスとは何か

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藤田政博

1973年生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業、同修士課程修了。北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。政策研究大学院大学准教授などを経て、現在は関西大学社会学部教授。専門は、社会心理学、法と心理学、法社会学。著書に、『司法への市民参加の可能性──日本の陪審制度・裁判員制度の実証的研究』(有斐閣)、『Japanese Society and Lay Participation in Criminal Justice』(Springer)、『裁判員制度と法心理学』(共編、ぎょうせい)、『法と心理学』(編著、法律文化社)などがある。

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