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日本が侵攻される日

2022.09.16 公開 ポスト

「島国だから安心」が通用しない理由。戦争の形はこんなにも変わっている佐藤正久

ロシアのウクライナ侵攻、中国による台湾有事の危険性、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。世界の緊張感が高まる中、その隣国である日本は本当に安全なのか?

さらにAIや衛星など技術が発達した現代の戦争において、「島国は安全」という理屈ももはや通用しません。これまで以上に私たち一人ひとりが「日本の防衛」について、知識を持ち真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。 

元自衛官で「戦場のリアルを知る政治家」、佐藤正久氏が警鐘を鳴らす『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』を緊急出版いたします。

AIやドローンなど、これまでとは変わりつつある戦争の形について、本書より一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

(写真:iStock.com/vadimrysev)

戦争は新たな時代に突入。
ハイブリッド戦とは何か?

かつて戦争は「人間と人間」が戦うものでした。そこに銃や大砲が導入され「兵器と人間」の戦いになりました。戦いの舞台も、陸上から海へと広がりました。歴史好きの方なら、日露戦争の「連合艦隊vs.バルチック艦隊」を思い浮かべるでしょう。軍艦と軍艦が向き合い、大きな砲弾を撃ち合う戦いです。

さらに飛行機の時代になると、空爆によって、街が破壊されるようになりました。軍人と軍人の戦いに市民も巻き込まれるようになったのです。しかも今は、数千キロ離れた場所から、正確にミサイルが飛んでくるようになりました。攻撃する側は発射ボタンを押すだけ。戦いの痛みも、爆風も、人のうめき声や戦場の臭いも感じないまま、敵を攻撃できてしまいます。それを迎え撃つミサイルもボタンを押すだけ。「兵器と兵器」の戦いです。戦争のカタチは一変したのです。

そして今、戦争はさらに新たな時代に突入しました。今回のロシアとウクライナの戦いでは“新しい戦争のカタチ”がはっきり見えたと思っています。

「軍事」と「非軍事」を組み合わせた“ハイブリッド戦”です。

軍事戦とは、これまでと同じような兵器を使った戦いです。
非軍事戦とは、ひと言で表現すると「情報」を使った戦いです。

そもそもハイブリッド戦は、ロシアが始めたものです。実例で話しましょう。2014年のクリミア危機の際には、ロシアは次のような情報戦をしかけていました。

(1)ネットを通じてデマを流す。

(2)デマを信じた大量の民兵がクリミアに侵攻し、放送局などを制圧。

(3)住民投票の結果、ロシアが勝利し、クリミアはロシアに併合された。

つまりインターネット情報を武器に変え、言わば“戦わずして勝った”のです。

今回のウクライナ侵攻でも、ロシアは事前に「ウクライナの独裁者に虐しいたげられている同胞を助ける」とデマを流しました。ネット時代ならではの戦略です。

兵士の損耗率ゼロでしかも安価。
ドローンが戦争を変えた

もう一つ“ハイブリッド戦”のリアルな話をします。2020年、アゼルバイジャンとアルメニアの間の実例です。両国ではナゴルノ・カラバフ地域を巡り、30年以上も紛争が続いていましたが、この時はハイブリッド戦を駆使したアゼルバイジャンの圧勝で終わりました。ドローンやスマホを巧みに使い“電波戦”で勝ったのです。

例えば、次のような戦法です。

古い輸送機を飛ばし、途中でパイロットは脱出して、無人の輸送機がアルメニア側に侵入しました。アルメニアは、その無人輸送機にレーダーを照射し、対空火器で撃ち落としました。しかしこれは、アゼルバイジャンが敵の対空火器の位置を探るための罠でした。敵レーダーの発信源を突き止めたアゼルバイジャンは「徘はい徊かい型の自爆ドローン」を飛ばして対空火器を破壊したのです。“徘徊型”とは、敵の電波を探して勝手に飛ぶものです。ちなみにイスラエル製で、名前は「ハーピー」。

ハーピーはとても高性能で、アルメニア軍のスマホの電波も探知して、自爆攻撃をしかけました。このためアルメニア軍は兵士に「スマホの使用禁止」を命じました。

こうして敵の対空火器を自爆ドローンで叩いたため、アゼルバイジャンは航空戦で圧倒的優位に立つことができました。攻撃してくる対空火器がなければ、自由に空を飛べます。ドローンの他にも「無人偵察・攻撃機」などを飛ばして、難なく軍用車両や兵士を攻撃。アゼルバイジャンの勝利の陰には、ドローンがあったのです。

この出来事は、世界中の国防関係者に衝撃を与えました。私もその一人です。ドローンを使えば“兵士の損耗率”はゼロになります。価格も圧倒的に安い。民間の技術なので、多様な知識と情報を得ながら、どんどん進化していきます。

時代は、民間技術を含めた「機械と機械」の戦いに移行しているのです。

これまでの兵器の概念が覆り、戦争のカタチは変わりました。そして例えば今、中国では、ドローンにAIを組み合わせた強力な兵器が開発されています。

中国の殺人AIドローン。
自ら目標を発見、攻撃する

2020年、中国が公開した「小型自爆ドローン」の映像は、とてもショッキングなものでした。40機以上の小型自爆ドローンが、編隊を組んで飛び、目標を攻撃するのです。蜂が何十匹も群れて飛ぶのを見たことがあるでしょう。まさにあれです。

小型ドローンの編隊は、英語で「drone swarm」(ドローンの群れ)、中国語では「蜂群無人機」と呼ばれます。2021年の東京五輪開会式では、1824機のドローンが編隊を組んで夜空を彩りました。私はテレビで見ながらよからぬ連想をしてしまったのです。「編隊に爆弾を積まれたら、東京は地獄絵図になるだろうな」と。

「何を縁起でもない」とお叱りを受けるかもしれません。しかし、国民を守る責任がある私としては、最悪の事態に備えなければなりません。現に中国ではすでに「蜂群無人機」が開発され、その映像を公開している訳ですから。

中国の小型ドローンはAIを使った“自律型”です。後で話しますが、AIの分野は今、中国が世界を一歩も二歩もリードしています。それはビッグデータを得られるからに他なりません。ご存じのようにAIとは人工知能。自ら考える能力をもった機械です。

AIがビッグデータを集積し、AIが分析する。さらにはAIがAIを育てていく。AIに育てられたAIは、ネットから切り離されても、自分の考えで動けます。つまりAIドローンは、自分で目標を発見し、評価し、攻撃する能力があるのです。

2021年の中国・北京の軍事博覧会では、大きな水槽を魚のように泳ぐドローンが注目されました。自律型のAIです。もしもこの魚ドローンが小型爆弾を積み、海中を泳いだら? そう考えるとゾッとします。ほぼ無音で泳ぐからです。海上自衛隊の潜水艦探知能力は世界トップクラスですが、無音で泳ぐ魚は探知できません。

他にもバッタ型のAIドローンが開発されるでしょう。自分で思考して飛んできた敵の“バッタ”が、もしもイージス艦のレーダーや煙突に止まって爆発したら? 船はレーダーと煙突をやられたら、その瞬間に動けなくなり“重厚な鉄くず”と化すのです。

*   *   *

続きは本書『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』をご覧ください。

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日本が侵攻される日

2027年、日本がウクライナになる――。決して脅しではない。ロシア、中国、北朝鮮という三正面に接した我が国の危険性は、日増しに高まるばかりである。理由は世界地図を「逆さ」にすると一目瞭然だ。ロシアはなぜ北方領土を手放さないのか、中国が尖閣を執拗に欲しがる背景、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。AIや衛星が主流の現代の戦争においては、島国は安全という理屈も通用しない。元自衛官で「戦場を知る政治家」である著者が指摘する日本防衛の落とし穴。もう無関心ではいられない。

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佐藤正久

参議院議員 3期目(全国比例)。福島県出身。防衛大学校卒業後、約25年間陸上自衛官として勤務。国連 PKO ゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク先遣隊長・復興業務支援隊初代隊長、第7普通科連隊長兼ねて福知山駐屯地司令等を務める。
外務副大臣、防衛大臣政務官のほか、参議院外交防衛委員長や自由民主党国防部会長などを歴任。現在は、自民党外交部会長、自民党国防議員連盟事務局長として活躍中。「ヒゲの隊長」の愛称で親しまれる。

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