1. Home
  2. 生き方
  3. 帆立の詫び状
  4. 東大女子という呪い

帆立の詫び状

2022.09.19 更新 ツイート

東大女子という呪い 新川帆立

先日、フジテレビ系日曜朝に放送している「ボクらの時代」という番組に出演した。三人で談話する番組なのだが、同世代ミステリー作家で、同じ東大法学部出身でもある辻堂ゆめさん、結城真一郎さんとご一緒させていただいた。

↑撮影後の集合写真。左から辻堂ゆめさん、新川、結城真一郎さん。
 

お二人と話していて、(当たり前のことだが)東大卒といっても色々で、それぞれ性格や考え方は全然違うなあと改めて実感した。お二人は〆切を破らないどころか、かなり早めに原稿をあげることもあるそうだ。

対する私は、〆切は守る・守らないが半々くらいではないかという状況だ。このエッセイのタイトル「帆立の詫び状」にもある通り、各社編集者さんたちに頭を下げながらなんとか仕事をしている有様である(送信メールのうち三通に一通の割合で謝っている)。

 

収録中、「東大男子はモテるのに、東大女子はモテないよね」ということが話題に上がった。

東大駒場キャンパスの銀杏が散るまでに彼氏ができない東大女子は、卒業まで(あるいは一生)恋人ができないという伝説がある。これは弁護士も同様で、学生時代、修習時代までに相手を見つけておかないと結婚できないという言い伝えがある。どちらも嘘だと断言できるから、東大女子も弁護士になりたい皆さんも安心してほしい。

 

東大女子や女性弁護士がモテないとしたら、それは単純に可愛くないからだ。身もふたもない話だが、男性からすると、相手が可愛かったり美人だったりして、自分に対して十分に好意的であれば、相手の学歴や職業は気にならないと思う。実際に周りの友人知人を見ると、東大卒でも弁護士でも、美人だったらモテている。

 

ただ、高学歴女性やハイキャリア女性に特有の事情もある。

彼女たちは不美人でもダサくても困らないし、恋愛をしなくても毎日がじゅうぶん楽しく、結婚せずとも経済的に困窮しない。そのため、美容やおしゃれ、恋愛、結婚の優先順位はかなり低い。その結果として、恋愛的な魅力に乏しいと判断されることはあると思う。

 

加えて、些細なことではあるが、高学歴女子やキャリア女性ならではの障害やストレスは確実にある。

私が経験した実例を挙げると、例えば、婚活しようと結婚相談所を訪ねたとき、「あなたの経歴に見合う男性を紹介できません」という理由で、入会を断られたことがある。あるいは、友人が男性を紹介してくれるというので、先方に私の写真を送ったら、「是非会いたい」と先方も乗り気だったのに、「東大卒」という経歴が漏れ伝わった途端、「やっぱりなしで」と断られたこともある。

高学歴だったりハイキャリアだったりというだけで、一部の人たちからは嫌われることもあるのだ。

 

じゃあ逆に、高学歴集団やハイキャリア集団なら馴染めるかというと、全然そんなことはない。そういった集団は男性が圧倒的多数派を占めている。男性向けに設計された環境であり、女性はある種の「お客さん」として入れてもらっているに過ぎない。例えば、ある法律事務所では、(チームメンバーには女性弁護士もいるのに)案件打ち上げの二次会がキャバクラだったこともある。

↑東大卒の女性たちが直面した障害について語っている。特に、研究室を始めとする東大内で女性が直面する障害について興味深いエピソードがいくつも紹介されていた。

このように、どこに行っても居場所のない感覚をずっと持っていた。自分にピッタリの椅子がどこにもない。あの椅子に腰かけるとこっちがはみ出て、この椅子に腰かけるとあっちがはみ出る。自分のままでは、社会のどこに身を置いていいのか分からない。

どうしてこういう事態に陥っているのか、自分がワガママすぎるのかと悩んだ時期もあったが、最近になって、徐々にメカニズムが分かってきた。

社会から矛盾する規範を押しつけられ、すべての規範をクリアするのは不可能であるがゆえに、何をしても不適合感がつきまとうのだ。

 

社会にはいろいろな規範がある。「若者はお年寄りに優しくするべき」「大人はきちんと働くべき」「子供は外で遊ぶべき」等々、その人の属性に紐づくかたちで、望ましい行動様式や在り方が指定されているのだ。そのうち、「男性はこうあるべき、女性はこうあるべき」というような、性別に紐づいた規範は未だに根強い。

 

一般に、頭がいいこと、自己主張が強いこと、決断力があることは、女性らしいとはされていない。他方で、一般的なビジネスキャリアで成功するためには、頭がよくて、きっちり自己主張をして、素早く決断していかなければならない。

女性らしくあろうとすると社会で成功できず、社会で成功する振る舞いを選択すれば女性らしくない(「女を捨てている」)と批判される。ダブルバインド(矛盾する二つの規範が課されること)により、女性は股裂きにされ、身動きがとれなくなる。

 

男性の場合、比較的単純で、社会で成功する振る舞いがそのまま男性的な資質とされている。社会的な成功を目指して邁進すれば、その他の幸せが全て、自動的についてくる。女性に比べて、進むべき方向が分かりやすい。ただそのぶん、一度社会的な不遇に陥ると、とことん不幸になりない。熾烈な競争にさらされることになり大変だろうとは思う。

 

女性は男性と比べると、何を選んでもいい自由があるのは確かだ。だが、何を選んでも批判にさらされる。社会人としてどうか、女としてどうか、母としてどうか、と判断基準が多様であるため、どこかで満点をとっても他の判断基準でみると必ず減点があるものだ。

私は学ぶことが好きだし、東大に行ったことを全く後悔していない。面白い授業が沢山あって、最高峰の教授陣から学問の手ほどきを受けられたと思う。けれども、東大に入ったことで生きづらくなった面は確実にある。

 

それでもなお、若い女の子たちには「好きなだけ勉強していい」「思いっきり働いていい」と伝えたい。

知識や教養、キャリアを手に入れると、モテないなんてことは全く気にならないほどの楽しみや自由がある。それに、清く正しく生きていれば、見ている人は見ているものだ。捨てる神あれば拾う神ありというように、助けてくれる人や応援してくれる人もいる。

足を引っ張ってくる人たちは放っておいて、心穏やかに自分の道を邁進してほしいと願っている。

{ この記事をシェアする }

帆立の詫び状

原稿をお待たせしている編集者各位に謝りながら、楽しい「原稿外」ライフをお届けしていこう!というのが本連載「帆立の詫び状」です。

バックナンバー

新川帆立

1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業。弁護士。司法修習中に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格し、プロ雀士としても活動経験あり。作家を志したきっかけは16歳のころ夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けたこと。2020年に「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した「元彼の遺言状」でデビュー。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP