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「超」古代文明の謎

2022.09.10 更新 ツイート

第4回

『旧約聖書』に記された大洪水とノアの箱舟は本当の話だった!? 島崎晋

謎とロマンにあふれている古代文明。あの建造物や不思議な絵などは、いつ、誰の手で、何のためにつくられたのか……? 世界中に残る謎に満ちた遺跡や神秘的なスポットについて解説。今回は「『旧約聖書』に記された大洪水」の謎をお送りします。

*   *   *

(写真:iStock.com/Volodymyr Zakharov)
 

40日と40夜続いた大雨

ノアの箱舟の話は非常に有名だが、念のため概要を記しておく。出典は『旧約聖書』冒頭の「創世記」である。

最初の人類であるアダムとエバから10代目の子孫にノアという男がいた。大変な正直者で、ノアの妻と三人の息子とそれぞれの妻も、まっとうな人生を歩んでいた。

ところが、ノア一家は例外中の例外で、地上の人間社会は腐敗にまみれていた。そのため唯一至高の神は地上をリセットすることを決め、ノアに次の命令を下した。

「大洪水をもたらすことにしたから、三階建ての箱舟を造り、あらゆる生き物を雌雄一対ずつ乗せ、必要な食料も積み込め」と。

ノアが箱舟を完成させると、神はノア一家にも乗船を促し、7日後に降り始める大雨が40日と40夜続くことを告げた。

それだけ大雨が続けば、地上はあますところなく洪水に見舞われ、人間をはじめとする地上の生き物はおろか、空を飛ぶ鳥も羽を休められる場所がなく、絶滅を避けられなかった。

水が引き始めたのは150日後のこと。地上が少しずつ姿を現すと、箱舟はアララト山に漂着した。

それから数か月が過ぎてから、ノアは様子を見るためにカラスやハトを放ち、確信を持てたところでようやく船から降り、同乗させた生き物も地上に解き放った。

大洪水はユダヤのオリジナルではなかった

以上が大洪水とノアの箱舟を巡る物語で、長らくユダヤ神話の一つ程度にしか思われてこなかった。

ところが、メソポタミア文明遺跡の発掘が進み、粘土板文書が次々発見されると状況が変わった。前1800年ころまでに成立した「ギルガメッシュ叙事詩」、さらにそれより1000年近くさかのぼるシュメール人の神話のなかにも、大筋の酷似した話が確認できたからである。大洪水はユダヤのオリジナルではなかったのだ。

改めて世界の神話を調べていくと、洪水伝説自体は中国、東南アジア、南北アメリカ大陸と広く確認できるが、神が人間への懲罰として大洪水を下すパターンは西アジアからギリシアあたりに限られる。世界でも稀な一神教を複数生み出した地域と重なることから、何かしら因果関係はあるのだろう。

「ノアの箱舟」の残骸が発見か!?

普通に考えれば、ノアの箱舟は神話伝説の類だが、一つだけ固有名詞が出てくることから、一部なりとも史実の反映とする見方も根強く、トルコ共和国とアルメニア共和国の国境をまたいで聳(そび)え、イランからもその威容を拝むことのできる、大アララト山がそれだとして、これまでに何人もの探検家が証拠探しを試みた。

2010年12月9日配信の『ナショナルジオグラフィック日本版』では「アララト山でノアの箱舟を発見?」と題した記事の中で、キリスト教福音派の探検隊が積雪と噴火堆積物の下からノアの箱舟の残骸を発見したことに触れながら、米ニューヨーク州のストーニーブルック大学で中東を専門に研究する考古学者ポール・ジマンスキ氏の「箱舟を探しに行った探検隊が手ぶらで帰ってきたという話は一度も聞いたことがない」というコメントも掲載している。

多くの考古学者や歴史学者は、ノアの箱舟の実在性に関し、真剣に取り合っていないわけだが、トルコの観光業者は、大アララト山の南側にある不自然な地形、船底の跡を思わせる場所を「ノアの箱舟の跡」として観光客の誘致に努めている。

一方、世界最古のキリスト教国であるアルメニアには、箱舟の断片と伝えられる木片が保存され、首都エチミアジンの大聖堂で公開されている。キリスト教以前の代物だが、『旧約聖書』を代表する偉人に直接関係するものとして、聖遺物の扱いを受けている。

アルメニア共和国の首都エレバンから見た大アララト山(右)と小アララト山(左)(写真:iStock.com/Vahagn Shahnazaryan)
「ノアの箱舟の跡」と伝わる場所(写真:iStock.com/Ozbalci)

なぜ白いハトは平和の象徴になったのか

大アララト山から少し離れるが、アゼルバイジャンの飛び領であるナヒチェヴァン自治共和国には「ノアの墓廟」が現存する。創建時期ははっきりしないが、少なくとも中世にはその存在が広く知られていた。

ところで、ノアは箱舟から降りても大丈夫かどうか確認するため、何度もハトを外へ放った。ハトがオリーブの若葉を嘴(くちばし)に戻ったことで、ノアは再び地上での生活が可能になったと知る。

この「創世記」にあるこのエピソードから、のちのヨーロッパ・キリスト教世界ではハトとオリーブは平和のシンボルとされ、とくに白いハトは式典に花を添えるわき役として欠かせない存在となるのだった。

ノアの墓廟(写真:iStock.com/Ahmet Kus)

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「超」古代文明の謎

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島崎晋

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、出版社で歴史雑誌の編集を経て、現在は歴史作家として活躍中。主な著書に『ロシアの歴史 この大国は何を望んでいるのか?』(実業之日本社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)、『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春出版社)などがある。

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