
謎とロマンにあふれている古代文明。あの建造物や不思議な絵などは、いつ、誰の手で、何のためにつくられたのか……? 世界中に残る謎に満ちた遺跡や神秘的なスポットについて解説。今回は「ブッダガヤ」の謎をお送りします。

ブッダが悟りを開いた場所
敬虔な仏教徒であれば、一生のうちに必ず一度は訪れたい聖地。その筆頭に位置するのが、ゴータマ・シッダールタが「悟った者(ブッダ=仏陀)」となったと伝えられるブッダガヤである。
ブッダガヤが位置するのはインド北東部のビハール州で、のちのブッダことゴータマ・シッダールタが生まれたのは、そこから北北西へ419キロメートルの距離にあるネパールのルンビニである。
ゴータマがヒマラヤ山麓に拠るシャーキャ族の有力者の家に生まれたのは、南伝仏教によれば前7世紀、北伝仏教によれば前6世紀のこと。
何不自由なく成長したが、29歳のとき、「生・老・病・死」という人間の4つの苦しみに対する答えを求め、妻子と後継者の座を捨てて出家。
評判の高い賢者のもとを訪ねてまわるが、どれも納得がいかず、志を同じくする4人の修行者とともに、とある山林で激しい修行生活に打ち込むが、いっこうに成果なく、
途中、マーラ(悪魔)からの数々の誘惑を退けたことから、これを「降魔成道」という。キリスト教の聖典『新約聖書』にある「サタン(悪魔)の誘惑」とよく似た話である。
死者の霊魂は火葬された後、月の世界へ行く
恵まれた環境に育った青年が、そこまでして求めた「悟り」とは何か。それは輪廻からの解放にあった。
輪廻という観念は仏教の誕生以前からあった。前1500年頃に成立したインド最古の文献、神々への賛歌からなる『リグ・ヴェーダ』には、まだそれが見当たらないが、ウパニシャッド哲学と呼ばれる新思想が成立した前800年頃には出現していた。
当初は、霊魂は次の5段階を経て輪廻するという、比較的単純なものだった。
その1、死者の霊魂は火葬された後、月の世界へ行く。
その2、雨とともに地上へ下る。
その3、地中に入って食べ物となる。
その4、男・オスに食べられその体内に入る。
その5、精子として母胎に入って再生する。
少し時代が下ると、これに因果応報の論理が加わり、あらゆる生き物は現世での善悪の行為(業)に従って、地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天道という六種の世界(六道)の間で、生死を繰り返すという考え方に変わった。
真理を悟るためには正しい修行生活とは?
ゴータマが生きた頃には、輪廻から脱する道を模索する動きが盛んで、ブッダガヤの東北東に位置するラージャグリハ(王舎城)あたりで、ヴァルダマーナという人物がゴータマとはまた別の厳しい修行に励んでいた。
ジャイナ教の開祖として、のちには「ジナ(勝者)」「マハーヴィーラ(偉大な英雄)」などの尊称で呼ばれることになる人物である。
ブッダとジナは人生を「苦」ととらえ、そこから脱する道を求めた点で一致するが、不殺生戒の徹底による霊魂の浄化を必須としたジナに対し、ブッダは「諸行無常(あらゆる存在は変遷する)」の真理をわきまえない無意味な執着(煩悩)に原因があるとして、煩悩を断つため、真理を悟るためには正しい修行生活を送らねばならないと結論付けた。
苦行と快楽の両極を排した中道路線で、「正しい見解」「正しい意欲」「正しい言葉」「正しい行ない」「正しい生活」「正しい努力」「正しい思慮」「正し精神統一」からなるそれは、のちに「八正道」と呼ばれる。
悟りを開いたブッダガヤの謎
輪廻からの解放、離脱というので、悟りを開くことは解脱とも呼ばれる。悟りを開いたゴータマはこれよりブッダ、または「シャーキャ族の聖者」を意味するシャーキャ・ムニ(釈迦牟尼)の尊称で呼ばれることになる。
その地がブッダガヤであったのは、たまたま山林を出た先にあったからだが、それは偶然ではなく、何かの縁でブッダが引き寄せられたのではなかろうか。
どこにでもありそうな田舎町だが、修行者にとっては意味のある土地だったのかもしれない。菩提樹の下だった点は、静座・瞑想をすべき場所として、「樹下石上(じゅかせきじょう)」が推奨されていたことに由来しよう。菩提樹でなくとも、大木であれば何でもよかった。
これには異論もあるが、のちの仏教徒にとって、その真偽はどうでもよく、ブッダが静座・瞑想を行った地は聖地、菩提樹は聖樹と目され、前3世紀にはマウリヤ朝のアショーカ王によりそこを囲む形で寺院が建立された。
現在、同地にあるマハーボディ寺院(大菩提寺)は7世紀のグプタ朝下に建立されたもの。菩提樹は接(つ)ぎ木により継承されたもので、現在のそれは5代目という。
ブッダの行動範囲は意外と狭く、北インドに限られるが、それは交通の発達した現代だから言えることで、当時の乗り物と言えば牛か馬、車しかなく、出家後のブッダは一切それらを使用していない。
自分の足だけが頼りであれば、ルンビニからブッダガヤまで歩くだけでも大変なこと。ブッダガヤには、やはりブッダを引き付ける何かがあったと、考えたくもなる距離である。

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