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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.09.18 公開 ポスト

滋賀県は、京都と琵琶湖のイメージが強すぎて存在感薄め? いやいや実は「観光的魅力たっぷりな県」宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介している『ニッポン47都道府県 正直観光案内』。文庫化記念で試し読み。次は、実は見どころ満載の滋賀県!

*   *   *

滋賀県

滋賀県は不遇の県です。

日本最強の観光地京都の陰にかくれ、存在感が消えています。京都の宿泊施設不足で外国人宿泊者が増えるという恩恵にあずかってはいるものの、それがまた屈辱だったりします。

実は滋賀県には魅力的な観光地がひしめいています。たとえば国宝彦根城をはじめ、安土城跡など、城好きにはたまらない県となっているうえ、比叡山延暦寺三井寺(みいでら)などの大寺院もあれば、甲賀忍者もいる。かっこいい仏像もあれば、紅葉の名所もどっさりです。それだけのポテンシャルを持ちながら、観光地の権化、ラスボスともいえる京都府の隣にあるという不運。

もし京都の隣ではなく関東地方にでもあったなら、滋賀県の好感度、重要性はもっと増していたはずです。今からでも埼玉県あたりに引っ越せないものでしょうか。

滋賀にはワンダーな日本がたくさん詰まっている。(イラスト:宮田珠己)

しかし滋賀県の不遇の原因は、京都府の隣だから、というだけではありません。滋賀県自体にも問題がある。それは琵琶湖の存在です。滋賀県といえば琵琶湖を抜きに語ることはできません。日本最大の湖、琵琶湖は滋賀県の誇りでもある。

ですが、冷静に考えてみてください。湖って、何をするところでしょうか。これが海であれば、幾多のマリンスポーツをはじめ、海水浴、磯釣り、潮干狩りなどそれはもうバラエティ豊かな楽しみ方がある。川ならば散策したり、清流に心癒されたりできます。しかし湖は? 実は案外やることがないのが湖なのです。水辺の観光ポテンシャルには、

海 ≳ 川 ≳ 湖

という厳然たる序列が存在しています。

単純に泳ぐということを考えてみても、海や川と比べてなんとなく盛り上がらないのが湖ではないでしょうか。とすると湖の観光面での存在意義とは何でしょう。

遊覧船に乗る?

釣り?

たしかに琵琶湖では外来魚の釣りが人気ですが、そんなのは一部のマニアだけで、一般観光客にとって大きな魅力にはなりません。結局、湖はただ眺めるものなのです。であれば、そんなにでかくなくていい。むしろもっと小規模で雰囲気のいい湖がたくさんあったほうがよかった。

そんな観光的には微妙な巨大湖が、県のまんなかにどーんと横たわっているのですから、県外の観光客に無意識のうちにこう判断されている可能性があります。

湖=退屈

滋賀県=日本最大の湖

よって、

滋賀県=日本最大に退屈

実に明快な三段論法です。

いっそ琵琶湖に蓋(ふた)をしてはどうでしょうか。日本最大の蓋。そういえば兵庫県にちょうどいい蓋があります。淡路島……。地図で見ると琵琶湖の形にぴったりです。もともと琵琶湖の蓋だったのではないでしょうか。

しかし今となっては戻すのも大変なので、やはりここは琵琶湖ならではの魅力、他の有象無象の湖には決して追従できないすごい何かを見つけ、汚名返上したいところです。ただでかいとか日本一とか言っていても埒(らち)があきません。

ミズウミ侮りがたし! 琵琶湖あれこれ

琵琶湖にしかないすごいもの、実はあります。

春先に蜃気楼が見られるのです。蜃気楼といえば富山湾が有名ですが、琵琶湖の蜃気楼もそれにひけをとらない面白さです。蜃気楼には大別して上位蜃気楼と下位蜃気楼があって、下位蜃気楼は逃げ水のようなどこでも見られるものですが、上位蜃気楼は遠くのものが近くに見えたり、逆さに見えたりと面白く、われわれが蜃気楼といって期待するのはこっちです。そして琵琶湖は、富山湾と並びこの上位蜃気楼が見られる日本で数少ない場所のひとつなのです。

さらに葛籠尾崎(つづらおざき)の湖底、水面下七十メートルのところには謎の遺跡があります。たくさんの壺が湖の底にきちんと上を向いて並んでいるのです。水深七十メートルといえばダイバーでもなかなか潜れるものではありません。歴史上そこが地上に出ていたこともない。それなのにいったいなぜそんな場所に壺が並んでいるのか、いまだ解明されていません。こうした例を挙げるだけでも、琵琶湖がただの平板な水面ではないことが理解できるのではないでしょうか。

そうして大味な湖のイメージを払拭してみれば、琵琶湖の周囲に数々の魅力的観光スポットがちりばめられている。侮りがたし滋賀県。

最初に挙げた城やお寺、忍者や仏像、紅葉のほかにも伊吹山の高山植物長浜の黒壁スクエア針江(はりえ)の川端、そして水郷などなど。

近江八幡の水郷は、福岡県の柳川、茨城県の潮来(いたこ)と並び、日本三大水郷のひとつですが、私の見たところ三つの中でももっとも迷路度が高く、冒険的なのが近江八幡です。葦原(あしはら)のなかをさ迷う船の旅は、船頭さんが帰り道を忘れたら遭難しそうなほどです。

その他、県内各地で行われる火祭りや、東近江の太郎坊宮には悪人が通ろうとすると塞がると伝えられる岩の通路があったり、琵琶湖の北にある余呉湖(よごこ)なども風情があります。何度も言うように、おしなべて退屈なのが湖というものですが、余呉湖には観光開発した気配がほとんどなく、そうやって捨て置かれた湖だからこそ、逆に味わいが醸し出されている気がします。湖はそっとしておくのが一番なのです。

観光的魅力たっぷりな県、それが滋賀県です。なのに思ったほど人が来ない。

京都さえなければ……。

一番いいのは京都に淡路島をのっけて蓋をすることかもしれません。

*   *   *

この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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