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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.07.27 更新 ツイート

宮崎県に行ったら万難を排して乗るべし。北の高千穂峡の貸しボート 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介しているニッポン47都道府県 正直観光案内。文庫化記念で試し読み。お次は聖地の多い宮崎県!

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宮崎県

九州のなかでもなんとなく影の薄い宮崎県。新幹線が寄らないせいでしょうか。観光スポットも、隣接する大分、熊本、鹿児島に比べて少ない気がします。

観光スポットは、主に県北部の高千穂、延岡周辺と、県南部の青島や飫肥、都井岬から都城、霧島あたりに点在しています。そのため宮崎県全体を観光しようとすると、海岸線に沿って南北に縦断することになります。これらを地図にプロットしていきますと、県北のいろいろと県南のいろいろを海岸線一本で結ぶ「コ」の形になるのがわかります。

そうすると気になるのは、中央部の左側はどうなっているのか、ということです。「ロ」じゃなくて「コ」だったというときの、欠落した左の縦棒部分には何があるのでしょう。よくわかりません。ためしに地図を開いてみてもわからない。そのわからなさたるや、ロシアのモスクワとシベリアの間に何があるのかわからないのと同じぐらい正体不明です。早急な調査が待たれます。

さらにふしぎなことがもうひとつあります。「コ」の上の横棒の先端は高千穂です。そして下の横棒の先端はといえば、ここも高千穂なのです。なんということでしょう。宮崎県に高千穂は二ヶ所あり、初心者向けのトラップとなっているのです。

北の高千穂は、いわゆる高千穂。高千穂神社があり、高千穂峡があって、神楽で有名なあの高千穂です。一方、南の高千穂は、霧島連山の一角である高千穂峰です。頂上に天の逆鉾が突き立っていて、王となる者だけがそれを引き抜くことができると言われて……じゃなかった、坂本龍馬が新婚旅行に来て引き抜いたと言われています。

両者は直線距離で百キロも離れているので、同じ高千穂だから一日で回れるだろうと考えたら大間違い、それこそがまさに相手の思う壺です。高千穂を巡ろうとすると、いったん海沿いに出て宮崎県を全部縦断させられることになります。

北から巡るにしても南から巡るにしても、まず高千穂、そして海沿い、最後に高千穂という順になるので、宮崎県は高千穂に始まり高千穂に終わると、そういうふうにうまいこと言って欲しかったのかもしれません。

本格冒険貸しボート 高千穂

それで私のおすすめはというと、これがやっぱり高千穂なのでした。とくに北の高千穂峡の貸しボートは、万難を排して乗るべきです。日本全国に貸しボート数あれど、これほど乗る価値のある貸しボートはそうはありません。そもそも貸しボートなんてものは、雑踏を避けてふたりきりになりたいカップルか、歩きつかれた家族連れ、じゃなければ釣り人が乗るぐらいのもので、涼しげだと思って乗ってみたら逆に日差しが照りつけて暑かったりして二度と乗らなくていいやってなもんです。そこには何の新鮮味もありません。

しかし高千穂峡の貸しボートは違います。それはアドベンチャー、永遠の勇者たち。ボートを借りたら、ひたすら川を遡ってください。最初に狭き門のような峡谷の入口を抜けると、真名井の滝という有名な滝が岸壁から流れ落ちていますが、そこで満足せずどんどん漕いでいくと、その先にインディ・ジョーンズばりの大冒険が待っています。

もちろん川や湖で冒険したければ今はカヌーやカヤックというものがあって、むしろそっちのほうが冒険そのものです。けれどもカヌーは事前にある程度のテクニックをマスターする必要があり、そうでなければインストラクターに同行してもらわなければなりません。しかも着替えが必要なうえ、往々にして濡れます。

それに対し手漕ぎボートは誰でもすぐに乗れて技術もほぼ必要ありません。それでいて単なる丸い池や四角いお濠に浮かぶだけのボートでは味わうことのない大峡谷を堪能できるのですから、高千穂峡は貸しボート界の聖地と言っても過言ではありません。高千穂が聖なる地と呼ばれているのには、この貸しボートも一役買っているに相違ありません。

神秘の最奥まで片道約15 分。30 分のレンタルでちょうど往復できる。借りたらすぐに奥へ向かおう。(イラスト/宮田珠己)

これに対し、南の高千穂はどうかというと、実は私も高千穂峰には登ったことがないのですが、高千穂峰にほど近い霧島連山のえびの高原は、とても気持ちのいいところで、アプローチも簡単なのでおすすめです。日本は山国なので素晴らしいトレッキングコースが無数にありますが、登山経験のあまりない観光客でも手軽に行けるコースとしては、上越や信州以外では最高ランクと言っていいのではないでしょうか。

えびの市には田の神(たのかんさあ)と呼ばれる石像が田園風景のなかに点在しており、そのユーモラスな姿を探して散歩するのも、面白い旅になるでしょう。

最後に「コ」の縦棒、海岸沿いには荒波以外に何があるか見てみましょう。

明るい角形コンクリ巨大石像群 高鍋大師

有名な青島や鵜戸(うど)神宮、西都原(さいとばる)の古墳群などの名が浮かびますが、それらを置いてもまず訪れなければならないのは高鍋(たかなべ)大師です。高鍋町のどこからでも見える丘の上に、岩岡保吉という人が自らの半生を賭けてつくりあげた巨大石像群があります。

石像は、どれもカクカクして、つくり手が曲線を彫れなかったことがよく伝わってきます。まあ、仏師でも何でもない岩岡氏が自らの手でつくったのですから、そこは大目に見るべきというか、そうだからこそ逆に素晴らしい素朴さがにじみ出ていると考えます。個人が勝手につくったB級スポットにもかかわらず、あまりに目立つうえ、ピクニックにちょうどいい丘の上にあることからいつしか住民に愛され、地元ではA級スポット扱いになっています。

全国に数あるB級スポットのなかでも、ここは最も成功した例のひとつと言っていいでしょう。同じ高鍋にある個人経営の九州民俗仮面美術館とともに強烈な民俗オーラを放っていておすすめです。

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この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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