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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.08.28 更新 ツイート

あなどれないぞ、徳島県。65分間のモノレール、トラウマ級の地獄めぐり、不思議な農村舞台、超絶狭い鍾乳洞で修行… 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介している『ニッポン47都道府県 正直観光案内』。文庫化記念で試し読み。お次は、個性派の徳島県!

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徳島県

徳島観光といえば、何といってもまずは阿波踊りということになるでしょうか。残念ながら私は見に行ったことがありません。祭りというのは、地元民はともかく、通常なかなか見に行くことができません。休みを合わせるのも大変だし、宿は取れないし、取れたとしても腹立たしい値段です。

見に行ったら行ったで、ものすごい人ごみ。見えるのは前のおじさんの後頭部ばかりで、疲れても腰を下ろす場所はなく、飲み物もこの日だけ割高だったりして、すっかり疲れてしまいます。

そんなわけで祭りからどんどん足が遠ざかる一方の私であり、阿波踊りに限らず、祭りについてはあまり知りません。誰かほかの詳しい人に聞くといいでしょう。きっと詳しい人が丁寧に教えてくれるでしょう。とはいえ、いくつか例外の祭りもあるのですが、それについては後ほどその県の項でお話しします。

阿波踊り以外には何があるでしょうか。

鳴門の渦潮? それとも四国遍路の第一番札所霊山寺でしょうか。最近は大塚国際美術館の人気が上昇中と何かに書いてありました。大塚国際美術館は陶板で世界の名画を再現しているふしぎな美術館で、なんで陶板で再現するのかよくわかりませんが、来館者の満足度は高いと聞きます。

これだけ見ると、まあ普通といいますか、行ってもいいし行かなくてもいい感じがしますが、実際に行ってみると意外に侮れないのが徳島県です。

なんというのでしょう、ものすごいものはないけれども印象深いといいますか、目立たないけど変わっているというか、小粒だけれど完成度が高いというのか、ズレているのに凄いというか、んんん、この感じをひとことで表すのは容易ではありません。まあ「発想が独特」とでもいっておきましょうか。

モノレールで思う存分森林浴 奥祖谷観光周遊モノレール

私がおすすめする徳島県の独特なものナンバーワンは、奥祖谷(おくいや)観光周遊モノレールです。

剣山の奥、高知県との県境にもほど近い東祖谷(ひがしいや)の山中に、奇妙な観光モノレールがある。モノレールといっても、都市にあるような公共交通とはちがいます。ふたり乗りで、遊園地のアトラクションのような小さなものですが、乗車時間がなんと六十五分もあるのです。コースはほぼ森の中。一瞬眺めのいい場所に出ますが、それもせいぜい二、三分でしょうか。いったいこれは何なんでしょう。なぜ森の中で延々モノレールに乗る必要があるのでしょうか。

その答えはおそらく、モノレールに思う存分乗りたいから。

斜面の果樹園などでたまに個人所有の農業用モノレールを見かけることがないでしょうか。一般人は乗れないあの乗り物に思う存分乗ってみたい、そんな人のために造ったと思われます。みんなが喜ぶなら採算性なんかどうでもいい、と思ったのかどうなのか。そう考えると、ユーザー本位の素晴らしい観光スポットといえます。

泣く子をちびらせるド迫力 正観寺の八大地獄

独特なものはまだあります。太平洋に面した牟岐(むぎ)の町に、正観寺(しょうかんじ)の八大地獄というすごい地獄めぐりがある。地獄めぐりとは、地獄の様子を人形やジオラマなどで再現し、それを参拝者がめぐるという、古いお寺にたまにあるアトラクションですが、正観寺の八大地獄の完成度は全国でも群を抜いています。

電気仕掛けの閻魔(えんま)大王や鬼が亡者たちを徹底的に苛め抜くさまは、子どもならトラウマ必至の大迫力。亡者たちの表情にリアリティがあり、いかにもそのへんにいそうな人たちだったりするのが実に恐ろしい。

なぜ地獄めぐりなどという今どき流行らないマイナーな施設に、こんなに力が入っているのかはわかりません。モノレール同様、どうせやるなら納得いくまで、という作り手の心意気なのかもしれません。

人形の造形がとてもリアル。(イラスト:宮田珠己)

そのほか徳島といえば、農村舞台が有名です。農民たちが村の神社の境内で人形浄瑠璃などを上演するのですが、それはいいとして、そのなかに襖(ふすま)カラクリという演目がある。これは人形も役者も一切出てこなくて、舞台の絵襖が開くとその奥に別の絵襖、それが開くとさらに別の絵襖、そしてまたそれが開くと……と延々絵襖を見せていくというマトリョーシカのような舞台なのですが、ひたすら襖絵を見せて何が面白いのでしょうか。

実はこれは、奥行に限りのある舞台で果てしなく襖が続いていく不思議さ、どこまで奥に続いているんだという驚きを見せるトリックアートなのです。地元のおじいさんも、子どもの時に見たときは舞台の奥がむこうの山まで続いているように感じられて驚いたと言っていました。

どこか発想がズレているようでいて、実際に体験すると意外に感動させられるという徳島観光の特徴は、こういった伝統行事にも表れているのです。

もっと紹介しましょう。

四国遍路番外霊場の慈眼寺(じげんじ) に、穴禅定(あなぜんじょう)という修行があります。鍾乳洞に入ってその奥で弘法大師を拝み般若心経を唱えて出てくるのですが、この鍾乳洞がすごい。めちゃめちゃ狭いのです。太った人はまず入れない。岩と岩の隙間を体を横にしたり這いつくばったりしながら進んでいきます。案内人の言うとおりの動きをしないと通り抜けられない場所も少なくありません。そんな狭い穴を往復約一時間。よくぞこんな修行を思いついたものです。というか、最初に入った人がすごい。よそではまずできない修行であり、一般観光客も体験できるので(太っていなければ)おすすめです。

このように全体的にちょっとどうかしているというか、ズレているというか、やりすぎというか、凝りすぎというか、よく言えば個性的な徳島観光。あるいはこれも、同じアホなら踊らにゃそんそん、の精神なのかもしれません。

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この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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