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山はおそろしい

2022.07.30 公開 ポスト

遭難時のパニックがしずまる確実な方法春日太一(映画史・時代劇研究家)/羽根田治(山岳ライター)

山のさまざまな危険に警鐘を鳴らす『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(羽根田 治著、幻冬舎新書)が発売2週間で重版となり好調だ。

6月某日、渋谷・大盛堂書店にて、本書刊行を記念して羽根田 治氏と、羽根田氏のファンを公言する映画史・時代劇研究家の春日太一氏によるトークイベントが開催された。

大盛り上がりとなった対談をご紹介する全3回の3回目。遭難してしまった際、パニックを早くしずめる方法とは!?

*   *   *

羽根田治氏(向かって右)と春日太一氏(写真:幻冬舎plus編集部)

本に載せられなかった「山はおそろしい」事例

羽根田 『山はおそろしい』に本当は、もうちょっとほかの事例も入れたかったのですが、なかなか取材力不足で。もう2、3ぐらい、入れたかった。

春日 そうなんですか。言える範囲でかまわないのですが、どういったものが候補でしたか。

羽根田 これはヤマレコなどでもアップされている話なので、ご存じの方が多いと思いますが、以前、女性の単独行の方が、登山口の手前にある登山届ポストに登山計画書を入れて登り始めて、頂上かどこかで単独行の男性と出会って、ちょっとお話しをして、別れて降りたんですね。

ところが次に山に行ったときも、またその男性と会った。偶然ではなくて、女性が前回ポストに入れた登山計画書を抜き取られて、個人情報がバレバレになっていたわけです。
その女性のSNSだかブログだかも特定されてしまって、だから次にどこの山に行くのかが分かっていた。ストーカー状態ですよ。

春日 いや、それは怖いですね。あり得そうです。先ほどおっしゃっていたヤマレコでも、女性が「私、今週末にこの山に登ります」なんて書いている場合もあると思うんです。あるいはFacebookなどで。
そうすると、やましいことを考えている人が同じ山にやってくる可能性というのは、あり得るわけですよね。

羽根田 そうですね。自分の行動予定を不特定多数の人に教えてしまっているわけで、それは怖いですね。
ただ、また別の面もあります。万が一遭難したときに、SNSなどに行き先や登山途中の情報を上げていればここの山に登っているんだなという足取りを追う手がかりになったりすることはあるので、一長一短だと思いますね。

恐怖! 春日氏の遭難未遂体験

春日 そういえば思い出した。これは羽根田さんの本に出会う前の話なのですが、七尾城という、上杉謙信が落とすのに2年ぐらいかかった大変な山城が能登にあるんですけれど、そこに行ってきまして。

タクシーで山の上まで上がって、下りは歩いて帰ろう、下りならいいだろうと思いました。

下りる途中に人と行き合って、あとで分かったのですが七尾城の資料館の方でした。その人と出会って、じゃあ一緒に下りようか、と言ってくれたんですよ。
今思えば、僕の服装を見て、こいつ危ないなと思ったんでしょうね。普通のスニーカーにボディバッグ1個下げて、シャツにジーンズという格好でしたから。

でも「いや、大丈夫です、どうぞお先に」と言ってしまいました。自分のペースでゆっくり下りたかった。

まあ、「ゆっくり下りたかったから、経験者と同行しない」っていうのも、これもう一つの危険なパターンですよね。この時はまだ羽根田さんの本を読んでいなくて――。

それで、一人で下りていったら、台風の直後だったから木が倒れて、道がつぶれているんですよ。倒木をくぐったりしながら、途中、冗談半分で、当時のガラケーで写真を撮ってTwitterに上げていました。すると知り合いの間では「春日が遭難しかかっている」という話になっていました。

実際の写真(提供:春日太一氏)

今から思うと本当に危なかった。間違った登山道を行ってしまって、でもたどり着いた先が田んぼの真ん中だったんですよ。ここから、またどう一般道に出ればいいか分からない。途方に暮れました。
無事に資料館に着けてよかったですが、途中「イノシシ注意」の注意書きも見かけたし、何か起きていても不思議じゃなかったかもしれません。

実際の写真(提供:春日太一氏)

逆にいうと、あのときTwitterに写真を上げていたから、もし何かあったら「七尾城下山途中のこのあたりまでは、あいつは行ってた」と、分かってもらえた可能性はあるわけですよね。

羽根田 似たような話が何年か前にありました。四国霊場を回っていた方が、山にあるお寺に行って遭難してしまった。それをSNSに上げて、投稿を見た人が通報して助けられたという事例があったんです。

春日 ああ、そうですか。そうなるとSNSへの投稿は本当に考えようだし、登山前だとストーカー対策として情報を出さないとしても、登り始めてからの投稿は役立つかもしれませんね。
ただ、緊急連絡用とSNS用と、スマホは分けておいたほうがいいでしょうね。山の中で写真を送ったりすると、バッテリーをすごく使いますから。

羽根田 でも登山中にSNSに投稿すると、下で待ち伏せされたりする可能性はありますね。

春日 そうか。怖いですね。まさに『山はおそろしい』です。最後の章タイトルは「人間が怖い」ですが、やっぱり、そういう悪意ある人がいる可能性は頭に入れておいたほうがいいですね。

遭難時のパニックをどう沈めるか

春日 会場のみなさんから質問がありましたら、どうぞ。

女性 羽根田さんの本をたくさん読んで、勉強してきたにもかかわらず、一人で山に行って、低山だったのですが、道に迷ったことがありました。
やっぱり全然冷静でいられず、地図を見ても、パニックになっているので、今どこにいるのかまったく分からなくて、大変な思いをしたことがあります。
幸いほかの登山者に出会って、その方に登山道まで連れていってもらって無事に下山したのですが、このようなときに、落ち着く秘訣はなにかありますか

(写真:iStock.com/LPinchuk)

羽根田 道に迷ってしまうとパニック状態になってしまうと思うので、まずとにかく、止まることですよね。止まって、ザックを降ろして、休む。
水を飲むなり、行動食を食べるなりして、ひと息つく。それから地図を見たほうがいいです。

スマホの地図アプリ、使っていらっしゃいますか。あれを使えば現在地が一目瞭然なので。スマホのバッテリー切れには注意しなければならないですけれども、地図アプリを入れておくのと、とにかく落ち着くこと。

あとは、ビバークの装備、ツエルトなどを持っているなら「最悪、一晩過ごせばいいんだ」ぐらいに考える。
「どうしても今日中に帰らなければ」「連絡を取らなければ」と思うと、それが焦りにつながってしまいます。
開き直って「このまま焦って右往左往してもドツボにはまるばっかりだから、一晩帰れなくても、あした明るくなって降りればいいや」ぐらいに考える。そうすればちょっとは気分が落ち着くんじゃないかと思います。

とにかく、今どうにかしなきゃ、今を打開しなきゃ、今日の日が暮れるまでに降りなきゃならないと思うと、余計に焦ってきてしまいます。

女性 そうでした。まさにそんな感じで、暗くなったらどうしようって……。

羽根田 焦って命を落とすよりも、下山が一日遅れて、ちょっと遭難騒ぎになっても、生きて帰ったほうがいいやぐらいに考えたほうがいいです、間違いなく。

春日 あとやはりね、新田次郎のころから言われている「沢に下りない」。

羽根田 そうですね(笑)。

春日 これですよね。羽根田さんの本にもさんざん出てきます。「沢には絶対に下りない」。沢に下りたら登り返す。

羽根田 そうです。間違いないですね。

春日 それをやれば、最悪は防げるということですよね。「沢に下りない」って、登山者はみんなTシャツなんかにプリントで入れておいたほうがいいと思う

羽根田 そうしたらたぶん遭難事故、減りますよね。

春日 そうですよね。あわててしまってもそれが目に入れば「沢に降りない、ああそうだ、沢に降りない、沢に降りない」。
キャップの裏に書いておくとか、それぐらい必要かもしれないですね。

(構成:幻冬舎plus編集部)

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ちょっとした知識で生還率が大幅に上がる!『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』好評発売中

関連書籍

羽根田治『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』

クマ襲来、落雷直撃、救助直前にヘリが墜落、他人の巻き添えで崖から滑落……。山ならではの危険から生還する術を体験者の証言とともに解説。山に繰り出す前に必ず読むべし。

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山はおそろしい

2022年5月25日発売の『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(羽根田 治・著)の最新情報をお知らせします。

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春日太一 映画史・時代劇研究家

1977年、東京都生まれ。日本大学大学院博士後期課程修了。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『時代劇は死なず! 完全版 京都太秦の「職人」たち』(河出文庫)、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文春文庫)、『すべての道は役者に通ず』(小学館)、『忠臣蔵入門 映像で読み解く物語の魅力』(角川新書)など多数。

羽根田治 山岳ライター

1961年、埼玉県生まれ。フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術にまつわる取材を重ね、雑誌「山と溪谷」「岳人」や書籍で発表する一方、沖縄、自然、人物をテーマに執筆活動を続ける。『人を襲うクマ』『野外毒本』『ドキュメント 生還』(いずれもヤマケイ文庫)、『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』(山と溪谷社)など著書多数。小学生のときから登山を始め、現在はピークハントやハイキング、テレマークスキーを楽しんでいる。

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