幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
月村了衛『脱北航路』
一方こちらは現代が舞台。隠密裏に企てた作戦が北朝鮮の軍港で実行に移されようとしていた。潜水艦に乗った海軍の精鋭たちが軍事演習に乗じて脱北を図る。目的地は日本。しかもその潜水艦には、45年前、北朝鮮によって拉致された日本人女性・広野珠代が乗っている。珠代を連れていれば、日本は亡命を受け入れると踏んでの行動だ。もちろん脱北を図れば自国からは敵として追われる。計画はやがて全軍が知ることになり、潜水艦と北朝鮮全軍の死闘が始まる……。
一方、舞台は転じて日本。老いてなお自責の念に駆られる2人の男がいた。元警察官と老漁師。ともに、45年前、珠代が拉致されたのではないかという疑いをそれぞれ別の場面で抱いていた。あの時、自分が動いていれば……、そのわだかまりは一生消えるはずがない。
拉致被害者である珠代を同心円に、北朝鮮軍、脱北を試みる兵士、日本政府、永遠に十字架を背負い続けた者たちの物語がつづられていく。
小説の場面は当然ながらほとんどが潜水艦。乗組員たちが狭い空間をかけずり回り、時には大声を出し、時には敵艦のソナー探知に怯えて息を潜めたりするのだが、あまりにも描写がリアルで読者までもが息苦しくなる。そして、登場人物たちと共に怒りに震え、涙を流す。
22年2月、日本からは遠い国で戦争が始まった。相変わらず北朝鮮は頻繁にミサイルを放っている。壮大ではあるが、けっして絵空事ではない本物のサスペンス小説。22年度の幕開けにふさわしい骨太の1冊だ。
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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