1. Home
  2. 社会・教養
  3. パパ活女子
  4. パパ活の「パパ」になって妻に台無しにされ...

パパ活女子

2022.01.26 公開 ツイート

パパ活の「パパ」になって妻に台無しにされた人生を取り戻したい60歳男性の胸のうち 中村淳彦

女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探す「パパ活」。今、コロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできているといいます。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場だと『パパ活女子』で著者の中村淳彦さんはその実状を活写しました。では、パパ活のパパになる男性とはどういう人たちなのでしょうか? 中村さんは男性たちへと迫りました。

(写真:iStock.com/metamorworks)

「私たち人類は、人を好きになるという素晴らしい能力を獲得した地球上唯一の生物です。そして人は、人を好きになることによって人生を輝かせることができます。限られた残りの人生のロマンスとリスク管理を私達にお任せください――」

交際クラブ――愛人マッチングサービス最大手・ユニバース倶楽部は、そんな言葉を掲げて営業している。渋谷宇田川町にあるユニバース倶楽部の本社には、日々男性会員、女性会員が出入りする。女性会員は20代~30代前半、男性会員は40代、50代の既婚者が中心となっている。愛人を求める男性たちは、いったいどのような人たちなのだろうか。ユニバース倶楽部本社で待機、男性たちの取材をすることにした。

「妻はどうして離婚をしてくれないのでしょうか?」

藤原秀幸さん(仮名、60歳)はリーバイスのヴィンテージデニムにウールジャケット、アルペンハットを纏うオシャレな男性だった。穏やかで優しそうな紳士である。3年前に大手企業を早期退職し、現在はコンサル的な立場で地方の企業に勤める。現在の年収は800万円ほどで、32年前に結婚した妻とは別居中。大学生の娘と息子がいる。

「妻と子どもたちとは10年前から別居しています。夫婦仲がよくなくて、僕が妻にいびりだされたみたいな。家は常に居心地が悪かった。妻は掃除ができないので家は荒れて、最終的にはゴミ屋敷みたいになっちゃって。買ってきたものはそこら中に置いちゃうし、これどうするのっていうとキレる。毎日、毎日、怒鳴られるので妻にはほとほとウンザリしました」

妻の話になると、途端に表情が曇る。心からの嫌悪を感じる。妻は一歳年下の会社の同僚で、同じ技術職。28歳のときに社内恋愛し、お互い適齢期だったことで結婚となった。バブル全盛期であり、都内のホテルで盛大な結婚式をした。妻は寿退社することはなく、子どもが産まれてもそのまま仕事を続けた。

「妻との結婚は、取り返しのつかない若気の至り。若い頃、人を見る目がなかった。実は私、童貞を捨てたのは27歳のとき、相手は妻でした。流されて結婚になってしまって、人生の半分を棒にふってしまったわけです」

夫婦仲がおかしくなったのは子どもが生まれてからだった。子育てのこと、保育園のこと、学校のこと、あらゆる意見がぶつかった。意見の相違だけでは終わらず、妻は優しく穏やかな藤原さんに対して徹底的に強くあたるようになった。

「家庭は私にとって嫌なことばかり。最終的に一緒にいることが耐えられなくなった。毎日怒鳴りあって、いびられ、自分の人生ってなんだったのだろうって悩んでしまったのです」

悩みのピークは10年前だった。朝食のとき皿を叩き割られて、精神的な限界を超えてしまった。すさまじい音がして、ガラスが粉々になってサラダが飛び散った。こんな朝食が生きている間、ずっと続くと考えたとき、得体のしれない絶望感に襲われた。

苦悩した。自殺はどう? 子どもがまだ中学生なので死ぬわけにはいかない。妻を殺すのはどう? 犯罪者になって刑務所で暮らしたくない。眠れない夜、いろいろ頭に浮かんだ。離婚は? あの妻と離れ、趣味のあう優しい女性と再婚できたらどれだけ幸せだろうと思った。

「調停するために家庭裁判所に駆け込みました。妻には離婚調停をしましょうって話した。そうしたら向こうは調停で別れる気はありませんって宣言して、取り下げろとか、親を使って圧力をかけてきた。調停員には『え、別居もしてないんですか』っていわれて、まずは別居しなきゃならないのかって知りました」

はぁぁ~、語りながら深いため息をつく。妻のことをわずかでも思いだすと気分を害するようで、32年間で嫌なことが集積した夫婦の末路だった。具体的になにがあったのか聞くと、日々の恫喝、皿をたたき割る、フットサルを習うことを絶対に許さなかった、地獄ですよ地獄……みたいなことをポツリポツリという。

「妻はどうして離婚してくれないのでしょうね。私が聞きたいくらいです。それと僕が離婚をしたかったのは、婚活をしたかったから。10年前は50歳でした。まだ人生をやり直せる、出直したいと思っていました。婚活するには独身じゃなきゃいけない。だから離婚を急いだ。でも、ダメでした。その最後の願いも、妻に邪魔されました」

27歳のときにはじめて恋愛した女性とそのまま結婚

まだ中学生だった子どもといつでも会えるように、自宅から歩いて5分ほどのマンションを借りた。別居。妻のいない狭い部屋は、あまりにも心地がよかった。結婚から22年間、無限にあった夫婦喧嘩――本当に疲れきっていた。一人ベッドで低い天井を眺めながら、どうしてこんなことになったのかを考えた。そもそも28歳のときに、妻と結婚したのが取り返しのつかない大きな間違いだった。

昔を思いだした。藤原さんは東京の中高一貫の名門校男子校出身、ずっとマジメだった。中高の6年間は女子と一切かかわることがなく、進学した大学サークルで小学校以来に女子と接したほどだ。女子を目の前にすると、意識してしまってうまく会話ができなかった。女子が得意ではなかったことが、結果的に相手選びの選択肢を狭めてしまったのかもしれない。

バブル全盛期、大学キャンパスは男女交際が盛んだった。藤原さんは「初体験は好きな人としたい」という思いが強かった。大学在学中に何人か気になる女子はできた。そのうちの2人にはガチガチに緊張しながら告白した。ふられた。大学3年のとき、サークルの夏合宿で同級生の女子からキスを迫られたが、好きでなかったので逃げた。結局、在学中に恋愛が成就することはなかった。

そして大手企業に就職した。5年目、同じ部署の同僚だった妻と恋愛関係になる。初めての恋愛であり、27歳で童貞を捨てた。気難しいタイプで、いままで長年思い描いていた「好きな人」ではなかったが、好きだと思った。ある日、妻から結婚を求められた。適齢期だったことと恋人としての責任を感じて、そのままゴールインしている。

「やっぱり、若い頃にいろいろやっておけばよかった。別居して一人になって、改めてそう思いました。離婚はできなかったので婚活はできない。いまできることをやろうと思って、風俗に行くようになりました」

別居するまで浮気は一度もしていない。50歳で経験人数は1人だった。藤原さんは風俗に行く、と決めた。しかし、誰かに見られたらどうしよう、風俗嬢と会話ができないんじゃないかという不安があった。不安があるので、なかなか一歩を踏みだせなかった。

風俗に行くと決めた数か月後、神戸出張のときに勇気をだしてはじめてソープランドに行った。女子大生のような女の子がでてきて、すぐに裸になり、ニコニコしながら性的サービスをしてくれた。夢みたいな場所だと思った。

「風俗にはハマりました。ソープランドだけじゃなくて、大阪の新地とか鶯谷の韓デリとか、六本木のSMクラブにも行きました。一人暮らしをしながら風俗でいろいろな女性と接しているうちに、再婚にこだわる必要はないんじゃないかって思うようになった。女性とは一対一のパートナーではなくて、お互いに距離感があったほうがいいんじゃないかって。一人で暮らしは気楽だし、嫌なことはないし、誰からも束縛されないし、気づいたら婚活とか離婚は頭からなくなっていきました」

離婚をするならば財産分与があり、妻と顔を合わせて争わなくはならない。晴れて離婚して再婚相手が見つかっても、新しいパートナーに束縛される制限ある生活となる。

「離婚は面倒くさい。財産は折半としても、持ち家を売って現金をわけるじゃないですか。妻が私のぶんのお金を払うかといえば、そんなお金はないだろうし、僕が放棄して全部あげればいいかというと、それは絶対にしたくない。じゃあ、今のままでいいって。このまま別居して事実婚の反対の事実離婚でもいいかなって。そう思ったわけです」

ソープランドの女性にハマったあとパパ活の存在を知る

3年前、早期退職に手を挙げた。会社に行く必要がなくなって、午前中や昼間から吉原に行くようになった。そこで、ソープ嬢・七瀬さん(仮名、34歳)と出会った。日課である吉原ソープランドの店舗ホームページをサーフィンし、好みのスレンダーな女性を探して予約する。七瀬さんはくびれが綺麗だったので、すぐに電話した。

ソープランドでは待機室から店員に呼ばれ、案内される。七瀬さんは小柄でスレンダーな好みの女性だった。挨拶するとすぐに下着姿になって、藤原さんのズボンを脱がしてくる。お互い真っ裸になったあたりで、好きなサッカーや映画の話になった。藤原さんは夢中で話してしまった。欲望が勝ってマットプレイからセックスになり、コンドームに発射。20分以上、時間があまっていた。また欧米のサッカークラブの話をした。いままの人生で記憶にないほど、本当に楽しい時間だった。

一週間後、また予約した。やがてホームページの彼女の出勤スケジュールだけを眺めるのが日課となった。通った。

「ひとりお付き合いした人がいて、その人と数か月前にお別れしたんです。その方は元風俗嬢で。いま34歳。吉原の女性。平日10時~17時という普通の会社と同じシフトで、シングルマザーの方でした。趣味の話があって仲良くなって、とても気さくで話がやすくて、隠したり嘘ついたりは嫌だからって。わりと正直にいっちゃうよって、いろいろお話しました。癒されました」

「お付き合いした」といっているが、常連客という関係性だったようだ。風俗嬢は身バレしたくない仕事なので、基本的には男性客に自己開示はしない。足繁く通って少しずつ距離を縮めた。

「けっこうリピートして。なかなか会えないときもあった。辞めちゃったのかなって。数か月ぶりに予約して会ったとき、すごく喜んでくれた。家族の看病で長期間休んでいた。そのとき、たまたま4日前に韓デリに行って病気をうつされた。4日しか経ってなかったから気が付かずに彼女とプレイして、これはヤバイって。一週間くらいしてから、お店休んで受診してほしいってお願いした」

淋病だった。七瀬さんにもうつっていた。

「申し訳ないから補償させてって。週3回だいたい一日3人相手して、日当は5万円くらいだって。20万円を振り込もうと思ったけど、名前はバレたくないかなって気を使って外で会ったんです。ランチを一緒にして、公園でデートした。お金を包んで渡して、そのとき彼女からシングルマザーであることを聞いて、子育ての話をした。仲良くなった。でも、お店に在籍しているときに外で会うのは倫理的に許されないじゃないですか。お店に対して裏切りになる。お店で働いている人にとっても、僕も紹介された方と、お店以外で会うのはNGと思っていたので、お店をやめるまでは、お店で会いましょうという話をしました」

藤原さんは真面目な性格である。店外デートは禁止という店のルールを遵守した。

「彼女のことは好きでした。でもルールを守ったので、恋人同士みたいな関係にはならなかった。僕が10歳若かったら行動が違ったかもしれない。けど、若い人の人生に迷惑をかけたくないって気持ちもあったし、僕自身が離婚できていない既婚者。のぼせ上って離婚するとかやっちゃったら、たぶん泥沼になる。お店の女の子だし、気持ちの一線を越えてはいけないっていうのは、長年サラリーマンをやっていた私の選択でした」

好きという気持ちを伝えることなく、店のルールを守った藤原さんは熱心な男性客で居続けた。

「僕みたいなお客さんいる? って聞いたら、いるって。たくさん支援してもらってねって。彼女のことはいろいろ考えたけど、独り占めするのもどうかなって思ったし、彼女の収入源を絶ちたいとは思わなかった。他にもいるよって言ってくれたから、自分の気持ちが抑えられた。安心した部分もあった。結局、店を辞めてから会うようになったけど、こちらから何日だったら休みがとれるよっていっても、連絡が返ってこなかったり、約束しても当日に体調悪くて行けませんってことが続いた」

3か月前、七瀬さんから「このたび第二子を妊娠して、相手の男性と結婚する運びとなりました。いままでありがとうございました」というラインがきた。藤原さんは「おめでとう」と返信し、出産祝いとして3万円を振り込んだ。約3年間に及んだ恋愛は終わった。

「さあ、どうしようってときにパパ活を知りました。七瀬さんのような七瀬さんのように頑張っているシングルマザーや自分と同じく卒婚をした30-40代以上の素敵な女性と本音を曝け出して互いに癒され、そして支援して差し上げられるようなパートナーの方と巡り合えたらいいなと思っています。継続して会える方が見つかれば、お相手が許される期間まで恋愛をしていきたいです」

藤原さんは結婚ではないパートナーを欲している。残りの人生を豊かにしたい、癒されたい――そう思っている。ソープランドのホームページは卒業して、ユニバース倶楽部の女性会員の閲覧が毎朝の日課となっている。

関連書籍

中村淳彦『パパ活女子』

「パパ活」とは、女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探すこと。主な出会いの場は、会員男性へ女性を紹介する交際クラブか、男女双方が直接連絡をとりあうオンラインアプリ。いずれもマッチングした男女は、まず金額、会う頻度などの条件を決め、関係を築いていく。利用者は、お金が目的の若い女性と、疑似恋愛を求める社会的地位の高い中年男性だ。ここにコロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできた。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場なのだ。拡大する格差に劣化する性愛、日本のいびつな現実を異能のルポライターが活写する。

{ この記事をシェアする }

パパ活女子

11月25日発売の幻冬舎新書『パパ活女子」について

バックナンバー

中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP