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パパ活女子

2021.12.26 公開 ポスト

「東北弁で話すと肉体関係を諦めてくれる」20歳パパ活女子のしたたかな戦略中村淳彦

女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探す「パパ活」。今、コロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできているといいます。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場だという『パパ活女子』(中村淳彦著)より、第三章「パパ活男性をウンザリさせる『茶飯女子』」の一部をお届けします。「茶飯女子」とは男性とお茶か食事をしてお金をもらい、恋愛やセックスは一切拒否するスタイルでパパ活をする女性たちのことです。
 

(写真:iStock.com/Pannawat)

顔合わせで一回食事するだけのパパ活

パパと食事することを希望していた吉川麗美さん(仮名、20歳)にメッセージを送ると、具体的な話はなにもないまま、すぐに会うことになった。彼女から指定されたのは、西武鉄道が開発した埼玉県郊外の駅前だった。

「ごんにちわ、なかむらさんだべか。どおくからもうしわけなか」

駅前で待っていると、小柄なかわいい女の子が近づいてきた。そして、こう声をかけられた。なにをいっているかわからない。筆者は言葉を失った。

「いわべからきたばかりで、とうきょうはほどおおいのできんじょがええがなって。わざわざありがとな」

明るい笑顔、でも、なにをいっているかわからない。わからないので返答できない。しばらく考えたのち、「こんにちは、中村さんですか。遠くまで申し訳ないです。岩手県からきたばかりで、東京は人が多いので近所まできてもらいました。わざわざありがとうございます」だと理解した。東北の方言だった。

話が通じるのかわからなかったが、その場で取材であることを伝えると、かわいい顔はそのままで「あーわかりました。身バレしなければ、全然いいですよ。ご飯もいらないです」と、方言でなく共通語で返ってきた。

掲載されていたプロフィールは、おおよそ本当のことのようだ。

2年前に美容専門学校進学のために上京して、2020年4月1日から有名美容室で働き、コロナで客足が途絶えて5月中旬で解雇になっている。それから取材時(2020年6月末)まで茶飯だけのパパ活で食いつないでいた。プロフィール文で「食べることが大好き!」「お肉が大好き!」と食事を強調するのは、茶飯による顔合わせに誘導するためだという。

「パパ活は、半年前の美容学校2年生のときから。在学中は17時から21時までしか時間がなくて、4時間で3人のパパと食事するんですよ。焼肉とか焼き鳥とかハシゴになっちゃうから、めちゃ太る。パパ活はめちゃめちゃ太ります。太りだしてまずいと思って、わたし、小食なんですぅ、みたいなことをいって、自分はあんま食べなかった。この辺(西武沿線の埼玉県)でひとり暮らししているので、都内まででるのは面倒。だから、新宿か池袋で一日に何人も会うんですよ」

サイトに掲載する写真は、オシャレでかわいい女の子という印象で、実際もその通りだった。プロフィール文には、「そういう関係はお互い信頼できる関係になってから」と当日の肉体関係はキッパリと断りながら、その先を匂わせている。半年間、ずっと男性からのオファーはひっきりなしだという。

食事に同席するだけなので、相手は選ばない。誰でもいい。なので、自分の都合でどうにでもなる。まず、どこかで丸一日パパ活をする日にちを決める。連絡がきた男性にメッセージを送りまくり、場所は新宿か渋谷で11時、13時、15時、17時、19時、21時とアポイントを詰め込む。やってきた男性と食事して、食事が終わると約束していた5000円~1万円を請求し、お金をもらったらすぐに手を振って帰る。そんなパパ活を繰り返している。

プロフィール文を真に受けた男性たちは、麗美さんに喜んでもらうために焼肉店を予約する。昼間のランチだったら安価だが、夜の待ち合わせになると数万円する高級店なこともある。男性たちは20歳の女子との出会いに期待を膨らませ、喜んでもらうために好きな焼肉を準備する。しかし、彼女にとっては、高級焼肉店は4食目だったり、5食目だったりするので、会話が盛りあがらないのは当然、食べることすらしてもらえなかったりする。

「パパ活で会うおじさんには、まず方言を使います。食事中もずっと方言でしゃべって、聞かれたら処女っていいます。東北弁って悲壮感があるというか、なんかかわいそうな感じに見られる。方言で話すと、口説かれないし、肉体関係みたいなことを求められない。たまに肉体関係を求められても『しょじょだべ(処女です)』みたいに返すと、相手は諦めて、君はそのままでいいよってなる。

だから、パパ活で東北弁はすごく都合いい。キスも求められることあるけど、そのときは『へるべすだべ、うつるべ(ヘルペスなのでうつっちゃうのでできないです)』っていいます。そうすると、それ以上求められません」

年間で、100人以上の男性と会っている。茶飯だけで月20万円前後を稼ぐので、無職でも家賃を払って生活ができている。男性は40代が多く、直接的、または遠まわしにキスや肉体関係を求められるのは3割ほど。悲壮感のある東北の方言で誘いをうまくかわし、お手当だけをもらっている。いまのところ、誰一人とも肉体関係になっていないのはもちろん、誰とも二度は会っていない

「メッセージで事前に肉体関係誘われたときは、2回目以降は大丈夫です! みたいな感じで返してます。やっていることは、とりあえず会って方言でしゃべる、それで食べ終わったらお金をもらう。それだけです。一度会うじゃないですか。そこでこんな口調でしゃべると、おじさんはその気が失せるんです。やっぱりいいや、って引いてくれます。だから、顔合わせで一度食事するだけのパパ活ですね。

定期的な関係になると、どうしても人間関係が生まれて、肉体関係になっちゃうだろうから二度は会いません。いちいち、セッティングするのが面倒くさいけど、ずっと顔合わせと食事だけで稼いでいるし、これからも、それしかするつもりがない。理由はおじさんとはしたくないからです」

麗美さんは中年男性と肉体関係どころか、一切の人間関係も築かない戦略で、パパ活で稼いだお金だけで生活を支えていた。

親は学費も生活費もだしてくれないから

普通の感覚だと、なにか期待している人と対面して、期待を裏切ることはストレスがかかる。どうして、そこまで徹底できるのか。

親が進学に反対する貧しい家庭に育ったようだ。東北の田舎は祖父母の時代からずっと大学進学率は低く、進学は贅沢という意識がある。大学どころか東京の美容学校の進学を希望しても、当然のように理解されなかった。高校卒業からは一切親からの援助はなく、美容学校の学費もすべて自分で払ったという。

ひとり暮らしするのは、西武新宿線沿線の郊外の新築アパート。少しでも家賃が安いところを探したので、駅から徒歩20分以上かかる。鉄筋造で家賃4万5000円、上京してからずっと同じ部屋に住んでいる。美容学校時代もいまも、自転車で駅まで行って満員電車に乗る。東京で暮らすまで満員電車は見たことがなく、本当に驚いたという。

「田舎者なのと、東京暮らしに憧れがあったので、どうしても汚いアパートは嫌でした。だから遠くても綺麗な部屋のほうがよかったので、埼玉県になっちゃった。お金だけの問題ですね。東京の家賃はどう考えても払えないです」

高校から学校の授業以外はすべてアルバイト、最低賃金ながら3年間ずっと月10万円以上を稼ぎ続けている。東京の原宿の美容室で働くことは、小学校の頃からの夢で、それは実現した。

「親が子どもに一切お金をかけたくないって人。だから、高校1年からずっとバイトばかり。居酒屋の掛け持ちとコールセンターと。バイト行って、バイト行って、授業にでて、バイトみたいな。授業が終わったらコールセンターに行って18時まで、それから繁華街のほうに移動して19時から居酒屋みたいな。それが毎日。18歳を超えたら22時以降も働ける。誕生日早いので高校3年からは24時までやりました」

高校3年のとき、親にこれからどうするのか聞かれた。美容学校に進学したいというと、ふざけるなと怒鳴られた。進学は絶対にダメで、就職しろといわれた。

「だいたい、岩手県に就職先ないですよ。高卒だったら介護くらい。そんなの絶対考えられない。父親はパチンコ好き。たぶん借金があるから、あんなに進学に反対したんだと思う。父親は絶対に進学は許さないだろうなって、案の定だった。だからバイトをしまくって貯金した。高校卒業のとき160万円くらい貯まっていて、半分家出みたいな感じで美容学校に進学しちゃいました。全部、自分のお金です」

美容学校は学費が年間150万円かかる。奨学金をフルで借りて学費に充てて、家賃と生活費は自分で稼いだ。上京してからも居酒屋で長時間労働して、どうしても足りないときにはガールズバーで働いた。

「だから、パパ活はじめました」

居酒屋での長時間労働、それにガールズバーで働いてもお金が足りなかったので、パパ活をすることになった。パパ活はネットに情報が載っていたり、美容学校の友だちから聞いたり、なんとなく存在は知っていた。オンラインのサイトに登録して、パパ活をはじめている。

おもしろいようにおじさんたちからメッセージがきた。おじさんたちは、みんな麗美さんに会いたがった。ネットでパパ活について調べると、食事だけでお金を払うおじさんの存在を知った。試しにやってみると、本当にお茶や食事をするだけでお金になった。

何度か繰り返しているうちに、おじさんは若い女子と恋愛したい希望があることを察した。プロフィールに「そういう関係はお互い信頼できる関係になってからと考えております」と、当日の肉体関係は拒絶しながら、未来を匂わせる文章をいれた。食費を浮かせるために焼肉好きの女の子というキャラにして、食費が浮いた上にお金までもらえる。パパ活は人生でもっとも楽で、もっとも効率のいい仕事だった

コロナの影響で美容学校は2月卒業となった。美容室の入社日までひと月以上もあり、初任給がもらえるのは4月末、だいぶ先だ。空いている時間に重点的にパパ活をやることにした。それまで一日1人、もしくは2人だったが、3人、4人と会う人数を2倍以上に増やした。3月は月30万円以上を茶飯だけで稼いでいる

2020年4月1日、入社。朝8時半出勤、閉店作業をして終わるのは21時。そこからカットの練習をする。緊急事態宣言が出ると客足は前年度比7割減、店の雰囲気はどんどん悪くなった。

「原宿にまったく人がいないし、お客さんも来ない。ずっと東京に憧れて、親の反対を押し切って有名店に就職もできて、やっとこれからってときにコケちゃいました。5月末に店長に呼びだされて、もう来なくていいって。辞めたくないっていったけど、どうしても自主退職してほしいって」

売り上げを生まない正社員のアシスタントから人員削減となって、麗美さんは真っ先にリストラ対象となった。

「クビになっちゃったので、またパパ活漬けです。特に最近は、たくさんのおじさんと会っていて。食事5000円でも、月20万円くらい稼げてます。コロナが落ち着くまでパパ活続けます。落ち着いたら、どこか美容室に就職します」

麗美さんに謝礼として茶飯と同じ金額5000円を渡した。慣れた手つきで5000円札を受け取って、財布にしまった。そして、すぐに徒歩20分以上という家に帰っていった。

関連書籍

中村淳彦『パパ活女子』

「パパ活」とは、女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探すこと。主な出会いの場は、会員男性へ女性を紹介する交際クラブか、男女双方が直接連絡をとりあうオンラインアプリ。いずれもマッチングした男女は、まず金額、会う頻度などの条件を決め、関係を築いていく。利用者は、お金が目的の若い女性と、疑似恋愛を求める社会的地位の高い中年男性だ。ここにコロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできた。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場なのだ。拡大する格差に劣化する性愛、日本のいびつな現実を異能のルポライターが活写する。

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パパ活女子

11月25日発売の幻冬舎新書『パパ活女子」について

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中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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