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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2022.01.12 更新 ツイート

新成人に言いたいことは「魔法の使い方には気をつけろ」だけ カレー沢薫

今年もまだ始まって10日あまりだが、すでにここに書くのは若干憚られる額をウマ娘に使ってしまっている。
若い実況は「良いスタートダッシュです」と言っているのに対し、ベテラン解説は「かかり気味かもしれません、ここから立て直せるといいんですが」と、すでにここからの「荒れ」を察知している。

 

ウマ娘のレースでも、最初は快調でも途中でスタミナが切れてゴール前では「ほぼ徒歩」ということも珍しくない。
ペース配分は慎重に行っていかなければならないが、それは全てサイゲームスの采配次第であり。

一気に我々から搾り取って逃げ切りという作戦は、ソシャゲという地中期を含めたらセミより寿命が短い短距離走には向いている。
だがあえて御社にはこれを「長距離走」と考えていただきたい。
我々のペイデイやクレカの締め日後に毎月ガチャというロングスパートを維持しつつも、アニバーサリーに人権を出して一気に追い込むという、手に汗と子供の給食費を握る展開を7周は続けて欲しい。
やはり7冠達成してこそのウマである。

ぜひゲームだけではなく、我々のことも長い目で見ていただきたい。
よってせめて、3回に1回ぐらいは、股間社長どころか血気盛んな新入社員ですらケツに根が生えるような虚無ガチャを挟んで我々を休ませて欲しい。
長く走らせたいなら休養、鞭だけではなく飴も必要なのだ。

ちなみにこれを書いているのは1月10日、つまり成人の日である。

新成人たちに「こんな大人になっちゃダメよ」と、CVさだまさしで言うつもりはない。

むしろ大人が何かに本気で取り組む自分を卑下している姿は、町内の庭先フルチソおじさんの次に、子供や若人に「見ちゃいけません」と、限りなく掌底に近い目潰しを喰らわせなければいけない映像だ。

ただし間違っても「模範」というわけでもない。
ただ「こういう生き方しかできない人間もいる」と言う悲哀と無常感さえ網膜に焼き付けてくれればいい、俺が若人に示せるのはそのぐらいだ。

だがもう一つ自分に言えることがあるとしたら「魔法の使い方には気をつけろ」と言うことだ。

そういうと「ど、童貞ちゃうわ!」と血相を変えて起こり出す方もいるかもしれないが、そういう魔法ではないし、童貞を捨てている方が偉い、と言うのもファンタジーなので安心して欲しい。

成人すると酒やタバコがやれると言う点に目が行きがちだが、他にも様々な契約が保護者の許可なしにできるようになる、と言うのがある。

成人が18歳になっても飲酒喫煙は二十歳据え置きだが、契約に関しては18歳解禁も多いと言う。

つまりクレジットカードをはじめとして「今金がないのにものが買える魔法」が使えるようになるのだ。

成人前は、手持ちがなければ諦めなければいけなかったものを諦めずに済むと言うのは画期的であり、魔法としか言いようがない。
だが、この魔法は無から金が発生するわけではなく、自分の金の前借り、つまり自分の未来を使っているのである。

そのぐらい知っているとは思うが、知っていても「忘れる」場合がある。
クレカを使った瞬間、顔が10歳ぐらい老けてくれるなら「これはやばい」とすぐに気をつけるが、この魔法は使った瞬間はマイナスが何もなく欲しいものだけ手に入る上、マイナスが来るのは1、2ヶ月先だったりするので、その間に魔法を使っていたことを忘れ、何回も魔法を使ってしまう恐れがあるのだが。
これはMPという名の限度額を使い切ることで一応ストップはできるのだが、その時にはかなり取り返しがつかないことになっている。
MPであれば宿屋に泊まれば回復するのだが、限度額は寝ても復活しないし、むしろ「夢ではなかった」ということがわかるだけだ。

成人前は色々不自由を感じることも多かったと思うが、逆にいえば不自由という名の檻に守られていたとも言える。
檻の外には自由を手に入れてはしゃぐ若人を主食にしている肉食動物も割といるのでそれは気をつけてほしい。
若さというのは唯一無二の武器ではあるが、同時に狙われやすい弱点なのである。

しかし、歳をとることで自動的にその弱点がなくなるかというとそんなことはない。
世の中には、中年の体に中年の弱点と若者の弱点を併せ持ち、さらに老人の弱点を先取りしている人間もいる。

成人までは身長など、何もせずとも伸びる要素はあったが、それを過ぎると伸ばす努力をしなければ、何も伸びなくなる。
例外としてコレステロールや尿酸値、鼻毛は伸びるが、「鼻毛が出ている奴のプレゼンは説得力2億%オフ」という鉄の掟が社会には存在するので、そこは伸ばさないように努力しよう。

しかし、現在は我々が若かった頃よりも格段に「努力を妨げるもの」が多い。
昔は「本をたくさん読め」などと言われるまでもなく、他にやることも居場所もなかったため、図書館でひたすら本を読んだりしたものだが、今はスマホ1台あれば永遠に努力する時間を浪費することができる。

そんなハードモードな世の中でちゃんと成人まで育ち、成人式に出ているだけでも偉い。
成人式の話題になると、真面目な成人と荒れる成人が比較されたりするが、そもそも出席している時点で一定のラインはクリアしている。

本当に危惧すべきなのは画面に映らない、家でスマホをいじっている新成人である。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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