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ボクもたまにはがんになる

2021.11.17 更新 ツイート

「第6章 がんとの未来」より

前立腺が、ぽんになっちゃってさ。 三谷幸喜/頴川晋

大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をした脚本家・三谷幸喜さん。その体験から「前立腺がんって実は、まったく怖くない」と実感、「前立腺がんのイメージを変えたい」と主治医・頴川晋先生(東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授)との対談本『ボクもたまにはがんになる』を刊行。そこから、お二人の楽しいやりとりを少しご紹介します。

「がん」という言葉

三谷 そもそも「がん」という言葉は、いつから使うようになったんですか?

頴川 非常にいい質問ですね。ちなみに「がん」という言葉を使う以前、昔はなんと言っていたと思います?

三谷 見当もつきません。

頴川「陰(かげ)」です。

三谷 あ、確かに昔のドラマでは言ってたな。では、実際も患者さんに伝える際に、がんという言葉は使わず、「陰」と言ってたんですか? がんという言葉はなかったんですか。

頴川 がんという言葉自体はありました。ただ、暗黙の了解といいますか、患者さんには「ここに陰がありますね」と伝えていました。それに対して、「陰ってなんですか」と聞かれることは、私の経験上、なかったです。

三谷 そんなふうに言われたら僕ならしつこく「陰ってなんですか、答えてください」と詰め寄るなあ。

頴川 日本の文化というか、性善説なんでしょうか。「お医者さんは間違ったことは言わないだろう。何も言わないでお任せするのが一番だ」というような。

三谷 そういう風潮は確かにあるかもしれない。

頴川 私がアメリカに留学したのは1988年ですが、留学前、先輩たちは皆「陰があります」と言っていて、私自身、特に疑問を抱くことなくそう使ってい ました。ところが、だんだん自分の中で整合性がとれなくなるんですよ。明らか にがんなのに、陰だとか、がんではなくてその前の前がん病変だとか、苦し紛れにそう言うと、患者さんは「そうなんだ、よかった、助かった」と喜ばれるんで す。けれどもまた具合が悪くなって来院されると、何でこうなるんだと不審がる。 そこでまた「そういうこともありますよ」などと言っているうちにどんどん辻褄が合わなくなってくる。患者さんに負担をかけないようにとやっていることは、逆に余計なお世話だなと、矛盾を抱えて困っていたんです。

三谷 アメリカはどうだったんですか。

頴川 留学して驚きましたよ。何でもかんでも「インフォームドコンセント」の名のもとに、バンバンバンバン「がん」という言葉を使っていました。

三谷 先生がアメリカから帰ってこられたときには、日本というか業界の中でも「がん」という言葉を使うようになっていたんですか。

頴川 帰国したのは1991年ですが、少しずつ「がん」と言うようになっていましたね。私は当時、アメリカかぶれで帰ってきていますから、「あなたはがんです」とはっきり最初から言わなきゃダメだと、使命感のようなものをもって言っていました。今思うと、鼻っ柱が強すぎて反省ですが……。

三谷 先生がアメリカに行かれている間に、「がん」という言葉を使うことに関して、日本で何か変化、きっかけがあったということですか。

頴川 もともと日本は「告知するとショックを受けるかもしれない」など、いろいろなことを先回りして、ある意味余計なお世話をしてしまうお国柄。非常に日 本的です。でも、アメリカから「インフォームドコンセント」という考え方が入 ってきたうえ、何かこう、社会全体が隠し事ができない時代になってきた、とい う背景もあったと思います。いろいろな不祥事が明るみに出て、事実を明らかに することに関して、社会の意識が変わったといいますか。自己責任という考え方 も定着してきた。この影響もあったかもしれません。

「がん」のイメージを変える

三谷 僕は前立腺がんになるまで、風邪をひくくらいはありましたが病気という病気もしたことがなくて。だから、よくアンケートで「これまで大きな病気をしたことがありますか?」という項目ありますよね? あれには堂々と「なし」と書いていたんですが、これからは「前立腺がん」と書かなきゃいけないと思うと、 憂鬱で……。何かこう、文字で書くと、大げさな気がして。漢字もめんどくさいし。

頴川 アンケートにもよりますが、嘘はつけませんしね。

三谷 手術後、何回かアンケートを書く機会があったんですが、なんだか恥ずかしくて、思いっきり薄い字で書いたんですね。読めるか読めないかギリギリを攻めた、妙に弱々しくちっちゃい字で……。

頴川 (笑)

三谷 そこで、思ったんです、前立腺がんは治る時代ですよね。この本で初めて、僕は前立腺がんになったことをオープンにしたわけですが、「ちゃんと検査を受 けましょう。がんが見つかったとしてもこれは治るよ」という、ポジティブなメ ッセージを込めたいんです、この本に。

頴川 知らないから怖がるわけで、前立腺がんのことを知識としてもっておくだけで予防にもなるし、無駄な心配もしなくてよくなります。三谷さんが発信してくださることで、前立腺がんの方、あるいはがんの疑いがある方は勇気づけられるだろうと思います。

三谷 それでね、自分ががんになってみて痛感したんですけど、言霊ってあるじゃないですか。やっぱり、この「がん」という言葉のイメージがよくないと思うんです。ショックの「がーん」というのと重なるし、とにかく暗い印象で。

頴川 漢字も「癌」って、なんだか怖いですしね。

三谷 ヤマイダレですからね。部首からして暗い。以前、がんと呼ばずに「ぽん」と呼ぼうという運動があったらしくて、ピアニストの国府弘子さんが提唱されたそうなんですが、それって素晴らしいことだと思うんですよ。

頴川 前立腺ぽん。

三谷「オレ、前立腺がぽんになっちゃってさ」みたいな。すごく言いやすい。胃ぽん、大腸ぽん、肺ぽん、みんな印象が変わります。

頴川 国立ぽんセンター。ぽん研病院。

三谷 行きたくなるじゃないですか。ついでに言うと、がん患者という言い方もどうかと思う。思い切って「ガニー」はどうですかね。「オレ、実はガニーなんだ」「えっ、お前も? オレもガニーなんだよ」みたいな。アルファベットで書くとganieeee。シガニー・ウィーバーみたいで格好いいし。江戸っ子風に「ガンさん」でもいいですけど。ぜひ提唱してみてください!

関連書籍

三谷幸喜/頴川晋『ボクもたまにはがんになる』

前立腺がんって実は、まったく怖くない。 大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をしていた脚本家・三谷幸喜と、おだやかで頼もしい主治医・頴川晋による、笑ってためになる、そしてがんのイメージが変わる、縦横無尽の対談集。

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