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ボクもたまにはがんになる

2021.10.31 公開 ポスト

「第1章 告知」より

先生に会った瞬間から「信頼できる人だ」と確信。三谷幸喜/頴川晋(東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授)

大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をした脚本家・三谷幸喜さん。その体験から「前立腺がんって実は、まったく怖くない」と実感、「前立腺がんのイメージを変えたい」と主治医・頴川晋先生(東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授)との対談本『ボクもたまにはがんになる』を刊行。そこから、お二人の楽しいやりとりを少しご紹介します。

きっかけは、ドラマ「おやじの背中」

三谷 頴川先生と初めてお会いしたのは、2014年の1月ごろでしたね。

頴川 ドラマの脚本を書くにあたって、取材をしたいということで。

三谷 TBSの日曜劇場「おやじの背中」です。毎回脚本家が変わるオムニバス形式で、1話完結のドラマ。錚々たる大ベテランの先輩たちに混じって、あろうことか最終回を担当してほしいと、プロデューサーから連絡をいただいて。せ゛ひやってみたいとお返事したんです。

頴川 私に取材の依頼があったということは、主人公が医者、あるいは前立腺がんの患者さんの話など、具体的に決まっていたんですか?

三谷 いや、プロデューサーから言われた条件は「親と子の絆」を描くこと。それだけでした。そして、それを聞いたときあるフ゜ロットがハ゜ッと浮かんだんです。重い病気をもったお父さんと幼い息子の話で、父は病気のことはもちろん通院していることすら息子に内緒にしています。ところがたまたま息子が学校で怪我をして病院に運ばれてくる。そこでバッタリ、父と子が鉢合わせしてしまう。病気 のことを知られたくない父は、とっさに「俺はこの病院で医者をやってんだ」と 嘘をつく。その父子は、理由があってずっと会っていなかったんですよ。だから 息子は父の職業を知らなかった。父はその嘘を貫くためにどんどん嘘を重ねてしまい、最後はド素人なのにオペまでしなきゃいけなくなっちゃう……というコメ ディ。実はこういう話をいつかやりたいと数年前から温めていたんです。それを 思い出して。

頴川 オペまで いかにも三谷さんらしい設定ですね(笑)。

三谷 さすがにドラマではオペまでやってしまう設定はなくなりましたが。ただ、主人公にとっては命がけの嘘が、はたから見ると笑えるという究極の泣き笑いを 描きたかったんです。結局、父親は最後亡くなってしまうんですけれど、プロデューサーにその構想を話したらそれでいきましょうとなりました。僕は病気のことがまったくわからないので、「この設定に合う病気って、何かないでしょうか?」と聞いたら、「調べてみます」と。

頴川 つまり、最後は亡くなってしまうけれど、ずっと入院しているわけではなく、通院して治療する病気。しかも息子さんの前では、医者という設定だからある程度元気に振る舞うことができなきゃいけない、というわけですね。

三谷 そうです、そうです。そんないろいろな条件をもとにプロデューサーが調べた結果、「前立腺がん」で、放射線治療中という設定が出てきた。今となっては運命としか言いようがない。

頴川 確かに、前立腺がんは放射線治療が選択できますし、その場合は通院です。前立腺がんは進行が遅く、ほとんどが無症状なので元気に振る舞えます。ただ、 骨やその他の臓器に転移した末に亡くなる人もいます。ですから、その設定には当てはまっていますね。

会った瞬間、信頼できる人だ

三谷 先生へのオファーはどんな経緯からだったんですか?

頴川 私には、そのプロデューサーの方からではなく、まずは北里大学の救急のドクターから連絡がありました。救命救急の現場を扱った番組に協力した関係で 北里の医者に連絡が入ったのでしょう。医師から「三谷さんのドラマでこういう 企画があって……」と説明を受けて、私でお役に立てることがあれば、とお答え しました。細かい内容は覚えていませんが、京都駅の新幹線のホームでその電話 を受けたと記憶しています。

三谷 明確に覚えてますねえ(笑)。

頴川 一番最初は、三谷さんとプロデューサーの方ともうおひと方、計3人でいらっしゃいましたね。

三谷 もうひとりはディレクターかな。ちなみに僕の第一印象は、どんな……?

頴川 テレビでよく拝見していましたから、「ああ、三谷さんだ」と思いました。ただ、イメーシ゛と違って、その日はあまりしゃべらなかったような。とても静かで真面目な方だなと。

三谷 極度の人見知りのうえ、基本、真面目ですから。お会いして早々、ふざけたことを言うタイプではないですし。ただ、僕のほうはもう、先生にお会いした瞬間から「この人は信頼できる人だ」と確信しました。言葉のチョイスや佇まいでなんとなくわかるじゃないですか。この人とは話ができる、波長が合うって。 まさかその後、僕の手術を担当してくださるなんて、そのときは夢にも思ってい ませんでしたが。

頴川 本当ですね。

三谷 運命なんだなあ。

とにかく一度、検査しましょう

頴川 その後、再びお会いするのは約1年後くらいでしょうか。

三谷 そうです。僕は年に1回くらい、定期的に人間ドックに通っていまして。俳優の佐藤浩市さんにとある病院を「あそこはいいそ゛」とすすめられたんですが、 後に中井貴一さんからも別の病院をすすめられ、佐藤浩市か中井貴一か、どちら をとるかという感じだったんです。まあ、人によって合う合わないがあるから。 結局、顔が怖い佐藤浩市をとって2年ほど通っていました。

頴川 有名な病院ですね(笑)。

三谷 最初、その年の人間ドックの血液検査で、初めてPSAの数値がやや高いと言われたんです。ちょうど、先生に前立腺がんについて取材した後ですし、PSA検査の数値によっては前立腺がんの疑いもあると知っていたので、先生にショートメールで質問させていただきました。

頴川 メールを受け取ったのは圏央道でした。車に乗っていて、SAで車を止めて。

三谷 新幹線のホームといい圏央道といい、先生は状況を細かく記憶されてますね……。

頴川 「とにかく一度、検査しましょう」とお返事しました。

三谷 正直、たいした数値じゃなかった気がします。その某病院の医師には「様子をみましょう」と言われたし、いつもなら全然気にしなかったはず。でも、先 生と出会うきっかけとなったドラマ「おやじの背中」はもともと市村正親さん主 演で、ご本人もやる気だったのに突然胃がんになられて降板。急遽小林隆が代役 でやることになったりと、コ゛タコ゛タの中でオンエアされたんですよ(2014年 9月)。今思うとすごく不思議なんですが、妙な予感というかサ゛ワサ゛ワしたものがあって。何かこう……ちょっと不安になって先生にご連絡したんです。

頴川 そういう予感って意外とあたるものですよね。第六感的なもの。

三谷 それと、僕自身、2014年6月に息子が生まれて父親になったというのも大きかったと思います。ドラマの中の親子がちょっと重なってしまって、子供 が生まれたばかりなのに、劇中の父親のような運命はたどりたくないなって……。

関連書籍

三谷幸喜/頴川晋『ボクもたまにはがんになる』

前立腺がんって実は、まったく怖くない。 大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をしていた脚本家・三谷幸喜と、おだやかで頼もしい主治医・頴川晋による、笑ってためになる、そしてがんのイメージが変わる、縦横無尽の対談集。

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