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強迫症を治す

2021.10.20 更新 ツイート

早く気が付けば早く治りやすい「コロナ強迫」 亀井士郎/松永寿人

強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』を刊行した精神科医・亀井士郎さんと松永寿人さんが今とても心配していることがあります。それは、「強迫症予備軍」だった人たちがコロナ化を機に強迫症を発症していること。2020年以降に流行しはじめた「コロナ強迫」の存在を早く知ってほしい――亀井さん・松永さんからの緊急寄稿・後編です。

*   *   *

発症から日が浅いほど治りやすい

大まかに言って、「コロナ強迫」には二つの特徴があります。良い特徴が一つ、悪い特徴が一つです。

悪い方からお話しましょう。それは「治療機会の喪失」です。

(写真:iStock.com/Chinnapong)

「コロナ強迫」の行動原理とは、コロナウイルス感染の回避です。先述のとおり、これには社会から大義名分が与えられています。ゆえに、自分の強迫症状──過剰な手洗いや物品の洗浄、清潔ルールの家族への強要など──に合理性を感じてしまい、他人からの指摘や助言を聞き入れにくい。したがって、精神科を受診する動機も生まれにくい。

実を言うと「コロナ強迫」でなくとも、強迫症を発症してすぐに病院にかかる方は稀なのです。有名な統計ですが、強迫症の発症から受診に至るまでの平均の期間は実に7~8年です。本人も家族も困り果て、疲れ果て、仕事や学校生活に支障を来し、ようやく治療の必要性を認識してから受診に至る。そういう方が、元来非常に多いのです。ましてや、この「コロナ強迫」には上述の大義名分が与えられているわけですから、発症直後の受診がことさら難しいことが推察されます。

仮に患者が異常を認識したとしても、受診を躊躇する理由はまだあります。コロナに曝露する恐れが強い場所を問われたとき、あなたはまずどこを思い浮かべますか。多くの人が連想するのは「病院」です。「コロナ強迫」の患者も「病院」を恐れることは想像に難くありません。ゆえに受診のハードルが非常に高いのです。

次は良い特徴をお話しましょう。実は、強迫症という病気は発症から日が浅いほど治りやすいのです。すなわち、ニューウェーブたる「コロナ強迫」は、上に述べた「自覚の乏しさ」ないし「病院への恐れ」さえ乗り越え、速やかに治療を開始できれば、比較的早期の回復も期待できるのです。もちろん、逆に言えば、発症から月日が経つほどに治りにくくなります。脳内の異常が固定化され、病的な行動が“習慣化”してしまうため、その修正が困難になるのです。

したがって、現状、「コロナ強迫」はピンチの裏にチャンスが隠れた状況にあるとも言えるでしょう。我々がすべきは、ピンチを乗り越え、チャンスを見出すことです。

チェックポイントはこの2つ

最後に、「コロナ強迫」と判断するための手がかりについて述べておきます。というのも、コロナ以後、手洗い・入浴等の洗浄行為の増加は、誰にでも認められるのです。その全員が「コロナ強迫」に該当するわけでは勿論ありません。では基準は何なのか。以下に二つ示しますので、参考にしてください。

一つ目は、不安の内容が不合理かつ極端であること。そもそも世の中は新型コロナウイルス以外にも危険なものであふれているのです。コロナだけを特別視していないか? 生活の中で、あまりに感染対策に振り回されすぎていないか? これらの程度の甚だしさが、病的と見なす根拠になります。自分での判断が難しければ、周囲の人と考え方を比べてみることも参考になるでしょう。

二つ目は、洗浄や消毒行為のコントロールが効かないこと。いくらなんでもやりすぎだ、もうこのくらいでやめておこう、という冷静な判断ができない、あるいはできたと思っても、次の日にはますます洗浄に要する時間や消毒液の使用量が増えている。要するにエスカレートしている。徹底的に感染対策をしているはずなのに、余計に感染が怖くなり、また行動が増えてしまう。これは全ての強迫症に共通する特徴──“悪循環”です。

こういった基準に照らし合わせつつ、日常生活・社会生活に苦痛が生じていないか、振り返って考えてみることです。

なお、治療法については大きく二つ、薬物療法と認知行動療法がありますが、紙面の都合上、ここでは詳しく述べません。治療法や詳しい病理に関しては著書(『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』)に相当な情報量を記しましたので、よろしければご参照ください。(この本では「コロナ強迫」そのものにはほぼ触れていませんが、特に問題はありません。個別の病理と治療は《汚染/洗浄系》という強迫症のタイプに準じるからであり、その情報は十二分に記しています)

強迫症を患いながらも、適切な治療にアクセスできていない方々があまりに多くおられる。この事実にこそ、私は最大の問題意識を感じていました。まずは病気を知っていただくことからです。この記事はそのために書き下ろしました。

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強迫症の詳しい病理や治療法については、『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』をお読みいただけると幸いです。10月22日19時30分からは、亀井さんと松永さんが強迫症について解説する、オンラインイベントがあります。詳細・お申し込みは幻冬舎大学のページからどうぞ。

関連書籍

亀井士郎/松永寿人『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』

積んでいる本の山が崩れて部屋が火事になるかもしれないから、何時間もかけて積み直す。ぶつかって人を線路に落として殺してしまうかもしれないから駅のホームを歩けない――精神科医の著者(亀井)は、強迫症(強迫性障害)を発症。強い不安やこだわりに苛【さいな】まれる地獄の日々を送るが、強迫症治療の第一人者(松永)と出会い、回復を遂げる。同じ症状に苦しみながら、治療を受ける機会もなく放置されている人たちを救いたい。その切なる思いで、強迫症の病理と治療をリアルかつ分かりやすく解説した決定版テキスト。

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強迫症を治す

積んでいる本の山が崩れて部屋が火事になるかもしれないから、何時間もかけて積み直す。ぶつかって人を線路に落として殺してしまうかもしれないから駅のホームを歩けない――精神科医の著者(亀井)は、強迫症(強迫性障害)を発症。強い不安やこだわりに苛【さいな】まれる地獄の日々を送るが、強迫症治療の第一人者(松永)と出会い、回復を遂げる。同じ症状に苦しみながら、治療を受ける機会もなく放置されている人たちを救いたい。その切なる思いで、強迫症の病理と治療をリアルかつ分かりやすく解説した決定版テキスト。

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亀井士郎

滋賀県生まれ。2011年京都大学医学部卒。同附属病院で初期研修後、同精神科神経科、京都博愛会病院精神科、大阪赤十字病院精神神経科に勤務。京都大学大学院医学研究科博士課程研究指導認定退学。現在は同精神医学教室客員研究員。精神保健指定医、精神科専門医。14年に強迫症を発症し、重症化の後、松永寿人による治療を受ける。

松永寿人

大阪府生まれ。1988年大阪市立大学医学部卒。同大学医学部神経精神医学教室入局後、同教室助手、講師を経て、97年ピッツバーグ大学医学部精神科へ留学、2010年に兵庫医科大学精神科神経科学講座主任教授に就任し現在に至る。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。多くの論文、著書があり、WHOのICD-11改訂に関わるなど国際的にも活躍中。

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