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強迫症を治す

2021.10.19 更新 ツイート

「コロナ強迫」が流行中。手洗い・消毒が過剰になっていませんか? 亀井士郎/松永寿人

強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』を刊行した精神科医・亀井士郎さんと松永寿人さんが今とても心配していることがあります。それは、「強迫症予備軍」だった人たちが、コロナ化を機に強迫症を発症していること。2020年以降に流行しはじめた「コロナ強迫」の存在を早く知ってほしい――亀井さん・松永さんからの緊急寄稿・前編です。

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エスカレートする前に早く治療を!

外出から帰宅したあなたが、最初にすることは何ですか?

(写真:iStock.com/AlexRaths)

そうですね、手洗いです。もしも恐ろしいコロナウイルスが手に付着していたら──考え出すと不安でたまりません。入念に洗浄し、不安が消え去るまで消毒しましょう。指の間も、爪の中も、隅々まで、完全に安心できるまで、何度も何度も。ハンドソープも大量に使い、繰り返し洗います。15分が過ぎた頃、ようやく完璧に手洗いを終えました。だいぶ疲れたでしょう。

しかし休む暇はありません。次は入浴です。身体のどこにウイルスの飛沫が付いているのか分かったものではありませんから。洗いたくなくても、洗わずにはいられません。繰り返し身体を洗い、納得がいくまで洗浄の儀式を続ける必要があります。バスタブで休む余裕などありません。今日は約1時間で洗い終えました。少しずつ入浴時間が長くなってきたようです。洗っている間は、ずっと集中していたため、もうヘトヘトです。

そこに家族が帰ってきました。さぁ、次は家族の番です。徹底的な洗浄・消毒をしてもらうべく、しっかりと監視し、指示を出さなければいけません。新型コロナウイルスに感染しないためにも、ルールは絶対に守らせなければ。これは家族のためでもあるのです。

さて、あなたは上記の行動や考えの、どこに違和感を感じましたか。それとも感じませんでしたか。あるいは違和感はあるものの、ふだんの自分の行動や考えに少しでも近しいと感じましたか。

上記は典型的な「コロナ強迫」が疑われる患者像です。感染予防の行動にしては不合理、かつ度が過ぎており、日常生活にも支障を来しています。他に見られる症状は、たとえば手袋をしないと物を触れない、家に持ち込む物全てに消毒液を乱用する、他人との接触を極度に恐れて外をろくに歩けない、などがあります。無論、これらには多大なる苦痛が伴います。仕事や学校生活にも不自由が生じ、しかも多くの場合、家族も症状に巻き込まれて困り果ててしまいます。

精神科医であり、かつて重度の強迫症を経験した私としては、「これ以上エスカレートする前に、どうか早く治療を受けてほしい」と訴えかけたい想いがあります。けれども残念ながら、まだその訴えは多くの患者に届きません。なぜか。本人が異常を自覚していない、あるいは自覚していても、これを病気と認識していないからです。「私は少しばかり“潔癖”かもしれない。だがコロナ禍の今、これは必要かつ正しい行動なのだ」と。これは明らかに自らの精神状態への洞察が欠けている状態です。

ここでまず必要なのは、病気の知識です。「コロナ強迫」とは、一体何なのでしょうか。

感染予防のための習慣がもたらした「副作用」

そもそも強迫症とは何か。一言で表せば「不安と行動の病」です。強力な不安が何度も勝手に頭に湧き上がり、それを打ち消すための行動が強いられる──そういう病気です。

強迫の症状にもいくつかのタイプがあり、その代表の一つが《汚染/洗浄系》です。感染や汚染を強く恐れ、徹底的な手洗い・入浴・消毒などを繰り返すことが特徴です。お分かりのとおり、「コロナ強迫」はこのタイプに分類されます。ゆえに基本的な病理も、施すべき治療法も、通常の《汚染/洗浄系》とほとんど変わりません。

ただし、「コロナ強迫」は明らかに2020年以降に流行している患者の一群です。これまで強迫症の診断には至らなかった多くの人びとが、コロナ禍を機に発症してしまった。いわば“ニューウェーブ”と言えます。我々はその発症原因も理解せねばなりません。その明らかな原因の一つは、社会からもたらされた危機感──もっとストレートに表現するならば、「不安の強制」です。

言うまでもなく、コロナ禍によって社会は一変しました。これまでの生活習慣は過去のものとなり、国民全体に新しい習慣が根づきました。徹底した手洗いや、マスクの着用。三密の回避。外出や外食の自粛。ソーシャル・ディスタンス。

これらの習慣の変化をもたらしたものは、一体何でしょうか。「新型コロナウイルス感染症:COVID-19」でしょうか。それも一つの答えです。しかし、もっと直接的で明確な答えがあります。「不安」です。ウィズコロナの社会は、われわれ国民に例外なく「不安」になることを強制しました。重症化による苦痛、致死的リスク、後遺症。あるいは医療崩壊。これらの恐ろしい事態を避けるために、またあなたの大切な人も守るために、各人が徹底的な感染対策をせよ。そう喧伝し続ける、WHOや内閣府広報、あるいはマスメディア。不安を強制された国民の行動は、結果的に感染者数を抑えました。素晴らしいことです。

しかしながら、既にご承知のとおり、この「不安の強制」は膨大な副作用を国民にもたらしました。その一部が精神への悪影響であり、その無視できない一つの病気が「コロナ強迫」である、というわけです。

基本的に、強迫症という病気は正常心理と地続きにあります。これはつまり、「強迫症予備軍」──病気の水準には至らないが“発症ギリギリ”の人たち──が少なからず存在することを意味します。実際、それは周囲の人間を少し観察するだけでも明らかです。不潔を恐れ、清潔にこだわり、帰宅時にも多くのルールがある、俗に「潔癖症」と呼ばれることもある方々。

コロナ禍による「不安」は、その“発症ギリギリ”の人たちの背中を蹴りました。ご丁寧なことに、大義名分つきです。「感染を恐れる気持ちは正しい不安であり、感染予防対策とは、あなたも周囲も社会も守る、必要な行動なのだ」と。もちろん、この言明はある程度までは正しい。しかし、誰も「やりすぎてはいけない」とまでは言ってくれません。徹底的な洗浄や消毒こそが正義と言わんばかりです。

結果、一部の「強迫症予備軍」の方々は、煽られて増大した「不安」により、知らず知らずのうちに「コロナ強迫」の発症に至ったのです。(後編に続く)

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強迫症の詳しい病理や治療法については、『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』をお読みいただけると幸いです。10月22日19時30分からは、亀井さんと松永さんが強迫症について解説する、オンラインイベントがあります。詳細・お申し込みは幻冬舎大学のページからどうぞ。

関連書籍

亀井士郎/松永寿人『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』

積んでいる本の山が崩れて部屋が火事になるかもしれないから、何時間もかけて積み直す。ぶつかって人を線路に落として殺してしまうかもしれないから駅のホームを歩けない――精神科医の著者(亀井)は、強迫症(強迫性障害)を発症。強い不安やこだわりに苛【さいな】まれる地獄の日々を送るが、強迫症治療の第一人者(松永)と出会い、回復を遂げる。同じ症状に苦しみながら、治療を受ける機会もなく放置されている人たちを救いたい。その切なる思いで、強迫症の病理と治療をリアルかつ分かりやすく解説した決定版テキスト。

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強迫症を治す

積んでいる本の山が崩れて部屋が火事になるかもしれないから、何時間もかけて積み直す。ぶつかって人を線路に落として殺してしまうかもしれないから駅のホームを歩けない――精神科医の著者(亀井)は、強迫症(強迫性障害)を発症。強い不安やこだわりに苛【さいな】まれる地獄の日々を送るが、強迫症治療の第一人者(松永)と出会い、回復を遂げる。同じ症状に苦しみながら、治療を受ける機会もなく放置されている人たちを救いたい。その切なる思いで、強迫症の病理と治療をリアルかつ分かりやすく解説した決定版テキスト。

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亀井士郎

滋賀県生まれ。2011年京都大学医学部卒。同附属病院で初期研修後、同精神科神経科、京都博愛会病院精神科、大阪赤十字病院精神神経科に勤務。京都大学大学院医学研究科博士課程研究指導認定退学。現在は同精神医学教室客員研究員。精神保健指定医、精神科専門医。14年に強迫症を発症し、重症化の後、松永寿人による治療を受ける。

松永寿人

大阪府生まれ。1988年大阪市立大学医学部卒。同大学医学部神経精神医学教室入局後、同教室助手、講師を経て、97年ピッツバーグ大学医学部精神科へ留学、2010年に兵庫医科大学精神科神経科学講座主任教授に就任し現在に至る。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。多くの論文、著書があり、WHOのICD-11改訂に関わるなど国際的にも活躍中。

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