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2021.07.22 公開 ポスト

『ぼくのお父さん』『読んでほしい』刊行記念対談 前半

矢部太郎「表紙を描くのって結構プレッシャー」それでも引き受けた理由は?おぎすシグレ(小説家・放送作家)

放送作家のおぎすシグレさんが小説読んでほしいを刊行しました。デビュー作の装画を担当したのは、漫画家として大家さんと僕を大ヒットさせたお笑い芸人の矢部太郎さん。ぼくのお父さんを上梓したばかりの矢部さんに、おぎすさんが「どうしても会ってお礼を言いたい」と対談が実現しました。テレビの仕事もしながら、書く仕事もしているというお二人の仕事論も、興味深い展開に……!

(「小説幻冬」2021年8月号より 構成/篠原知存 写真/鈴木芳果)

☆おぎすシグレさんから矢部太郎さんへ
八コマというしばりが矢部さんを輝かせている。矢部さんの漫画は、八コマの芸術だと思います!

☆矢部太郎さんからおぎすシグレさんへ
「読んでほしい」の承認欲求だけで一作品丸ごと書く、着眼点が新しい。笑いもあるけど、切なくて、心に残るものがあります。

――芸人さんと放送作家さんということでお知り合いかと思っていたのですが、これが初対面なんですね! おふたりは同世代で、しかも、おぎすさんは以前お笑い芸人だった経歴もお持ちです。

矢部太郎(以下、矢部) ほとんど同期ですが、僕が2年ぐらい後輩です。

おぎすシグレ(以下、おぎす) もともと仕事上でおつきあいがあったからお願いしたと思われるかもしれませんが、ほんとに初対面で。僕の小説を担当した編集者から、この小説の装画を矢部さんにお願いできたらいいですよねと言われたとき、「絶対にいい!」ってなったんですけど、そんなん絶対難しいと思ってました。お会いしたこともないし、仕事もご一緒したことがなかったですし。それでも、トライしてみようって。

矢部 読ませてもらったら、めちゃめちゃ面白かったんで、ぜひぜひお願いしますって。

おぎす ほんとに読んでくださるとは思わなかったです。読んでほしいとは言いましたけど(笑)。

「表紙を描くのって結構、プレッシャーなんですよ」(矢部)

矢部 読まないで「やります」とか言っちゃって、あとから、こんな本だったんだってなったら大変ですよね(笑)。でも、面白いか面白くないかじゃなくて、僕が描けるのかなというのがあったんです。内容によっては僕の画力とか作風とかが、邪魔しちゃうかもしれないし、表現できるかどうかもわからないじゃないですか。でも読ませていただいたら、いきなり初めから面白くて。主人公の境遇と「近いな」って思いましたし、共感するところがあって。もしかしたら描けるかなと思って、受けさせていただきました。

おぎす めちゃめちゃうれしいです! 本当に素晴らしい絵を描いていただきました。僕がこの小説でイメージしていたこと、書きたかったことがこの絵に全部含まれてるんです。しょんぼり感とか、ほっこりする感じとか。矢部さんの絵って、もう言われすぎてるかもしれないですけど、やさしさが伝わってくる。そんな絵をいただけたなんて、もう、ありがたくて……。しかもこんな素晴らしい推薦文までいただいて……。

矢部さんの推薦文

矢部 表紙を描くのって結構、プレッシャーなんですよ。だっていちばん目立つじゃないですか。最初に自分の漫画を出すときも、表紙は僕の絵じゃなくてもいいんじゃないって提案したぐらいで(笑)。責任重大です。だから……はい、熟考して受けさせていただきました。喜んでいただけてうれしいです。

おぎす じゃあ、思いっきり言わせていただきます。うれしいです!

矢部 最初、主人公が「読んでほしい」と叫んでる感じを提案されて、その案も描いたんですが、実際に、できたてほやほやの初めての小説を受け取ったとき、これはすごく大切なものだなって思えたので、そういうイメージを描きたくて、原稿をぎゅっと抱きしめた絵や、傍らに置いた絵も描きました。僕は、データで描いてデータで送っちゃうから、ここまで「読んでほしい!」ってなったことはないですけど(笑)。でもやっぱり、漫画を描いたとき、最初に何人かに送ったりはしたので、その気持ちを思い出しました。

左がカバー、右が総扉

おぎす 『ぼくのお父さん』を読ませていただきました! 僕は子どもが三人いるんですけど、こういうお父さんになりたいと思ったんです! 一般的に僕らの世代がイメージするようなちょっと怖い「父親像」とは全然違っていて、この「お父さん」は誰とも分け隔てなく会話して、やさしくて、自由奔放に好きなことをやってる。「子どもは勝手に学べ」と思っていそうな、いや、学べとすら思っていなそうで。そんなお父さんだから、矢部さんみたいなすばらしい方が育ったんだなと。自分もこんなふうに子どもに接したいです。

矢部 おぎすさんは、よく家にいるんですか。

おぎす います。書き物をしているので。このお父さんと近いところもあるんですが、こんなふうには子どもと遊ばないので、ちゃんと向き合っていかなきゃなと思いました。こういう話が作品になっているってすごいなあと。子どもも読めるし、お父さんも読めるし。『ぼくのお父さん』は、ぜひ、僕ら世代のお父さんたちにも読んでほしいです。もうほんと、大好きなんです。

「矢部さんの作る“やさしい世界”が好きなんです」(おぎす)

矢部 そうか、お子さんがいて、家で仕事しておられるから、似ているのかな。でも、うちのお父さんは、圧倒的に暇だったと思いますよ(笑)。さきほど、ぼくのお父さんのことを、分け隔てしないと言ってもらいましたが、『読んでほしい』の主人公もそうですよね。いろんな人に原稿を見せに行こうとする。その相手に対するまなざしが、いつも優しく寄り添っている感じがしました。

おぎす はい、そこは正直、結構意識しました。お笑い好きで、吉本新喜劇とかを見て育ってきたんですが、新喜劇に出てくるキャラクターたちに悪いやつはいないじゃないですか。仮に悪いことをしていても、その人なりの悪気のない世界があったり、良かれと思ってやってたりしてて。そういうのが僕は好きなんです。矢部さんの『大家さんと僕』もそうですけど、悪い人が出てこない。「やさしい世界」というと気取ってる感じですけど、どんな人にもリスペクトを忘れない。そういう世界観が好きで、僕も小説でそういうことを表現したいと思っていたので、伝わっていたのがめちゃめちゃうれしいです。

矢部 そうですね、「読め」じゃなくて「読んでほしい」というところに表れてますよね。できれば読んでほしいなあっていう。

おぎす そうなんです。「できれば」がついちゃうんです(笑)。あの……今日お会いできたので、矢部さんに聞きたいことがいくつかありまして。矢部さんは作品を作るときに、決めているルールというか、しばりというか、そういうものはありますか。

矢部 あるかなぁ……。「読んだ人にわかるかな」というのは考えますね。そこはお笑いをやってるからかも。お客さんがいる、というのが前提だから、読んで意味がわかるかどうかは、気にしているかもしれません。漫画ができたら送る友達が、二人いるんですよ、編集の人に見せる前に。何を送っても「よかった」って言ってくれる友達なんですけど(笑)。

おぎす しっかり保険がかかってる(笑)。それからもうひとつ。本の発売が決まってから僕、めっちゃ緊張してしまっているんです。うれしいんですけど、なんか怖いというか、逃げ出したくなったりして。そういう感情って、矢部さんはなかったですか?

矢部 ああ~はいはい!『大家さんと僕』は、連載が始まったのも、本になると決まったのもうれしくて、ずっとうれしかったんですけど、発売前日ぐらいに急に不安になった。知らないおばあちゃんと売れてない芸人の話、誰が読むんだろうって(笑)。めちゃくちゃ怖かったですよ。基本僕、怖いんですよ。

おぎす 僕も不安でしょうがないです。知らない放送作家の本、誰が読むんでしょうって(笑

(後半に続く)

関連書籍

矢部太郎『ぼくのお父さん』

ぼくの「お父さん」は絵本作家。ずっと家にいて、一緒に遊び絵を描く。いつでもなんでも、絵に描く。夕飯に出た旬のタケノコを食べずに、絵に描く。そしておかずは冷めていく……。ふつうじゃなくて、ふしぎでちょっと恥ずかしい。ただの変わり者? それとも理想のお父さん?40年前の東京・東村山を舞台に、つくし採取、自転車の二人乗り、屋根から眺めた花火、普遍的でノスタルジックな心温まるストーリー。

矢部太郎 プロフィール 1977年生まれ。お笑いコンビ「カラテカ」としてキャリアをスタートさせたのち、『大家さんと僕』で漫画家デビュー。大家さんとの日常を優しく丁寧に描いた作風が評判を呼び、シリーズ累計120万部超えのベストセラーに。同作は第22回手塚治虫文化賞短編賞も受賞した。最新刊は『ぼくのお父さん』(新潮社)。また、『星の王子さま』の装画・挿絵も手掛ける(ポプラ社)。

関連書籍

おぎすシグレ『読んでほしい』

今日こそ……言うぞ! この一言を!! ――せっかく書い小説を誰にも読んでもらえない“売れない放送作家”の、笑いと切なさがクセになる、そして最後にジーンとくる、“ちょっとだけ成長”の物語。

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読んでほしい

放送作家の緒方は、長年の夢、SF長編小説をついに書き上げた。
渾身の出来だが、彼が小説を書いていることは、誰も知らない。
誰かに、読んでほしい。
誰でもいいから、読んでほしい。
読んでほしい。読んでほしい。読んでほしいだけなのに!!

――眠る妻の枕元に、原稿を置いた。気づいてもらえない。
――放送作家から芸術家に転向した後輩の男を呼び出した。逆に彼の作品の感想を求められ、タイミングを逃す。
――番組のディレクターに、的を絞った。テレビの話に的を絞られて、悩みを相談される。

次のターゲット、さらに次のターゲット……と、狙いを決めるが、どうしても自分の話を切り出せない。小説を読んでほしいだけなのに、気づくと、相手の話を聞いてばかり……。
はたして、この小説は、誰かに読んでもらえる日が来るのだろうか!?

笑いと切なさがクセになる、そして最後にジーンとくる。“ちょっとだけ成長”の物語。

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おぎすシグレ 小説家・放送作家

1978年1月10日生まれ。名古屋で活躍中の放送作家。16歳(高校1年)のときに名古屋よしもとから芸人デビューするが、2000年に芸人引退。22歳で放送作家に転身。

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