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パラシュート

2021.04.14 更新 ツイート

#5 あいつのために生きて帰る…息をもつかせぬノンストップ・サバイバル・サスペンス 山田悠介

「大学生二人を拉致した。攻撃を止めなければ命はない……」。首相官邸に届いたテロリストからの脅迫電話。ところが首相はそれをはねつける。国から見放された賢一と光太郎は、無人島上空からパラシュートをつけて突き落とされる。テロリストと首相への復讐に燃える賢一は……。息をもつかせぬノンストップ・サバイバル・サスペンス、『パラシュート』。中高生から圧倒的人気を誇る山田悠介さんが贈る本書より、物語の冒頭をご紹介します。

*   *   *

光太郎の胸に顔をうずめたまま、賢一は三〇分以上動かなかった。目を瞑っていると、光太郎との思い出が暗闇から浮かぶのだ。

(写真:iStock.com/ElenaNoeva)

思えば俺たちは、ずっと笑っていた。バカなことばかりやっていたけど、楽しい毎日だった。他にもたくさん友達はいたが、やはりソリが合うのは光太郎だった。彼もまた、同じように思ってくれていたに違いない。

初めて仲良くなった日、お互い顔から血を流しながら、肩を組んで校舎に戻る映像は懐かしく、胸が熱くなった。あの日に戻ることができたら、どんなに幸せだろうか。

顔を上げるのが怖かった。現実に引き戻されるからだ。しかし、もう過去には戻れない。辛いが、今を受け止めなければならない。

光太郎から離れた賢一は、彼の青くなった顔をしばらく見つめた。頬に手をやると、冷たさが伝わってきた。本当に死んでしまったのだと、改めて感じた。

光太郎の涙を見たのは初めてだった。

あの涙の意味。そして最期に何を言いたかったのだろう。せめて、聞き取ってやりたかった。

悲しみが、悔しさに変わっていく。なぜ俺だけ生き残ったのだ。こんなことになるのなら、俺も死んだほうが──。

賢一は草を力強くもぎ取った。どうして俺たちだけがこんな目に!

テロ集団の顔がちらつく。賢一の目は怒りに満ちていた。

彼は心に誓った。このままでは終わらせない。必ず光太郎の仇を取る。

独りポツリと残された賢一は、その場から立ち上がった。ずっとここにいるわけにはいかない。今は、この状況を何とかしなければならない。光太郎の遺体だって運んでやらなければならないのだ。

警察署を探せばどうにかなるだろう。言葉は通じなくとも、事情を伝える方法はいくらでもある。

「少し待っててくれ」

光太郎にそう言い残し、賢一は歩き始めた。

広い草原を抜けた賢一は、舗装されていない砂利だらけの道をひたすら真っ直ぐ進んでいく。

それにしても周りには何もない。木や岩ばかりではないか。人の気配がまったくない。もう少し歩かなければ街には出られないということか。そう結論を出した賢一は、足早に進んでいった。

悪い予感がしたのは、それから一時間後のことだった。

なぜだ。こんなにも歩いているのに、建物一つないではないか。一向に周りが開けてこない。何よりおかしいのは、一度も人を見かけないということだった。妙ではないか。それとも考えすぎだろうか。賢一の疲労はピークに達していたが、不安で足を止められなかった。

しかしさらに一時間が経過したところで、賢一はとうとう道に座り込んでしまった。全身汗だくになりながら息を荒らげる。強い日差しが体力を奪っていく。全身が水分を欲しているが、どこにも水なんてない。

「どうなってんだ」

全然風景が変わらない。人もいない。街まであと何キロあるというのだ。

喉の渇きは限界だった。唾液すら出てこない。賢一は「水」とつぶやく。

もう少しの辛抱だ。あとちょっとで街が見えてくるはずだ。そう自分を勇気づけ、賢一は再び立ち上がった。

しかしどうだろう。期待とは裏腹に、展開は悪くなる一方だった。

ずっと続いていた道らしきものはなくなり、賢一は林へと入る。足場も悪く、歩くのに苦労する。鳥や虫の鳴き声が、妙に不気味だった。

緑の中をいったいどれほど歩いたろう。元の位置に戻れるように、一定の間隔で枝を折りながら進んでいた賢一の表情が、ようやく輝いた。

「家だ!」

かなり老朽化が進んでおり、不自然な場所に建っているが、建物は建物だ。深く考えてはいられなかった。疲れを忘れ歓喜の声を上げた賢一は、無意識のうちに駆け足になっていた。

(写真:iStock.com/BrianAJackson)

獣道さえないほどに生い茂る草を踏みつけながら走っていった賢一は、建物の前で一度立ち止まった。

こんなにも小さいとは。ほとんど小屋ではないか。

ここは裏側だろうか。扉がない。それにしても本当に古びた建物だ。全体に蔓が無造作に巻きついており、薄気味悪い。壁も茶色く汚れきっており、元の色が分からないくらいである。

賢一はそっと表側に歩いていく。

「誰か? 誰かいませんか?」

緊張を押し殺すように声をかける。

もう一度呼びかけようとした賢一の口が、開いたまま止まった。

入り口に扉はなく、外から中が覗けるようになっている。太陽の光で中の様子が少し確認できるが、どうやら誰もいないようだ。賢一は憮然として肩を落とした。念のため建物の中に入ってみたが、何もない。草や土だらけだ。

「誰もいねえ」

ため息混じりにそう洩らす。今はただ、歩くしかなかった。

しかし、三〇分、一時間。林を抜けることはできたが、まったく状況は変わらなかった。建物は何もないし、人だっていない。誰かが生活していた感じがしないのだ。

ふと、賢一の頭にある文字が浮かんだ。

ここは、無人島?

ではあの小屋は何だったのだ?

賢一は自問自答を始めた。

以前は人がいた。しかし誰もいなくなった? 十分考えられる。

「マジで、無人島なのか」

額や手の平にジワッと脂汗がにじむ。心臓がギュッと締めつけられ、息苦しくなる。急に足の力が抜け、地面に屈んだ。髪の毛から、汗がたれる。

認められなかった。生きている人間が、自分一人しかいないなんて。しかし、現実にそうではないか。人間がどこにもいない。捜しても捜しても見つからないではないか。

いやそんなことはない。この先へ行けばきっと街に着くはずだ。

諦めるわけにはいかず、賢一はそこからさらに歩いた。気が狂うほどに歩いた。

希望の光が消えたのは、波の音が聞こえたからであった。瞳に映るのは青い海と白い砂浜。フラフラになりながら足を動かしていた賢一は、とうとう倒れてしまった。唇に砂がつく。立ち上がる力など、湧いてこなかった。

悪い予感は的中したのだ。ここはおそらく無人島。この島で生きている人間は自分ただ一人である。

瞳に映る広大な海。もう前に進むことはできなかった。

俺は、どうすればいいんだ? このまま、野垂れ死ぬのか。

賢一は草原で眠る光太郎を思い出し、首を横に振った。

絶対に死を選んではならない。光太郎のためにも、生きなければ。しかし……。

とにかく元の場所に戻るしかなかった。ここまでの距離を考えると気が遠くなるが、光太郎の遺体をそのままにしておくわけにもいかなかった。

残っている体力を両足にこめ、賢一は立ち上がる。波の音を背に、ひたすら前に向かった。

歩きを再開して四時間が過ぎた。すでに空は暗くなっている。ようやく林を抜け、やっと草原にたどり着くことができた。

光太郎を確認し、賢一は安心した。ガクリと膝から落ち、光太郎に寂しく話しかける。

「まいったよ。ここ、どうやら無人島のようなんだ」

当然、返事などない。

「俺、どうなっちまうんだよ」

『助けが来るまで生き続けろ』

賢一は驚いて光太郎の口元を見た。幻聴か? 光太郎の声が聞こえたのだ。

「ああ、分かってる。でもよ……」

言いながら賢一は、テロ集団を目に浮かべていた。

忘れたのか。光太郎を殺された怒りを。奴らへの憎しみを。復讐すると誓ったではないか。

もちろんそのつもりだ。しかし、助けが来るまではたして生き延びられるだろうか。何しろここには食料がないのだ。水だけで生活するなんて可能なのか。せめてユリと連絡が取れればいいのだが、その手段がない。

あと、何日もつだろう。今だって身体がかなり悲鳴を上げている。意識が飛びそうなくらいだ。

どれくらい、辛抱すればいいのだろう。国は、俺たちを捜してくれているのだろうか。だとしても、見つけてくれるのだろうか。

希望は薄い。国は俺たちを捨てたのだ。捨てた人間をわざわざ捜すなんてありえるはずがない。

助けは来ない。それでもここで耐えなければならない。すべては、光太郎の仇を取るために。

夜が明けたら、逆の方向に行ってみよう。まずは食料探しだ。生きていくためには、腹を満たさなければならない。

どんな手段を使ってでも、生きる。そしてここから脱出する。

賢一は、星でいっぱいの空を眺めた。

まさか無人島での生活が待っているなんて、考えもしなかった。誰でもいい。俺たちを、見つけてくれ。

どうやら明日から、凄絶なサバイバルになりそうだ。

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山田悠介

1981年、東京都生まれ。デビュー作『リアル鬼ごっこ』は、発売直後から口コミで評判となり、累計200万部を超える大ベストセラーとなる。著書に『親指さがし』『ドアD』『復讐したい』『神様のコドモ』(幻冬舎文庫)、『その時までサヨナラ』『僕はロボットごしの君に恋をする』(河出書房新社)、『キリン』(KADOKAWA)など。映像化された作品も多数。中高生からの圧倒的人気を誇る。

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