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パラシュート

2021.04.08 更新 ツイート

#2 俺は国に見捨てられた…息をもつかせぬノンストップ・サバイバル・サスペンス 山田悠介

「大学生二人を拉致した。攻撃を止めなければ命はない……」。首相官邸に届いたテロリストからの脅迫電話。ところが首相はそれをはねつける。国から見放された賢一と光太郎は、無人島上空からパラシュートをつけて突き落とされる。テロリストと首相への復讐に燃える賢一は……。息をもつかせぬノンストップ・サバイバル・サスペンス、『パラシュート』。中高生から圧倒的人気を誇る山田悠介さんが贈る本書より、物語の冒頭をご紹介します。

*   *   *

目が、覚めたのか……。

なのに何も見えない。閉じ込められているのか。少しも光が洩れてこない。それとも真夜中か。今の賢一には判然としなかった。

(写真:iStock.com/YakobchukOlena)

モーターが回転しているようなこの音は何だ? 頭にガンガンと響く。地面がかすかに揺れているのは気のせいか。

「痛てえ……」

身体の節々が痛い。無数の傷があるようで、燃えているように熱いのだ。動かそうとしても何かで縛られていて自由を奪われている。

賢一の脳裏に光線が走った。そうだ、俺と光太郎は、近くのコンビニに買い物に行ったユリを待っているとき、突然何者かに襲われ、ボートに乗せられ……それからは覚えていない。

それより、ここはどこなんだ。

生きていることだけは、確かなようだ。

しかし、さらなる不安と恐怖が福山賢一に襲いかかった。

光太郎は? 光太郎はどうした。

「光太郎! おい、どこだ!!」

いくら叫んでも返事はない。それ以前に、モーター音のような雑音に掻き消されてしまう。その音が賢一をイラつかせた。

とにかく逃げ出さなければ。そう思い立ち、賢一は手首と二の腕と足首をキッチリと縛っているロープをほどこうとする。が、なかなかうまくいかない。着ているシャツも邪魔だ。体力だけが奪われていく。酸素も薄い。一分少々もがいただけで息が上がった。

「ふざけやがって」

賢一は諦め、呼吸を荒らげながらバタリと床に突っ伏す。全身が熱を帯びているせいか、床が妙に冷たく感じられた。

いい加減目が慣れてもいいはずなのに、何も見えない。『無』の空間にポツリと置かれているようだった。不安だけが募る。

どうして俺たちがこんな目に遭ったのだろうか。いくら考えても答えなど出てこなかった。今の状況すら把握できないのだから。

あれから何時間がたったのだろう。どれだけの間、眠っていたのか。長いこと夢の中を彷徨っていたような感じもするし、その逆のような気もする。

俺と光太郎、そして光太郎の彼女であるユリの三人で、砂浜で花火をしていた。ただそれだけのことだ。

最後にしんみりと線香花火を眺め、帰る準備をしている最中、喉が渇いたとユリがコンビニに飲み物を買いに行った。その直後の出来事だった。覆面をした数人の男に囲まれた俺と光太郎は、抵抗する間もなく袋叩きに遭い、連れ去られた。それ以降の記憶がない。どうしても浮かんでこないのだ。

ユリは無事なのか? それすらも分からない。

俺はどうなってしまうんだ。

「おい! おい! 聞こえねえのかよ!!」

闇雲に叫んでみたが無意味だった。

ここがどこかも判然としない、人がいるかも分からないこの状況の中、やはり賢一は吠え続けた。今の彼には吠えることしかできなかった。クモの巣にかかった虫が、無意味にもがいているようでもあった。

ところが、その大声がかすかに届いたのか、ようやく動きがあった。ギシギシと金属が軋む音を響かせて、扉が開いたのである。うっすらとであるが光が差した。

しかし、当然安堵はできなかった。賢一は身を引きしめ、目を細めながら光の先を見据える。

扉が開ききると、背の高い痩せ細った人間の影が現れた。

恐怖か、戸惑いか、賢一は声を発することができない。

若い男の声が聞こえてきた。

「ようやく目覚めたか」

男は手を上げた。何者かに合図を出したようだ。その証拠に、数人の男たちがスッと中に入ってきた。賢一の手、腕、足に巻かれたロープが解かれた。その間、賢一は微動だにできなかった。一人が銃を手にしているからだ。いつでも撃てるぞという構えである。こめかみの近くに、銃口が向けられている。賢一はソロリと目を向け、すぐにそらした。相手が早まって撃ってくるのではないかと、息を吐き出すだけでも緊張した。

ロープはすべて解かれたが、身体が自由になったわけではなかった。傍にいる男がしゃべりかけてきた。しかし、賢一は混乱する。意味が分かるわけがなかった。外国語なのだ。よく見ると周りにいる全員が日本人ではないことが分かった。

(写真:iStock.com/champlifezy@gmail.com)

賢一は寝たまま両手を上げた。逆らう気はない、というジェスチャーだった。

扉のところに立っている男が通訳した。

「立て」

もちろん理解はできたが、身体が言うことを聞いてくれなかった。それは手や足が痛いという理由ではない。相手が外国人だと分かった瞬間、嫌な予感が脳裏をかすめたからだ。

殺されるのか。根拠もないのに、その文字が頭に浮かんだ。

「いいから立て」

男は静かに言う。ただ一人、日本語をしゃべっている。流暢だが、しゃべれるだけかもしれない。日本人とは限らない。

「早くしろ」

何度命令されても、賢一は床に張り付いたままじっとしていた。ただ男の影を見つめるだけだ。グズグズとしている賢一に業を煮やし、男がスッと合図した。すると賢一を取り囲んでいた男たちが立たせようと動き出した。

「放せ……放せよ。ユリは無事なんだろうな」

弱々しく文句を言いながら立ち上がる。当然、力では勝てなかった。

賢一は、耳元で何かを囁かれ、歩かされた。

「おい、どうするつもりだよ」

日本語をしゃべる男は無言のまま進んでいく。

どこへ連れて行かれるのだろうか。声を出して怯えを紛らわせたかったが、あまりの緊張にうまくしゃべれない。しかし閉じ込められていた部屋から出た瞬間、賢一の口が塞がらなくなった。外の光景にしばらく言葉を失くした。

「マジかよ……」

辛うじて声が出た。まさかここは……。

この音、そして地面がかすかに揺れる理由がようやく分かった。

一面に広がる青い空と白い雲。窓から見えるこの景色は間違いない。

飛んでいるんだ。ヘリかジェット機か知らないが、空を飛んでいる。操縦室が見えないということは、かなり大きい。ジェット機か。

ここは日本? それとも……。

やはり気がかりなのは友の存在だった。

「光太郎は? 光太郎はどこに」

今ごろ気がついた。相手は全員、迷彩服を着ている。軍隊だろうか。

次の瞬間、賢一の心臓はグッと握られた。

テロか……。

固唾を呑んだそのとき、日本語をしゃべる男が振り向いた。

二〇代後半か三〇代前半か。まだ若い。サングラスのレンズの奥は見えないが、肌が多少黒いだけで、顔のつくりは日本人そのものだ。もしそうだとして、どうして外国人と日本人が俺たちを拉致したのだ。そしてどうするつもりなのだ。

賢一の目は男の顔に固定されていた。沈黙が続くと、男の口が開いた。

「歳は?」

唐突な質問に賢一は戸惑う。答える余裕がない。

「大学生か?」

賢一は恐る恐るうなずいた。男は一度下を向き、こちらを見ながら言った。

「運が悪かったな」

その言葉に、賢一の顔は一瞬にして青くなった。やはり、殺されるとしか考えられなかった。

「残念だが、お前たちは国に見捨てられたんだ。これで私たちにとっても用無しになってしまった」

何が言いたい? 混乱する賢一に、男は簡単な説明を始めた。

「日本は今、私たちの祖国に攻撃を続けている。無意味な戦争を行っている。そのため、多くの犠牲者が出ている」

攻撃? 戦争? 賢一はすぐにある国を思い浮かべた。東南アジアに位置する、人口の少ない小さな国だ。連日テレビで報道している。現地で日本の自衛隊員が数多く死んでいると。賢一にとっては、ただそれだけのことだった。

いつも他人事のようにニュースを観ていた。

「私はハーフだ。日本人の父がいる。しかしそんなことは関係ない。私の家族はすべて日本人に殺された。後ろの者たちもそうだ」

賢一はソロリと振り向く。数人の外国人が銃を手に、こちらを睨んでいる。

「お前は知っているのか。毎日毎日、多くの犠牲者が出ていることを。女だって子供だって容赦なく殺されている。町や村は荒らされ、火の海と化している」

俺には関係のないことだろうと言い返したかったが、この状況ではけっして言えなかった。しかし実際そうなのだ。国と国との問題だろう。何の権力もない大学生を拉致したからってどうなるわけでもないだろう。

「だから私たちは立ち上がった。戦争を止めさせるために。お前たちを人質に取り、日本に条件を出した」

条件?

「攻撃を止めなければ、人質を殺すと」

そういうことかと合点したが、最後の言葉に賢一は硬直する。

とっさに先ほどの男の台詞が蘇った。

『お前たちは国に見捨てられたんだ。私たちにとっても用無しになってしまった』

額から冷たい汗がツーッとたれた。脈拍が異常な速さとなった。賢一は両手を力強く握りしめたが、震えを抑えることはできなかった。

「ついさっき、私たちの条件は却下された。宣言どおり、お前たちを殺す」

男は簡単に言った。

やめろ、と賢一は後ずさりする。しかし、逃げるすべなどなかった。隠れることもできない。

後ろにいた男とぶつかる。強く押されつんのめった。足が言うことを聞いてくれず、賢一は生まれたての馬のようになった。

「頼む。助けてくれ」

言葉の通じる男に涙目で訴えても、言葉は返ってこなかった。

極度の緊張に、賢一の呼吸が乱れる。嗚咽がこみ上げ、胃液を吐き出した。同時にめまいに襲われ、足がもつれてその場に倒れた。

「立て!」

全身が麻痺する。動けない。

殺される。叫びたくても声を出す力すら失っていた。

銃はまだ向けられていないが、男が再び仲間に合図を出した。

覚悟なんかできちゃいない。死にたくない!

賢一は目を瞑っていた。するとなぜか、不可解な音が耳に伝わってきた。

怖々と目を開けると、ジェット機のハッチがゆっくりと開いていく。突風が空気を切り裂き、轟音が機内を支配する。暴風に包まれているような感覚であった。

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「大学生二人を拉致した。攻撃を止めなければ命はない……」。首相官邸に届いたテロリストからの脅迫電話。ところが首相はそれをはねつける。国から見放された賢一と光太郎は、無人島上空からパラシュートをつけて突き落とされる。テロリストと首相への復讐に燃える賢一は……。息をもつかせぬノンストップ・サバイバル・サスペンス、『パラシュート』。中高生から圧倒的人気を誇る山田悠介さんが贈る本書より、物語の冒頭をご紹介します。

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山田悠介

1981年、東京都生まれ。デビュー作『リアル鬼ごっこ』は、発売直後から口コミで評判となり、累計200万部を超える大ベストセラーとなる。著書に『親指さがし』『ドアD』『復讐したい』『神様のコドモ』(幻冬舎文庫)、『その時までサヨナラ』『僕はロボットごしの君に恋をする』(河出書房新社)、『キリン』(KADOKAWA)など。映像化された作品も多数。中高生からの圧倒的人気を誇る。

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