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ホームレス消滅

2020.11.10 公開 ツイート

中学生の「ケンカの練習」で殺されたホームレス 村田らむ

最近、路上生活者(ホームレス)の姿を見かけなくなったと感じることはないだろうか? 実際、各自治体の対策強化により、ここ10年でおよそ70%も減少したという。『ホームレス消滅』は、そんなホームレスの現状を取材歴20年のライター、村田らむさんが体当たりでレポートした1冊。決して他人ごとではない、彼らの生活のリアルが伝わってくる本書から、印象的なエピソードをいくつか紹介しよう。

*   *   *

ホームレスより怖い中高生

ホームレスについて、「汚い」「臭い」というイメージを持っている人も多いが、より漠然と「ホームレスは怖い」と思っている人もいる。とりわけ、女性には多いかもしれない。先述した通り、そもそもホームレスはほぼ男性だ。加えて、周りに誰もいないのに怒鳴り散らしていたり、突然奇声を発したり、不衛生にしてゴミを散らかしていたりなど一般人に迷惑をかけるホームレスも一部いるので、怖いと思われているのはある種、仕方がない。

ただ、ホームレスに話を聞く身からすると、一般人のほうが怖いと思うことがある。

(写真:iStock.com/AlexLinch)

「中学生らしき集団に花火を打ち込まれた」

「身体やテントに火をつけられた」

「酔っ払ったサラリーマンに蹴り飛ばされた」

「自転車を投げつけられた」

このような未成年や酔っ払いを代表とする一般人によるホームレスへの暴力話には枚挙に暇がない。生活実態調査では、14.7%のホームレスが「ホームレス以外の人にいやがらせを受けて困っている」と回答している

 

ホームレスへの暴力事件については、1980年代初頭に起こった横浜浮浪者襲撃殺人事件が有名だ。横浜市内の公園や地下街でホームレスが次々襲撃されたのだ。犯人は、市内にある中学校生徒を母体とした未成年の不良グループ「恐舞連合」。同じく市内を拠点とする不良グループ「中華連合」とケンカして負けたことから、ケンカの練習台としてホームレスに目をつけた

途中からはストレス解消や暴力そのものを楽しむような状態になり、少なくともこの不良グループは2人のホームレスを殺めた。なお、この他に2人が殺されており、別の“ホームレス狩り”を行なうグループもあったのではないかと指摘されている。

それ以降も、このような未成年によるホームレス襲撃事件は断続的に起こっている(その一端は第5章で紹介する)。

ホームレスの敵「マグロ」とは?

ただ、ホームレスの敵は、ときにホームレスでもある。ホームレスから物を盗る泥棒を、「シノギ(屋)」「マグロ」と呼ぶ。

先述した上野公園の特殊清掃では、運び出された荷物は近所のお寺のわきに並べて置かれた。ホームレスは、ずっと見張っているわけにはいかない。

「くそう、盗まれた!」

「あいつ!! 俺の荷物を盗んだな!!」

現場では、怒号が飛んでおり、実際盗みは発生していた。

ホームレスの荷物を盗むのは、たしかにホームレスしかいないだろう。やったやっていないでケンカも発生し、とてもギスギスした雰囲気になっていた。

当時、上野公園で暮らしていた男性(70代)に話を聞くと、「荷物盗むヤツはいるよ。見つかって怒られても懲りずにまた盗む。病気なのかもしれんね。だからみんな基本的には大切な物は肌身離さず持っているよ」といい、シャツの首元から紐でつるしたがま口サイフを出してくれた。そこには数千円の現金と図書館のカードが入っていた。大事な物を腹巻きや靴の中に入れている人もいる。

(写真:iStock.com/pinoteross)

ただ、留守や不在時に持ち逃げするだけではない。眠っている時に暴力を振るって、のたうち回っている隙に金品を奪う場合もある。大阪のドヤ街・西成で、推定50代のホームレスに話を聞いた際、彼の左目の周りが赤く腫れて大きなアザができていたのが気になって聞いてみたことがある。

「ん、これか? 昨日シノギにあったんや。飯場(はんば)で稼いできた6万円を全部持っていかれた。今はスッカラカンや」

しかも彼がお金を取られたのは初めてではなかった。飯場からお金を持って西成に帰ってくるたび、酔っ払って寝ている時を狙われ、シノギにお金を奪われるという。

「シノギのヤツらは、飯場から帰ってきて現金を持ってる人間を嗅ぎ分けるんよ。それでわしが飯場から帰ってくると、いっつもお金盗られてしまうんや」

このような話を笑って話す彼もすごいが、西成のシノギは荒っぽいと以前からよく聞く。西成を根城にしているホームレス(60代)は怖そうに次のように語っていた。

寝ているといきなりナタでアキレス腱切るヤツらいるってよ。走って追いかけてこられないように。物を盗まれても困るだけだけど、アキレス腱切られちゃったら病院行くしかないからね。恐ろしいよ」

野宿をする人にとっては、外部の人も、同じホームレスも敵になりうるのだ。彼らが安眠できる日はない。

関連書籍

村田らむ『ホームレス消滅』

現在、全国で確認されている路上生活者の数は4555人。年々、各自治体が対策を強化し、ここ10年で7割近くが減少した。救済を求める人がいる一方で、あえて現状の暮らしに留まる人も少なくない。しかし、ついに東京は2024年を目標とした「ゼロ」宣言を、大阪は2025年の万博に向け、日雇い労働者の街・西成を観光客用にリニューアルする計画を発表。忍び寄る"消滅"計画に、彼らはどう立ち向かうのか? ホームレス取材歴20年の著者が、数字だけでは見えない最貧困者たちのプライドや超マイペースな暮らしぶりを徹底レポート。

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ホームレス消滅

最近、路上生活者(ホームレス)の姿を見かけなくなったと感じることはないだろうか? 実際、各自治体の対策強化により、ここ10年でおよそ70%も減少したという。『ホームレス消滅』は、そんなホームレスの現状を取材歴20年のライター、村田らむさんが体当たりでレポートした1冊。決して他人ごとではない、彼らの生活のリアルが伝わってくる本書から、印象的なエピソードをいくつか紹介しよう。

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村田らむ

1972年、愛知県名古屋市生まれ。ライター兼イラストレーター、カメラマン。ゴミ屋敷、新興宗教、樹海など、「いったらそこにいる・ある」をテーマとし、ホームレス取材は20年を超える。潜入・体験取材が得意で、著書に『ホームレス大図鑑』(竹書房)、『禁断の現場に行ってきた!!』(鹿砦社)、『ゴミ屋敷奮闘記』(有峰書店新社)、『樹海考』(晶文社)、丸山ゴンザレスとの共著に『危険地帯潜入調査報告書』(竹書房)がある。最新刊は20年にわたって取材し続け、ホームレスの今後を予測する『ホームレス消滅』(幻冬舎)。

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