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イヌネコにしか心を開けない人たち

2020.08.26 更新 ツイート

配偶者ではなくペットと一緒にお墓に入るという選択肢 香山リカ

精神科医の香山リカさんの著書『イヌネコにしか心を開けない人たち』には、大の動物好きという著者が自らのことを省みながらも、加熱するペットブームの背景にあるのは、「心のゆとり」ではなく「心のすきま」なのではないか、と書かれています。動物愛護の意識の高まりや昨今のペットブームは、人間の精神の成熟や豊かな社会の反映ではないのか。それとも人間疎外や孤立化の結果なのでしょうか。本書から一部を抜粋してご紹介します。

*   *   *

「そんなバカな」と思いながらも

シングル女性の老後についての本を書くために、葬儀のこと、墓地のことなどあれこれ調べていたときのことだ。

実家の墓がない、あるいはそこには埋葬されたくないシングル女性の場合、死後、散骨などではなくてどこかの墓に入りたいとなれば、「個人墓」か仲間との「共同墓」か、ということになる。

最近は、たとえ夫がいても、「婚家の墓には入りたくない」「死後も夫といっしょなんてイヤ」と個人墓を望む女性もいるそうだ。それを通称「あの世離婚」と呼ぶことも、あれこれ調べていくうちにわかった。

しかし、シングル女性や「あの世離婚」を望む女性には、実はもうひとつ別の選択肢もある。それについては、なかなか微妙な問題であるのと同時に、私自身、頭では「そんなバカな」と思いながらも「でもいいかも」と心が揺らいでしまったこともあって、その老後の本には取り上げなかった。

そのもうひとつの選択肢、それは「ペットと入れる墓」である。

(写真:iStock.com/Randomerophotos)

その名も「Withペット」という名前の墓地や墓石を商品として企画している「メモリアルアートの大野屋」は、ホームページでそれについてこう説明している。

亡くなった最愛のペットと飼い主が一緒に供養ができるペットのお墓「Withペット」は、これまでのペット墓地や納骨堂スタイルとは違い、家族と共にペットも家族の一員として末永く、最大限の手厚いご供養を可能にした新しいスタイルのお墓です。

人間とすべての生き物が一緒に供養できること。「生前にともに生きたペットと一緒にお墓に入りたい」と願う方のための完全独立型の墓域です。ますます、絆を強めていく人と生き物の共生関係を永遠のものにする新たなお墓のスタイルです。

・お客様が、可愛がられていた大切なペットなら、あらゆるペットと一緒に眠ることができます。

・お好みに合わせて石碑のデザインや形は自由にお作りすることができます。

・ペットのご遺骨だけを先に埋葬することもできます。

・他の墓所からの移転も可能です。

ちなみにこの会社は、「ペットロス・グリーフケア用品」としてペットの仏壇、遺骨から作るペンダントなどさまざまな商品を提案し、販売している。墓石や仏具などを扱って長い歴史を持つこの老舗企業は、おそらく最近、“ペットロス市場”の広がりを肌身に感じているのだろう。

法律上は禁じられていない

(写真:iStock.com/lamstocker)

それにしても、「ペットは家族」とはいえ動物であることには変わりない。その動物の遺骨と人間の遺骨をいっしょに埋葬することに、問題はないのだろうか。

自身もイヌ好き、ネコ好きを公言しており、『ペットはあなたのスピリチュアル・パートナー』(中央公論新社、2007年)という著作まであるスピリチュアル・カウンセラーの江原啓之氏でさえ、同書の中で「ペットと一緒のお墓に入ること」については「そこまで来ると、執着が強すぎるのではないか、と危惧してしまいます」と控えめながら否定的な意見を述べている。

この「ペットといっしょ墓」を肯定する人たちは、「縄文遺跡でも人骨とイヌの骨が近くから出てきた」「ピラミッドでも王のミイラのそばにネコのミイラが発見される」という例をあげることがあるが、それは呪術的な意味でそうしたのであって、決して家族としてペットを愛したことの結果ではないのではないか。

 

では、法律は「ペットといっしょ墓」をどう考えるのだろう。

埋葬にかかわる法律は「墓葬法」であるが、そこには動物の遺骨の埋葬の問題については何も触れられていない。それも当然で、動物の亡骸(なきがら)や遺骨は、法律上は「廃棄物」に相当するからだ。ちなみにこの「廃棄物」の取り扱いを決めているのは「廃掃法」であるが、そこにもそれを人間の遺骨とともに埋葬することの是非については、何も触れられていない。

つまり、「ペットといっしょ墓」は、法律的には良いとも悪いとも決められていないのだ。ただし、動物の遺骨は「モノ」と見なす現行法に照らし合わせるなら、それはお墓に納める故人のメガネや家族の写真などと同じ副葬品と同じと考えることができるだろう。「メガネは良くて、なぜペットの遺骨はダメなのか」という問いに対する答えを、今の法律は持ち合わせていないのだ。

 

だとしたら、あえて「Withペット」などという商品を作らずとも、誰もが勝手にペットの遺骨も墓に入れればいいような気もするが、そうもいかない。法律では定められていなくても、墓地の「管理利用規約」には「動物の遺骨は禁止」とうたわれている場合が多いからだ。

墓葬法の第一条には、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする」という記載がある。「ペットといっしょ墓」を認めるか認めないかは法律の問題ではないが、「宗教的感情の問題」や「公共の福祉」を鑑みて、各墓地で決めてほしい、ということなのだろう。

法律では禁止されていないにもかかわらず、少なくともこれまでは「ペットといっしょ墓」がなかったということは、宗教的感情的には人間・動物の共同埋葬に抵抗を覚える人も多かった、ということになるかもしれない。

関連書籍

香山リカ『イヌネコにしか心を開けない人たち』

「人間は見返りを求めるけれど、この子だけは無償の愛を私に注いでくれる」――もはやペットなしでは生きられない現代人。いい大人がなぜ恥ずかしげもなく溺愛ぶりをさらしてしまうのか? なぜもっと人間には優しくできないのか? 動物愛護運動はなぜ暴走するのか? イヌ一匹・ネコ五匹と暮らす著者が自らのペット偏愛歴を初告白。「人間よりペットを愛してしまう心理」を自己分析しながら、ペットブームの語られざる一面に光をあてる!

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イヌネコにしか心を開けない人たち

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香山リカ

1960年、札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。豊富な臨床経験を活かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。『ノンママという生き方』(幻冬舎)、『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』『イヌネコにしか心を開けない人たち』『しがみつかない生き方』『世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本』『弱者はもう救われないのか』(いずれも幻冬舎新書)など著書多数。

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