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右翼と左翼

2020.08.20 公開 ポスト

規制緩和、小さな政府、格差拡大…小泉純一郎は本当に「右」だったのか?浅羽通明

インターネット上で飛び交う、「ネトウヨ」「パヨク」といったワード。しかし、そもそも「右翼」「左翼」の違いをきちんと理解しているのでしょうか? 評論家、浅羽通明さんの著書『右翼と左翼』は、フランス革命から現代へといたる歴史をひもときながら、その定義や「ねじれ」を鮮やかに解説した一冊。知らないで使っていると恥ずかしい、「右翼」「左翼」という言葉の本当の意味がわかる本書から、一部をご紹介します。

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「左翼」から見れば「右」だが……

一見、勝ち誇っているかに見える「右」もまた、敵であった「左」の「理念」が、総崩れとなったのを眺めてそれ見たことか、現実を見やがれと喝采しているばかりで、その現実を率いてゆく自分たちの「理念」を対置できたとは今のところとてもいえません

近代日本において、戦前の「自由」「デモクラシー」「社会主義」、戦後の「平和主義」といった「理念」も、未来を志向する「進歩的」で「革新的」なものでしたが、古代の権威を近代国家のカリスマへと変貌させた明治の天皇制や、占領軍に与えられた戦争放棄条項と冷戦下のアメリカの軍事的利害の隙間を突いた吉田ドクトリンといった構想もまた、極めて「創造的」でした。

明治の「右翼」が唱えた対外拡張主義も、当時の最先端をゆく発想ではありました。現在の「右」に、こうした前向きの構想があるでしょうか

(写真:iStock.com/bee32)

ここで触れておくべきなのは、小泉純一郎政権で頂点に達したあの「改革」の構想でしょう(第一章「それでもまだ残る「右─左」の謎」参照)。

九〇年代の規制緩和やビッグバン論議の線上にある小泉「改革」は、「新自由主義的改革」などといわれるもので、規制緩和、民営化による小さな政府と格差を恐れぬ自由市場経済の実現が主眼です。

前章でも触れたように戦後日本では、保守党と経済官僚とが、規制と行政指導と公共事業による一種の社会主義的な計画経済、護送船団方式による経済運営をもくろみましたね。しかし、これらが平成期には、到来した低成長、ゼロ成長時代の財政難ゆえの維持困難、また機構の肥大化ゆえの非効率化へと陥った。ゆえにこうした改革の必要が叫ばれたのです。

この「改革」は、さて「左」なのでしょうか。「右」なのでしょうか

社会主義、共産主義、マルクス主義の立場からは、当然、「右」でしょう。こうした「権力左翼」は、強大な国家権力が、私利に走る資本主義企業の儲ける自由を抑え、市場経済を規制し、計画経済で「平等」を実現するのを、社会主義の理想としてきました。

ですから、格差を容認して「平等」を犠牲とし、「自由」を野放しとする「改革」はいわば歴史を逆戻りさせる「反動的」で「右」なものと見做されます。既述のように、支那や韓国では今もなお、この尺度で「右」「左」がいわれています。

見方を変えれば「左」ともいえる

しかし日本においては、こうした「改革」を必ずしも「右」と決めつけられないのが難しいところなのです。

というのは、戦後の官庁指導下の経済、さらには明治政府による殖産興業などは、確かに一種の計画経済性を帯びてはいますが、マルクスなどが資本主義が発達した果てにプロレタリア革命で実現すると想定した社会主義とは別物でしょう。

むしろ、後進国経済が、先進資本主義諸国の企業と伍して競争できる力をつけるため、強権をもってインフラを整え産業を育成する「開発独裁」がより近いかもしれません。思うに、ロシア、支那など資本主義の後進国で樹立された社会主義政権の内実もこれでしょうね。

(写真:iStock.com/CasPhotography)

だったら、日本で「官」から「民」へ、自由主義的な「改革」を実行するとは、八〇年代半ばまでは、開発独裁国家だった韓国や台湾で起こった民主化改革を、経済の領域において起こすことだといえそうです。こちらだとすれば、マルクス主義など近代的進歩史観から見ても、「歴史の進歩」「左」的といえなくはない

ジャーナリスト田原総一朗氏、社会学者宮台真司首都大学東京准教授など、「左」的と見做されてきた知識人が、留保はつけつつも小泉政権を支持していたのも、多くの文化人が、儲けるが勝ちと競争社会を明るく謳歌する堀江貴文への好感を隠さなかったのも、こうした「進歩的」色彩を否定できなかったからでしょう。

首相自身、政敵である「改革」批判派へ「抵抗勢力」というレッテルを貼ったあたり、自身の「進歩」派的イメージに自覚的だったと思われます。もし数十年まえだったら、このレッテルは「反動勢力」だったかもしれません。

しかし、日本国民の大多数が、そちらを歴史の進む方向だと了解するに到ったとは到底、思えません。最後まで続いた小泉政権への異常な高支持率は、小泉純一郎というキャラクターおよびパフォーマンスへの人気がやはりほとんどでしょう。政権末期には、かえって「格差」「下流」といった流行語が飛び交いました。国民は、新自由主義的改革が帯びる負の側面にかなり敏感だったといえましょう。

それに応じて、小泉政権が終焉を迎えたとき、後継者安倍晋三首相は、「再チャレンジ」などセーフティ・ネット整備を強調し、そのライバル、民主党の小沢一郎代表も(自らこそ新自由主義改革の誰よりも早い提唱者であるにもかかわらず)、日本型終身雇用制を評価するなどと言い出したのでした。

関連書籍

浅羽通明『右翼と左翼』

「もはや右翼も左翼もない時代」といわれる。が、依然「右‐左」のレッテルはさまざまなものに貼られている。しかし「では右って何?左って?」と訊かれると答えに窮する。「右‐左」の対立軸は何か?なぜ「上‐下」「前‐後」ではないのか?定義はもとより世界史的誕生の瞬間から派生まで、影響された日本の「右‐左」の特殊性から戦後の歪み、現代の問題点までを解き明かし、ここ百数十年の世界史とそれに巻き込まれた日本の歴史がわかる画期的な一冊。

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浅羽通明

1959年、神奈川県生まれ。「みえない大学本舗」主宰。著述業、法政大学非常勤講師。81年、早稲田大学法学部卒業。

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