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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2020.06.30 更新 ツイート

第134回 はじめての外食いとうあさこ

はじめて、は言い過ぎか。先日、3ヶ月以上ぶりになりますかねぇ。自粛生活始まって以来“はじめて”の外食、してまいりました。

わたくし、料理は小さい頃から好きでして。小学生の頃は新聞の日曜版に出ているお料理の記事を切り抜いては作ってみたり。20代、愛読書は「オレンジページ」「レタスクラブ」。食器なんかも見ると「あれ作って乗せたら美味しそうだよなぁ」なんて考えたり。そのくらい料理は好きなんですけどね。

 

40代に突入してからはほぼほぼ外食。特に夜。まあ外“食”と言うより外“飲み”ですが。やっぱり一人分の何かを作ろうと思っても、食材がどうしても余りがちで。でも毎日帰る時間もバラバラで、地方や異国に泊まる事も多い。となると余った食材をダメにしてしまう事も。だったら近所の居酒屋さんに行って、いろんなものをちょこちょこいただいた方が美味しいし、栄養的にもいいし、無駄もない。

そんなほぼ“外食族”だった私も3月半ばくらいからずっと自炊。しかも気づけばだいたい小松菜炒めるか練り物煮るか。あ、練り物焼くか、ってのもありました。はい、練り物多めです。いやはや、改めて毎日いろんな料理を美味しく作ってくれていた母ちゃんを尊敬。もう自分で作っているとだんだん自分の味に飽きちゃったりして。だから時折、よく行っていた近所のお店のテイクアウトを買いに。当たり前だけどプロの味の凄さも再感動。一人部屋で「あー」「ねー」「はぁ」と感嘆詞オンパレード状態でいただきました。

そんな私が近所の仲良し飲み仲間のオアシズ大久保さんと話すと言ったら“自粛が明けたらどこに飲みに行くか”。「あそこのキャベツと豚煮たヤツでワイン!」「いいねぇ」「あ、焼鳥屋さんの鶏しゅうまいもマストじゃない?」「たしかに!」でもいつも最終的な答えは「お寿司屋さんかな」と。お互いの家の中間地点辺りにある小さな町のお寿司屋さん。何回か行くうちにだんだん大将がいい感じのおつまみを出してくださるようになりまして。何も言わなくてもですよ。それが全部ちゃんとうちら好みで美味しい。しかもお寿司ってやっぱりご馳走だから“お祝い”な感じもしますしね。「よし。やっぱりお寿司だな。」

そんな会話をこの自粛期間中に何度したかわかりません。そう言えば以前、“食”がどれだけ“大事”で“必要”なものかを思い知らされた出来事が。20年ほど前、「進ぬ! 電波少年」“15少女漂流記”と言う企画で無人島にて暮らした時の事。結果半年でしたけど、やっている最中は“有人島に到着でゴール”だったのでいつまでやるのかまったく予想もつかず。“いつ終わるかわからない”にみんな何度も心折れました。タイトルの通り15人の女子で始まったこの企画。最初はバナナが生えていたから「美味しい美味しい」食べていたけど、あっという間に無くなり。その後は海で“アワビ”と呼んでいた十円玉くらいの大きさの小さな一枚貝を拾ったり、草むらの中から出来るだけ柔らかそうな葉っぱを摘んできたり。でも15人いますから正直なんの足しにもならず。そうなってくるとみんなの目、死んじゃうんですよね。そりゃあそうです。24時間ずっとお腹空いているのに脱出の為のイカダを作るべく、材料の木や蔓を探し回ったり。水を汲みに片道1時間以上かけて、崖を2つも越えて行くなどなかなかハード。

そんな状態だからこそ、夜とかいろんな話でもしそうなもんですけどね。もう喋ると言ったらみんな食べ物の話ばかり。自分のよく行っていたお店の事とか、好きな料理の事とか。時間つぶしに始めたしりとりもすぐ食べ物に。

「しりとりの“り”。」「りんご。」「んー、ごま。」「まんじゅう!」「あー、美味しそう。んー、ウインナー。」「焼いて食べたい! じゃあ、ナスグラタン……“ん”がついちゃった。」「……。」

そうして過ごした半年間。日本に戻ってきてからある事に気づいて愕然とするんです。私、この仲間たちの事、何にも知らない。だって食べ物の話しかしていないから。だから“この人の行きつけのハンバーグ屋さんが東中野にある”とか“この人のおばあちゃんが作る豚キムチはまず豚をカリカリになるまで焼く”とか。そういう事ならいくらでも出てくるんですよ。でも“今までどういう人生を歩んできた”とか“これからこうしたい”とか何にも知らない。半年、体力的にも精神的にもキツい中、一緒に踏ん張ってきた仲間の事を知らないなんて。でもそれだけ生きるにあたって“食”が大切なんだ、と実感したのも確か。

話がちょいと逸れてしまいましたが。そんな訳で私にとって“食”は大事でございます。3ヶ月ぶりの外食は大げさじゃなく泣けてくる位の多幸感と申しますか。お寿司屋さんに向かう道中、もう顔が笑っちゃって。マスクなかったらだいぶやべぇヤツ。マスクはいろいろ助けてくれるなあ。

暖簾をくぐると大将の「いらっしゃいっ!」の声。ああ、嬉しい。席は半分くらいに減らし、私と大久保さん以外にはご夫婦1組と男性お一人のみ。いつも最初に頼む瓶ビール。瓶ビールはどこで飲もうが一緒だとは思いますが、人様が用意してくださったコップ。あと瓶ビールの袴って言うんですか? 木製のビールの水滴キャッチしてくれるヤツ。そんな一手間が瓶ビールをひと味もふた味も美味しくしてくれる。そして大将の握ってくださったお寿司やおつまみをゆっくり静かに味わいまくりんぐでいただいていく。気づくと自然に「幸せだなぁ」と何度も言っている自分がいた。仕方ない、本当に幸せ感じちゃったから。

100%で「よし! ○○行こう!」みたいになるには正直まだまだかかるかな、と思いますが、たまにこうやって大事な一食を大事な仲間といろんな意味で噛みしめる、そんな時間がもてたらいいな、と思っております。さ、今宵もいつも以上に感謝をしながら……自宅で一人、練り物と残り野菜煮たヤツで晩酌といきますか。“食”よ、ありがとう。

 

【本日の乾杯】

これが“はじめての外食”の“最初の一皿”お刺身です。生もの自体かなり久しぶり。まぐろもトロと漬けと。この味わいであっという間に日本酒いっちゃった私をお許しください。

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いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。

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