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貧乏国ニッポン

2020.06.22 公開 ツイート

ディズニーは世界最安値 訪日客激増の理由は日本の「安さ」 加谷珪一

戦後最悪ともいわれる、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退。不透明な社会情勢が続くなか、実はコロナ以前から日本は「貧しく、住みにくい国」になっていました。その衝撃の現実をデータで示した『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(加谷珪一氏著、幻冬舎新書)が発売後、4刷目の重版となり、反響を呼んでいます。

この30年間で日本がどう世界から取り残され、コロナで私達の生活はどう変わり、どう対処すればよいのか。内容を少しご紹介いたします。

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貧しい日本で「ステルス値上げ」が横行

実際、日本は賃金が安い分、物価も安いのですが、残念なことに物価が安いので暮らしやすいという話は成立しません。日本は物価の下落が続いていると喧伝されていますが、それは国内要因だけで決まる一部の製品やサービスに限った話です。海外から輸入される製品は、海外の価格がそのまま適用されますから、国内事情とは関係なく値上がりします。海外と比較して賃金が安い国は、同じ輸入品を購入する場合でも、より多くの負担が必要となりますから、最終的な可処分所得は減少します。つまり、端的に言うと賃金が安い国は、その分だけ貧しくなってしまうのです。

(写真:iStock.com/jaraku)

このところ私たちの生活が貧しくなったとの感覚を持つ人が増えていますが、その理由が、まさにこれです。日本人の賃金が相対的に下がったことで、私たちの購買力が低下し、これが社会の貧しさに直結しているのです。こうした貧しさは至る所で観察することができます。ここ数年、食品の価格を据え置き、内容量だけを減らす、いわゆる「ステルス値上げ」が横行していました。食品に使われる原材料の価格は海外の物価上昇の影響で年々上がっており、食品メーカーの利益は減る一方です。

訪日客の目的は日本の安いモノ・サービス

日本国内の物価が安いということは、外国人にとっては、日本に来るとおトクに買い物ができるということを意味しています。2020年は新型コロナウイルスの影響で大幅な減少が予想されていますが、2019年には3000万人もの外国人観光客が日本を訪れました。彼等は日本文化や日本料理を楽しむために日本に来ているのでしょうか。もちろん、人によって目的は様々ですから、一概には言えませんし、日本の文化に接するために来日している人もいるでしょう。しかしながら、訪日客の7割を占める中国、韓国、台湾、香港からの観光客に限っていえば、最大の目的が買い物であることはほぼ間違いありません。

観光庁の調査によると、中国人は日本を訪問するにあたって、1人あたり約20万円の消費を行っていましたが、このうち買い物代が約半分を占めており、宿泊費や飲食代を大きく上回っています(いわゆる爆買い)。彼等がこぞって日本で買い物をするのは、日本の物価が極めて安いからにほかなりません。中国は近年、物価上昇が著しく、特に沿岸部の大都市では何もかもが高いという状況になっています。彼らは日本の商品を見て「安い」と歓声を上げているわけです。海外では同じモノが1・5倍から2倍の値段になっているということは、日本にやってきた外国人が日本国内の店舗で買い物をすると、何もかもが安いという感覚になります。中国人観光客による日本国内での消費を支えてきたのはまさに日本の「安さ」なのです。

日本のディズニーは世界最安値

こうした内外価格差はサービスにもあてはまります。ディズニーランドは世界各国にありますが、実は国によって入場料には大きな差があります。日本では1日入場券は8200円(2020年4月に7500円から値上げ)ですが、上海では同様の入場券は399元から575元(ピーク時には665元)で販売されています。1元=15円とすると5985円から8625円になります。香港では639香港ドルで、1香港ドル=14円とすると8946円と計算されます。米国カリフォルニアにある本場のディズニーランドは、104ドルから149ドルの価格設定ですから、1ドル=110円とすると、1万1440円から1万6390円となります。パリのディズニーランドも価格体系は多少異なりますが、米国とほぼ同じ水準に設定されているので、総合すると、日本のディズニーランドは世界でもっとも入場料が安いと考えてよいでしょう(新型コロナによる閉鎖前の価格)。

(写真:iStock.com/smckenzie)

海外旅行のついでに現地のディズニーランドに行くという人は少なくありませんが、外国から来た観光客は日本の入場料が安いので大喜びしているはずです。日本のディズニーランドがここまで安い価格設定にしているのは、日本の消費者の購買力が他国と比較して弱く、このくらいの価格設定にしないと他のテーマパークとの競争に負けてしまうからです。ディズニーランドには、他を寄せ付けない圧倒的なブランド力があり、どんなに高くても顧客は来場するように思えますが、話はそう簡単ではありません。価格が高いとリピーターの頻度が減り、全体の来場者数が減ってしまい、収益に影響してきます。顧客を囲い込み、高いブランド力を維持するためにも、適切な価格設定が必要であり、日本の入場料は、まさに日本経済の現状を反映した水準となっているのです。

ディズニーランドに限らず、日本のサービス産業は、安さに惹かれてやってくる外国人観光客なしにはビジネスが成立しなくなっています。高級レストランはその典型ですが、日本人の顧客はめっきり減ってしまい、お客さんの多くはアジア人です。しかも、彼等は決して富裕層ではなく、年1回の海外旅行でちょっと奮発している中間層です。日本の経済力が高かった時代には、平均的な所得の日本人がアジアに行き、価格差を利用して現地の高級店で豪華な料理を食べるというのが定番でしたが、まさにその逆の現象が起こっているわけです。

関連書籍

加谷珪一『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』

新型コロナウイルスの感染拡大で危機に直面する日本経済。政府の経済対策は諸外国と比べて貧弱で、日本の国力の低下ぶりを露呈した。実は、欧米だけでなくアジア諸国と比較しても、日本は賃金も物価も低水準。訪日外国人が増えたのも安いもの目当て、日本が貧しくて「安い国」になっていたからだ。さらに近年は、企業の競争力ほか多方面で国際的な地位も低下していた。新型コロナショックの追い打ちで、いまや先進国としての地位も危うい日本。国は、個人は、何をすべきか? データで示す衝撃の現実と生き残りのための提言。

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戦後最悪ともいわれる、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退。不透明な社会情勢が続くなか、実はコロナ以前から日本は「貧しく、住みにくい国」になっていました。その衝撃の現実をデータで示した『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(加谷珪一氏著、幻冬舎新書)が発売後、4刷目の重版となり、反響を呼んでいます。

この30年間で日本がどう世界から取り残され、コロナで私達の生活はどう変わり、どう対処すればよいのか。内容を少しご紹介いたします。

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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