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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2020.06.12 更新 ツイート

推しの晴れ舞台に「もう、何も怖くない!」スタイルで挑んでみたらカレー沢薫

前回、自分の最推しキャラであるへし切長谷部が出演する、ゲーム刀剣乱舞の舞台、通称「刀ステ」が無料配信されるというので、視聴を決めた。

いつもであれば「推しが活躍するってよ」と言われたら、すぐ遺書や白装束の用意をするし、最低でも一週間分の着替えは用意するところだ、もちろん入院用である。

しかし、それは推しの晴れ舞台を前に精神が不健全過ぎるのでは、と気づいた。
よって今回は、推しの活躍で網膜が焼けることを恐れるより、★型のグラサンと乳首におソロの絆創膏を貼って待つことにした。

 

つまり恐怖ではなく、全力で楽しむ「もう、何も怖くない!」というスタイルである。

私が魔法少女だったら、刀ステの配信を待たずに、首なし死体で発見されるところだが、幸いただの無職中年だったため、無事開始を迎えることが出来た。

ちなみに飲み物は、酒は眠くなるし、最近コーラもむせるようになったので「飲むヨーグルト」を用意した。
この健康に配慮したチョイスからしても私が「生きる気満々」であることが伺えると思う。

しかし、結果から言うと、飲むヨーは一口も飲まずに終わった。
はじまった瞬間、存在を忘れてしまい、気づいたらストローさえ刺していなかった。

詳しい内容はネタバレになるのは触れないが「推しが尊すぎて辛い」という現象は、こっちが勝手に辛くなっているだけである。
それよりもこの世には「推しが辛くて辛い」という純粋な辛さが存在することを思い出した。

シリアスかつ人が死ぬようなコンテンツが好きで、推しが何度も辛い目にあったり、死んで来たという、面構えが違う者なら当然知っていることなのだが、ヌルいコンテンツにいると結構それを忘れてしまうため、突然辛い推しの姿を見て一緒に辛死してしまうことがあるのだ。

特に刀剣乱舞のゲーム本編はあまり物語がないため「推しに悪い事も起こらないが良い事も特に起こらない」という吉良吉影の夢ゲーみたいなところがあったため、下手をすると推しに良い事があって喜んでいる姿を見ただけでも「はじめて見る推しの顔に耐性がない死」を起こすことがある。

ともかく、飲むヨーどころの騒ぎではなかったし、正直「どこから自分が死なないと勘違いしていた?」状態だった。

しかし、決してネガティブな意味ではなく、推しが尊かったことには変わりなく、より一層、推しの幸せだけ祈って生きて死ぬ決意が固まったので見れてよかった。

何より面白かったので見て良かった。

こうやって刀ステを体験することが出来たのは、まず「無料」そして「配信」という形にしてくれたことがとても大きい。

昔ほどではないが、オタクには地域格差というものがある。

私が小学生だった安土桃山時代には、町内にまず「書店」というものが存在しなった。
あるにはあるが、それは「本屋」であり、ジャンプなどの雑誌はまだ買えるが、単行本となるとドラゴンボールが連載している時にドクタースランプが置いてあるような有様だった。

さらに「小学生は町内から出ては駄目」という、プチ軟禁ローカルルールがあっため、漫画の新刊を入手するということすら不可能だったのだ。
おそらく都心だったら、書店の数も大きさも違うのでそんなことはあまりなかったと思う。

それが、ネットと通販の台頭により、物流に関しては、地方と都会の格差は大分縮まった。

しかし、未だに越えられない壁、埋まらない溝、があるのが「ライブコンテンツ」である。

刀ステなどの舞台やライブやイベントというのは大体、都会で行われものであり、映画刀剣乱舞の上映すら47番目に来た我が県でやることは絶対ないと断言できるし、48番目の県はもっとない。

不公平だと言っても、先方も商売なので、できるだけ集客がしやすい、人口が多い場所でやるのは当たり前なのだ。

我が限界集落で開いても、よほどのビッグコンテンツでなければ、満員にはできないだろう。

仮に我が村でヒプマイのライブを開いたとしても、まず集まってきた人間を泊める場所がないので、そこら辺にブルーシートを持った女が座り込んだり寝ているという、リアルH歴な雰囲気になって治安が悪すぎるので、安全面からしてもやらない方が良い。

よって、私のような限界集落生まれの子どもは、都会で行われるライブやイベントを「最初から存在しないもの」として扱ってきた。
そして、ある程度金を自由に使える大人になってからも、そう頻繁に都会のイベント類にはいけないので、たまに足を伸ばすイベントは敬虔な信者にとっての「メッカ巡礼」ぐらい、大事な意味合いがあった。

今回、コロナの影響で参加予定だったイベントが中止になった人は全員災難だが、特に災難なのは、何とか都合をつけて参加する予定だった地方勢だと思う。
仮に延期開催されても、その時行けるとは限らないのだ。

よって、今回、多くのコンテンツが「配信」という形をとったことは、ある意味地方民にとっては大きな救いであった。

地方民だけではなく、世の中には様々な理由でイベントには行けない人もいるので、誰でも見ることが出来る「配信」のメリットは大きい。

しかし何でも配信で見られるとなると「配信で見ればよいや」という風潮になってしまう可能性はある。
もちろんライブと配信は違うし、ライブでしか得られないものがあるのも確かだが、ライブの良さはライブで見た人にしかわからない。

よって、今はまだライブをし難い情勢ではあるが、またライブが出来るようになったらライブ勢はぜひ、ライブの良さをたくさん言って欲しい。

そうすれば、私のような限界集落の民も配信でいいやとはならず、「いつかべこで東京さ行って推しのライブさ行くだ」という新しい希望を持つことができる。

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カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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