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アルテイシアの熟女入門

2020.04.01 更新 ツイート

JJはランボー顔で聞きたい。「あなたたちは誰に向かって言ってるの?」アルテイシア

JJ(熟女)のSF(すこしふしぎ)現象として「何もないところで転ぶ」がある。しかも転んで擦り傷ができると半月ほど汁が止まらず、かさぶたができるのにも時間がかかる。

そんなスペランカーよりひ弱なJJだが、メンはめっぽう強くなる。私が年をとって生きやすくなったのは、ちゃんと怒れるようになったことが大きい。

 

先日も飲み屋でくつろぎタイムを過ごしていたら、酔っ払いのおっさんが「一緒に飲もうよ~」と腕に触ってきたので「ハアッ?」とプーチン顔をキメた。するとおっさんはひるんで「あ、ごめんね」と謝ってきた。

その瞬間「カ・イ・カ・ン」と脳内で機関銃を発射した。昭和のJJなのでイメージは橋本環奈じゃなく薬師丸ひろ子だ。

怒ったことが快感だったわけじゃなく、怒りを表明して己の権利を守れたことが嬉しかった。20代の私であれば、とっさに笑顔で愛想よく返して、おっさんに接客サービスする羽目になっただろう。

日本人は「怒ることは悪いこと」と刷り込まれている人が多い。これは権力者にとって実に都合のいい話である。

民草が「自己責任」「怒るなんてワガママ」と刷り込まれていたら、権力者たちは批判されずにすむ。その結果「自分の頭で考えず、お上に従った方が楽」と思考停止してくれれば、やりたい放題できるだろう。

ジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパンでは、怒る女が特に叩かれる。フェミニストを公言すると「攻撃的」とレッテルを貼られ、赤潮みたいにクソリプが発生するし、「まあまあそう怒らずに」とトーンポリシング勢が湧いてくる。

ネットやツイッターで意見を書くことの、どこが攻撃的なのか? そうやってフェミニストを批判する暇があったら、性差別や性暴力をする側を批判したらどうか。そっちの方がよっぽど攻撃的で有害なのだから。

KuTooの石川優実さんなんて日本で今一番社会を動かしているフェミニストなのに、「怒りじゃ何も変わらない」とすっとぼけたリプが殺到している。

私だったら「うるっせえ!! ワシは怒りたくて怒っとるんじゃ!!」と機関銃を乱射するが、それをしない彼女は平和主義者だ。そのガンジーみを尊敬する。

MeToo、KuToo、フラワーデモ等によって、現実に社会は変わりつつある。それは女たちが怒りの声を上げたからだ。

私も性差別や性暴力を殲滅したいフレンドなので、「女は感情的」「ヒステリーババア」「更年期? ww」と揶揄されても「うるっせえ!!」と元気いっぱいに怒っている。

そんなコラムを読んだ読者から「自分も怒っていいんだと気づいた」「セクハラやパワハラにNOと言えるようになった」と感想をもらうのが嬉しい。なにより「コラムを読んで元気になった」という感想がすごく嬉しい。

というわけでランボー風にハチマキを巻いて、ルンルン気分(古語)で執筆している。そんな私も3月初旬、国際女性デーの炎上記事「なりたくなかったあれ」を読んで、ズコーッ(古語)とすっ転んだ。

私と同様、いきなり背後から撃たれた気分になった女子は多いだろう。周りの若い女子たちも「あれめちゃめちゃショックでした……」「ゴリゴリに削られました……」とお通夜のようにしめやかなムードになっていた。

国際女性デーに女性の元気をなくす効果は抜群である。その後も様々な意見が出ていたが、私が一番聞きたいのは「あなたたちは誰に向かって言ってるの? メディアの偉いおじさんたち?」ということだ。

「私はフェミニストじゃないですから、あんなのと一緒にしないでくださいね!」と言いつつ「ジェンダー平等というゴールに向かって手を取り合おう」とか言われても「絶対そんなこと思ってないやろ?」とバレバレである。

長い物には巻かれよの忖度芸を見せつけられ、「こんな地獄は見飽きたぜ」とランボー顔になった私。

男を敵に回すのが怖くて「私は敵じゃありませんよ!」と必死でアピールする、奴隷仕草。
声を上げるフェミニストに「そんな言い方するな、支配者様がご機嫌を損ねたらどうするんだ!」と恫喝する姿を見たら「そうか、私たちは奴隷なんだな、対等にものを言う権利はないんだ」と下の世代は思うだろう。

私は下の世代の女子に向かって言いたい。あなたたちは奴隷じゃない。地面に頭をこすりつけて「平等な権利をください」「差別しないでください」なんて言わなくていい。男女平等は男に認めてもらって与えてもらうものじゃないのだから。

全ての人は性別や人種や属性に関わらず、生まれた時から平等な権利がある。それを不当に奪われていたら、怒って当然なのだ。そうやってまっとうに怒れることは、心が健全な証拠なのだ。

「なりたくなかったあれ」にランボー顔になった私だが、実は怒りよりも悲しみの方が大きかった。
ミソジニーを煮詰めたような業界で働いてきて、すげえ苦労したんだろうな、それで奴隷仕草が染みついちゃったんだろうな、可哀想に……と。

拙者はフリーランスの野良作家でよかった。誰にも忖度せず「王様は裸だ!」と言えるし、「フリチンで公道を歩くな!」と注意もできる。
なにより堂々と胸を張って言える。「オッス、おらフェミニスト! 性差別や性暴力をぶったおすために、おめえも一緒に戦わねえか?」と。

どんな立場の人も「私はフェミニストじゃないけど」と前置きせず、言いたいことを言える国になってほしい。
ポイズン国家に住む私に「スウェーデンでは“男女平等は当たり前”が共通認識。それに政治をまっとうに批判することは国民の義務だし、むしろ良いことだとされてるよ」と久山は語る。

ルッキズムのコラムにも登場した久山葉子氏は、拙者の古い友人である。「日本で子育てするのは無理ゲーや」と娘が1歳の時にスウェーデンに移住して、現在は北欧ミステリの翻訳家およびエッセイストとして活躍中。『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』という著書も出している。

彼女のエッセイによると、スウェーデンでは保育園の時から「性別、民族、宗教、セクシャリティ、障害に関わらず、人間には全員同じ価値がある」と子ども達に教えるそうだ。

また「子どもの権利」についても積極的に教えていくらしい。

久山氏が保育園に通う娘に「子どもにはどんな権利があるの?」と聞くと「すべての子どもには同じ価値がある」と即答して「子どもを叩いてはいけない、子どもを働かせてはいけない」とすらすら答えたという。

『家でパパやママから体罰を受けたら、それを先生に報告して助けを求めればいいということを、子ども達は知っている』
『「おうちではパパやママの言うことをよく聞きましょうね」ではなく、大人が間違ったことをした場合に、それに気づく能力を養う』
『それはスウェーデンの保育指針にある“自分で考え、意見を持つ能力”を養うという点にもつながっていく』

これらの文章を読んで、毒親育ちの全私が号泣である。子どもは誰かに教えてもらわないと、自分の親がおかしいことに気づけない。「パパやママが私を叩くのは、私が悪い子だから」と刷り込まれてしまうのだ。

先述のコラムに書いたが、久山氏は5歳の娘に「ママ、見た目がどう関係あるの?」とマジギレされたという。
間違ったことには怒る”、その当たり前のことが当たり前だと認識されるスウェーデンに「よし、今すぐ亡命だ! 美童グランマニエみたいな人マジでいるのかな?」と旅立ちたくなった人も多いだろう。

拙者の推しは清四郎だが、有閑倶楽部の話は置いといて。ドイツ在住の女子が「日本に帰ると、平気でセクハラや失礼な発言をする男が多くてギョッとします」と話していた。
「ドイツの女性はバチバチに怒るから、男も変なことできないんですよ。そういう社会だと、変なことする男は男からも嫌われるんですよね」とのこと。

スウェーデンやドイツにも性犯罪者や小児性愛者は存在するが、それ以外のまともな人間が皆「性犯罪者や小児性愛者は絶対許さない!!」と怒っている。だから加害者が叩かれて、被害者が守られるのだ。

日本で痴漢や性暴力の話をすると「男を犯罪者扱いするな!」「男の性欲を否定するのか!」とトンチキなキレ方をする連中が湧いてきて、げっさ疲れる。げっさ疲れるけど、私はもう少し日本でがんばるよ。

下の世代が生きやすい社会に変えたいから。「性差別や性暴力を許さない、だから私はフェミニスト」と堂々と言える社会になってほしいから。

そして「男はつらいよ」「男らしさの呪いで生きづらいよ」という男性は、フェミニズムを通してジェンダーを学んでみてはどうか。呪いを作ったのは女じゃないので、女を攻撃するのはお門違いだ。
男性が「ジェンダーの呪いから抜け出すために勉強したい」と言えば、フェミニストは「どーぞどーぞ!」とダチョウ倶楽部のように歓迎するだろう。

最後に、Kくん(44歳男性)の話を書こう。Kくんと私は20年来の付き合いで、たまに飲みにいく仲だった。
2年前に飲んだ時、彼が「会社の部下の男子からゲイだと打ち明けられた」と言ったので、「それでどうしたの?」と聞くと「『今の社会では差別されるのが現実だから』と返した」とおっしゃる。

ガガガガガガガガガッ!!!!!!!(機関銃を乱射する音)

脳内でハチの巣にしつつも、私はなるべく感情を抑えて、その対応がいかにクソで間違っているか説明した。しかし彼は「なんでそんなに怒ってるの?」「なんで俺が責められなきゃいけないの?」と返すばかりで、まともな会話にならない。

ついに私も堪忍袋の緒が切れて「絶交や!!」と激おこして、その場を去った。40歳を過ぎた人間はあまり絶交とかしないので、彼はものすごく面食らっていた。

その後、共通の女友達に「ちょっと聞いてよー!!」と電話すると「いやーあいつは昔からそうだった! 私も若い頃『なんで女なのにスカート履かないの』とか言われて、しばいたろかと思ったわ!」と一緒に怒ってくれた。

それで「ああいう人は一生変わらないんじゃないの?」「そうだよね、おっさんはめったなことでは変わらないよね」と電話を切った、その2年後。

Kくんから突然連絡がきて「会社の部下の女子からレズビアンだとカムアウトされた。彼女は人生やキャリアに悩んでいるので、相談に乗ってやってくれないか」と頼まれた。「はあ、いいですよ」と承諾して、後日、その彼女と会っていろいろと話した。

その時に「Kさんがすごく親身に相談に乗ってくれたんですよ。私が会社で働きやすいようにサポートもしてくれて」と聞いて、ぶっとびー!(古語)とぶったまげた。

あの後、KくんはLGBTについて勉強したらしい。ひょっとすると私がマジギレしたから? と想像すると、大変喜ばしい気分になった。

怒りじゃ何も変わらないなんてこと、ない。

20代の私は「女は笑顔で愛想よく」とジェンダーロールを刷り込まれていて、怒れなかった。怒りを我慢するとモヤモヤして、抑圧された感情がマグマのように溜まっていく。そのストレスのせいか、当時は今より体調が悪くて元気もなかった。

そんな20代の自分に伝えたい。40歳を過ぎて何もないところで転んだりするけど、私は元気です。ちゃんと怒れるようになって、フェミニストの友達もいっぱいできて、毎日ハチャメチャにハッピーだから、安心して年をとってくださいね。

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アルテイシアの熟女入門

人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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