だしのとり方、米の炊き方、肉の焼き方、野菜の茹で方……知っているようで知らない、料理の基本。女子栄養大学名誉教授、松本仲子先生の『絶対に失敗しない料理のコツ おいしさの科学』は、そんな料理の基本をイチから教えてくれる、心強い一冊です。いつもの料理がもっと簡単に、間違いなくおいしくなること間違いなしの本書から、調理のコツ&すぐに実践できるレシピをご紹介します。
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ステーキをおいしく焼くコツ
牛肉のステーキを焼くときは、冷蔵庫から肉を早めに取り出し、室温に戻しておくことが大切です。冷たい状態で肉を焼き始めると、中心が温まらないうちに表面が焼き上がってしまいます。
次に、赤身と脂身の間にある筋に包丁の刃先を刺して切れ目を入れます。筋を数カ所断ち切っておかないと、肉を焼いたときに筋が縮むため、全体がお椀のように丸くなり、均一に焼くことができません。そのあと塩とこしょうをふりますが、焼く直前に行うようにしましょう。塩をふってから時間が経つと、うま味の詰まった肉汁が外に溶け出してしまいます。
よりおいしく仕上げるには、鉄製のフライパンを使うのがおすすめです。鉄製のフライパンを使う場合は、フライパンを充分に熱してから油を入れると、肉がフライパンにくっつきにくくなります。肉を入れたら表面を強火でさっと焼き、たんぱく質をかためて壁を作るとうま味が逃げません。
ビーフステーキは熱々をいただくのが鉄則
肉の脂肪酸は融点の高い飽和脂肪酸が多く、室温では固体になります。牛肉の脂の融点は40~50℃と体温より高く、いったん冷えてかたまると、口に入れても溶けません。冷えた脂は口の中でベタつき、おいしく感じられないもの。ビーフステーキは熱々のうちにいただきましょう。また、融点が低くなるよう特別に育てられた肉を除いて、牛肉のたたきや冷しゃぶに脂のない赤身を使うのは、このためです。
ちなみに、豚肉の脂の融点は35~45℃。口の中で溶けるものもあります。鶏肉の脂の融点は30~32℃と低いため、中国料理などでは冷たい前菜に利用されます。
ハンバーグのひき肉をよく練るのは?
肉のたんぱく質は生の状態だと粘着力が強く、こねることで互いに結びついて粘り気が増します。ここに塩を加えると、繊維状のたんぱく質が溶けて液状になり、さらにまとまりがよくなるのです。ハンバーグを作る場合、たまねぎやパン粉といったほかの材料には粘着力がないので、ひき肉をよく練って粘着力を高めることで全体のまとまりがよくなります。
たねの空気を抜き、中心部はくぼませる
ハンバーグのたねを小判形にまとめたら、両手でたたきつけるようにして空気を抜きましょう。ひき肉はすき間が多いので、もともと熱が伝わりにくく火が通るのに時間がかかります。そのうえ、こねることでたねにかなりの空気が入り、焼くと膨張してさらに火の通りが悪くなります。中心部は空気の逃げ道がないため、盛り上がらないように薄くしておきましょう。あらかじめ中心を薄くしておけば、周辺部と真ん中が均一に焼き上がるというわけです。
新常識 ハンバーグのたまねぎは炒めなくてもいい
ハンバーグに加えるたまねぎは、あめ色になるまで炒めるという方も多いでしょう。そもそも、たまねぎを炒めるのは辛みが甘みに変わり、独特の香りがコクとまろやかさをもたらすため。さらに、たまねぎの水分を飛ばすことでひき肉となじみやすくなり、焼いている間に水分が出てハンバーグが割れるのを防ぐためです。
一方で、たまねぎを生のまま加えると、さっぱりした味に仕上がります。焼いている間にたまねぎの水分は出てくるのですが、パン粉を牛乳に浸さずに加えれば、その水分を吸ってくれます。ですから、たまねぎを炒めるかどうかは、さっぱり系としっとり系、どちらの仕上がりが好みかによって決めればいいでしょう。
また、パン粉も牛乳に浸してから加えるというレシピが多いようですが、それは昔のパン粉が乾燥しすぎてかたかったためです。最近のパン粉であれば、よほど乾燥していない限り牛乳に浸さなくても大丈夫。むしろ、溶け出る肉汁を吸収してくれます。
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