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日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない

2020.02.08 更新 ツイート

芸術とセックスの快楽は“どうせ死ぬ人間”に救いを与える二村ヒトシ/湯山玲子

夫婦間のセックスレスは当たり前、恋人のいる若者は減少し、童貞率は上昇中——。そんな日本人の性意識の変化を大胆に、真摯に語り合った『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子+二村ヒトシ)が2月6日に文庫で発売になりました(解説は、哲学者の千葉雅也さん)。単行本発売時より、より現実のものになった本書の内容を、一部抜粋してお届けします。

快楽で自分を異界へ連れていく

湯山 快楽に関しての素養がある人が男も女も少ないと思う。五感の中で聴覚と味覚が快楽に非常に近いところがあって、ゆえに、私は特に、えせではなくて真の「音楽好き」な男女を信用するところがあるんですよ。一流と言われる音楽芸術は、エクスタシーに似た快感の境地に連れてってくれることがある。「何だこれは!」と体験したことがない快楽がある。「こんな神がかった表現があるのか」と思うことがある。私はその法悦が好きなんですよ。

三島由紀夫はエッセイ『私の遍歴時代』で、音楽について面白いことを言っている。三島は実は音楽が好きではなかった。なぜならば、音楽は小説や美術のように自分がその作品に介入することができずに、完全に受容することでしか、その美を享受できない。その受け身のところが嫌で、マンボとかの通俗音楽しか聴かない、と。さすが三島センセイはわかっておられる!

二村 能動的な湯山さんだからこそ、受動性による「かけがえのない瞬間のオーガズム」を好むし、味わえるのかな。

湯山 そういう奇跡が起きるときがあるんですよ。「イッたー」というときよりも、その前後の時間を忘れる感覚というか。

二村 時間感覚を失う、やっぱり「意識が別世界に行く」のが大事なんですね。

湯山 グルメにもそういう瞬間がある。「すきやばし次郎」はランチでおよそ30分2万5000円という、「どこのキャバクラだ」っていうような値段なんですが、悪口を言うつもり100パーセントで「次郎」に行って、あのヒラメの握りを食べた瞬間にそういった感覚を得た。今でも脳内にあのヒラメの部屋がある感じ。フランス料理の「カンテサンス」や「ピエール・ガニェール」にもそれがあった。快感は偏在してるんです。それを感じられない美食家というのは、実はうじゃうじゃいて、たいてい「俺は100軒フランス料理店に行ってます」と数の勝負に出がち。ある程度、数をこなさなければならないけれど、その数量は快感がわかる、ということの証明ではないのですよ。ここんとこ、さっきのセックスにおける回数自慢と似てるでしょ?

二村 それで言うと、今まで出合ってなかった、たまたま生活範囲に入ってこなかった〝普通のもの〟が、食べてみたら凄い強度だったってこともありますよね。北欧でパンとチーズをいっしょに食べると、めちゃめちゃ旨い。普通に安ホテルの朝食とかコンビニで売ってるパンです。ドイツもこれまた安いパンが旨い。その国の人にとっては日常の平凡な食べ物でも、僕にとっては旅先のものだから、触れるたびに、味わえる濃厚な快感にビックリする。セックスも、多くの相手とやればいいというもんじゃないし、誰とやったって平凡な行為だけど、同じ相手でもやるたびに何かしらの感動を得るというのが、いいんですよね。快感に感動できる自分でありたいと思う。

湯山 ちょっとスピリチュアルな言い方になっちゃうけど、異界というかアウラというか、そんなところに手が届く感覚を人生において持ったほうがいいですよ。

二村 まったく同感です。何かの外部刺激で起動される「心の中の、別の世界」には行ったことがあるほうがいい。行ったってちゃんと帰ってこられる。しかも、帰ってきた自分は、行く前とは変わっているから。

湯山 もちろん、そういう快感がなくても生きていけるのですけどね。セックスも子作りのためだったら、機能的で済むじゃないですか。しかし、私たちは進化してしまって、脳で快感がわかるようになってしまった。だったら、それは知っておいたほうがいいですよね。快感を恐れずに貪欲に積極的にならないと、セックス方面も楽しめないと思うし。

二村 もの凄くおいしい料理だったり、食べたことのない味だったり、凄い才能が作った芸術だったり、とんでもなく気持ちのいいセックスだったりが、この世じゃないところと繫げてくれる。そのことを知っている人は、強い人だと思いますね。それらをすべて経験しなければダメというわけでもないですし、それぞれのジャンルに向き不向きもありますけど……。

湯山 人間、どうせ死んでいくんだけど、でも、芸術とセックスは、その“ただ死んでいくだけ”という存在を超えるものでしょう。

二村 でも、だからこその難しさもある。「すきやばし次郎」は何カ月か前に予約してお金を払えば誰でも体験できるのかもしれない、お店で食べる一流の料理は芸術になり得るのかもしれないけど、セックスそのものは芸術ではない。優れたベテランAV男優たちのセックスに対する姿勢や情熱、その技術は目を見張るものがありますが、彼らと実際にセックスしたすべての女性に芸術的な感動を与えられるとは限らない。セックスは人間の関係ですから。

湯山 いや、同じですよ。お金を払えば食べられたり、体験できるのだけど、そこから芸術体験するには、受けるほうのコンディションや状況、開いた感性がいる。

二村 それと気をつけなくてはいけないのは、アディクトということがあるじゃないですか。「中毒」というより「依存」って言ったほうがいいかな。ジャンクなものにハマっていく。もの凄い神秘と出合うつもりが、心の穴を埋めようとすることにアディクトして、共依存関係に陥る相手とジャンクなセックスを繰り返してしまい、本当の快感と出合っているわけではないのに、「それが快感だ」と思い込んで逃れられなくなるということもある。

湯山 至高のエクスタシーは、自分も相手も溶け合って、滅私する感覚があるんだけど、ジャンク系はそこに支配の快感やナルシシズムなんぞの自己がべったり張り付いていそう。

二村 そうなんです。自己に酔うというのは、最初に話した「承認欲求だけで恋愛やセックスをする人たち」の気持ち悪さとも繫がる。

湯山 でもさ、アディクトの中から見えることもあるよね。

二村 あります。破滅から見えてくる景色もある。よいことばかり、前向きなことばかりでは得られないエクスタシーがあるのも事実。

湯山 だから、気持ちよさの問題は難しいんだよね。地獄を見ることもあるから。

二村 そういう快楽もあると知ってさえいればいいんじゃないかな。自意識による恋愛だって、人生の一時期、どうしてもそこに耽ふけらなければならない季節もあるわけで。

湯山 快楽に対してはやろうという意志さえあれば、リーチできる可能性はあるよね。リーチできるノウハウも世の中に多く提示できる。それを二村さんと語っていきましょう。

(構成:安楽由紀子)

*   *   *

続きは、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』をご覧ください。

湯山玲子+二村ヒトシ『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』

恋人のいる若者は減り、童貞率は上昇、夫婦のセックスレスは当たり前の日本。セックスは、子どもを作る以外に必要ないのか? 自分の中の暴力性を嫌悪する男性たち。男性に好かれるためにバカなふりをする女性たち。セックスは普通の人間には縁のない、贅沢品になったのかもしれない。それでも気持ちのいい人生を諦めない方法を語り尽くす。

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二村ヒトシ アダルトビデオ監督

アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。監督作品として『美しい痴女の接吻とセックス』『ふたなりレズビアン』『女装美少年』など、ジェンダーを超える演出を数多く創案。現在は、複数のAVレーベルを主宰するほか、ソフト・オン・デマンド若手監督のエロ教育顧問も務める。 著書に『すべてはモテるためである』、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(ともにイースト・プレス)、『淑女のはらわた 二村ヒトシ恋愛対談集』(洋泉社)『オトコのカラダはキモチいい』(共著/KADOKAWA)などがある。
公式サイト:http://nimurahitoshi.net/
twitter:@nimurahitoshi / @love_sex_bot

湯山玲子

著述家、プロデューサー。日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。

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