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すばやく鍛える読解力

2020.01.14 公開 ツイート

読解力をすばやく鍛える6つのポイント 樋口裕一

79か国・地域の15歳約60万人を対象とした国際学習到達度調査(PISA)の結果が先月公表され、日本は「読解力」が前回の8位から過去最低の15位に急落したことがわかりました。

“小論文の神様”樋口裕一さんの新刊『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)は、まるでその結果を予見していたかのように、「第一章 なぜ日本人の読解力が落ちているのか」で始まります。さらに樋口さんは、「文章を読むだけでは読解力はつかない」とも指摘。では、効率的に読解力を鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?

樋口さんの指導が直接受けられる「3ステップ・簡単 読解力講座」も申し込み受付中です。

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iStock.com/jesadaphorn

読解力が身につかない2つの理由

なぜ、多くの人が読解を苦手とするのか。なぜ文章を理解できないのか。

読み取れない第一の理由、それは言葉を運用することができないからだ。辞書的な意味を知っていても、それを活用できない。抽象的な文が現れたら、次にそれを具体的に説明したり、逆に具体的に書いたら、あとで抽象的にまとめるといった基本的な言葉の仕組みが頭に入っていない。また、いくつもの表現を用いてそれを使いこなすことができない。

そこで最初に、語彙力の養成を行った。書き換え力をつけ、言葉を自分で運用するうちに言葉を操れるようになることを目指した。

文章を読解できない第二の理由、それは文章を自分で書いた経験が少ないからだ。書けば、抽象と具体の仕組み、文章の論理構造、書き手の様々な工夫が理解できる。どのようなところに苦労して根拠を示したり、文章にリアリティを持たせているのかが実感としてわかる。そうなると、読解もしやすくなる。

そこで次に、文章を書く練習をした。そうすることで文章を自分のものにでき、読解のための力もつけた。これで、読むための基本的な準備はできた。

本章では、いよいよ読解に進む。これまで身につけたテクニックのいくつかを応用して読み取りをしていくことに主眼を置く。読み取るための主たるポイントをいくつか挙げる。

ポイント(1) 抽象と具体を区別する

抽象的なことを書いたら、その後にその説明をする。逆に、具体的に書いたら、それを抽象的にまとめる。

このように、文章は抽象と具体からなっている。ところが、読解の苦手な人はその区別がすぐに頭に入らない。問われれば答えられる場合が多いが、それがすらすらと理解できない。したがって、まずは意識的に抽象と具体を解きほぐしてみる。すらすらと頭に入ればよいが、そうでなかったら、抽象と具体を意識しながら読んでみる。

ポイント(2)「確かに……。しかし……」のパターンをつかむ

第三章で、私は「確かに……。しかし……」という書き方を推奨した。このような書き方をするのは、自分の論理を客観的にするために、あえて反対意見を考慮して譲歩するというテクニックだった。この表現を身につけることによって、論を深めることもでき、相手に譲歩する形をとることもでき、ある程度の字数が必要な場合にはうまく字数配分ができるという利点がある。

ところが、実はこの表現は読解においても重要な意味をなす。読解の苦手な人は、この「確かに……。しかし……」の仕組みを十分に理解できていないのだ。

多くの文章が、「確かに……。しかし……」のパターンを使っている。複雑な文章になると、1ページの紙面でこのパターンのオンパレードになる。「このように語る人がいるが、それはおかしい。また、このような意見があるが、それも問題だ。そのためこのような問題が出てくるが、それは間違っている」といったように文章が展開される。読解の苦手な人はそれについていけない。

ポイント(3) 「問題提起」→「意見提示」→「展開」→「結論」の四部構成を意識する

文章を読んで、まず構成を論理的に解きほぐし、どのような構成で書かれているかを探る必要がある。その場合、小論文の基本である「四部構成」を考えて読むとよい。

論文ふうのものはほぼ100パーセント、それ以外でもかなりのものが「問題提起」「意見提示」「展開」「結論」という四部構成になっていると考えてよい。

たとえば、新聞の社説なども多くの場合、政治的な動きが説明され、そのような行動が好ましいかどうかを問題提起する。それから、「確かに、この行動にはこのような意図があるのだろう。しかし、それには問題点もある」と続けて、その内容を吟味する。そして、最後の結論を示して、今後の方向性を提示して終わるだろう。

学術論文も同じような形をとっている。最初に研究課題を示し、その後、先行論文についての検証をする。この部分は大まかには、「確かに、先行論文はこの点で功績があった。しかし、不足があった」などとまとめられるだろう。そして、次に自説の検証に入って、最後の結論を示す。

このように、多くの文章がこの「型」を用いている。それを意識して読むわけだ。

ただし、もちろん実際の文章では段落が四つとは限らない。それ以上のことが圧倒的に多い。また、「型」通りの、「……だろうか。確かに……。しかし……。なぜなら……。したがって……」という表現は用いられていないことが多い。

多くの文章は以下のような構成になっている。

 

●第一部「問題提起」のパターン

第一部の問題提起には次のようなパターンがある。

・疑問文で示す 「……だろうか」などと疑問文で問題提起する

・結論を示す 「私は……と考える」などと自分の意見を最初に示す

・事実だけを示してほのめかす 「このようなことが起こっている」という状況だけを書いて、問題提起は表立ってすることなく、ほのめかすだけにしている

 

●第二部「意見提示」のパターン

「確かに……。しかし……」のほか、以下のような表現が用いられる。

時には、一つの「確かに……。しかし……」ではなく、複数の反対意見に考慮して、いくつもの「確かに……。しかし……」を重ねることもある。

そのほか、「なるほど……。ところが……」「……の面がある。一方……」「……とされている。しかし……」「それには、……の面がある。だが……」「一方では……。しかし、他方では……」などが用いられる。

 

●第三部「展開」のパターン

文章の最も大事な部分なので、定式化するのは難しい。様々なパターンで自説の根拠を示し、その背景などを深めていく。

 

●第四部「結論」のパターン

結論を示すのが原則だが、実際の文章では、ちょっと余計なことを加えたり、付け足しめいたことを語る場合もある。

ポイント(4) キーワードとその意味を正確にとらえる

四部構成に直したら、次にこの文章のキーワードは何なのかを考え、その意味を正確にとらえる努力をする。ほとんどの場合、最も多く出てくる用語がキーワードだ。ただし、そこに特殊な意味が込められている場合があるので、注意する必要がある。文章中にその説明があったら、それをしっかりとチェックする。

ポイント(5) 「何に反対しているか」を考える

文章を書くということは、何かを主張しているということだ。そして、何かを主張しているとは、何かに反対しているということだ。つまり、「……ではない。……なのだ」と、ほとんどの文章は語っている。したがって、その文章が何を言いたいかを理解したかったら、何に反対しているかを考えるといい。

文章を読んで、文字面はわかるのだが、何を言いたいのかよくわからないことがある。あるいは、会議で人の意見を聞いている場合も、その主張がわかりにくいことがある。そのように感じるのは、それが何に反対しているのかをとらえきれずにいるときだ。

その人の語る内容について知識がない場合、はっきりと反対していることをその人自身が示したくなくてぼかしている場合など様々だが、ともあれ、何に反対しているのかがわかれば、その人の言いたいことがはっきりする。

しかも、課題文が何に反対しているかが明確になれば、その人の意見について考える場合の手掛かりになる。対立軸が明確になるので、その意見についての自分の考えを深めるとき、論点が明確になる。

なお、そのときヒントになるのが、第二部だ。この部分で示される「確かに……。しかし……」の「確かに」のあとに示されている考えを見ると、多くの場合、筆者がどのような意見を対立意見として示しているのかが理解できる。

ポイント(6) 主張を把握し、根拠を整理する

ほとんどの場合、その文章が最も強く反対していることの裏返しが、その文章の最大の主張だ。「〇〇がよい」という考えに反対している場合、「〇○はよくない」と言おうとしていると考えられる。まずはそのような最大の主張を明確にとらえる必要がある。

だが、それだけでなく、その根拠もきちんととらえておくのが望ましい。それをしっかりと整理できてこそ、文章を読み取ったといえる。

以上のことを踏まえながら、読解の練習をしていこう。

 

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樋口裕一

1951年、大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士後期課程満期退学。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在、多摩大学名誉教授。通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長、MJ日本語教育学院学院長。250万部の大ベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『65歳 何もしない勇気』(幻冬舎)、『「頭がいい」の正体は読解力』『笑えるクラシック』(ともに幻冬舎新書)など著書多数。

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