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「頭がいい」の正体は読解力

2019.12.09 更新 ツイート

なぜ日本人の読解力が落ちているのか?樋口裕一

79か国・地域の15歳約60万人を対象とした国際学習到達度調査(PISA)の結果が12月3日に公表され、日本は「読解力」が前回の8位から過去最低の15位に急落したことがわかりました。

“小論文の神様”樋口裕一さんの新刊『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)は、まるでその結果を予見していたかのように、「第一章 なぜ日本人の読解力が落ちているのか」で始まります。さらに樋口さんは、「文章を読むだけでは読解力はつかない」とも指摘。一体いま何が起きているのか? そして、効率的に読解力を鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?

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iStock.com/bartamarabara

原因は読書量の決定的な不足

なぜ、読解力が落ちているか。

言うまでもないことだが、読書量の決定的な不足がその原因だろう。

スマホが普及する前は、あれこれ言われながらも、日本人はそれなりには本を読んでいた。少なくとも新聞を読み、雑誌を読んでいた。低俗な雑誌や新聞も多かったが、ともあれまとまった文章を読んでいた。大ベストセラーになる書籍もしばしば現れた。読書が趣味という人は大勢いた。小説が多くの人の話題になっていた。

だが、今ではそのようなまとまった文章を読む人は少ない。新聞は発行部数を大幅に減らし、雑誌の多くが廃刊に追い込まれている。電車の中でも、新聞や文庫本などを読んでいる人を見かけることはほとんどない。乗客のほぼ全員がスマホをのぞき込んでいるというのは、今はごく日常的な電車内の光景だ。

ネット内を駆け巡る文章は、短文がほとんどだ。複雑な状況を語ったり、深い思念を語ったりする文章はネット内にはみあたらない。一目で理解できるような文章だけが幅を利かせている。

これでは読解力が養成されるはずがない。多くの若者が学校の教科書と試験くらいでしか文章を読まない。文章を読む習慣を持っていない。

読むことは思考すること

しかし、言うまでもないことだが、現在でも文章を読むことは大事だ。

文章を正確に読み取れないと、人の意見を理解することができない。日常生活での会話さえもしばしば誤解するといったことが起こるだろう。人の語っていることが理解できず、大きく曲解してトンチンカンなことを言う人がいるが、それは読解力のない人だ。きっとそんな人は周囲からバカな人間と思われているだろう。

いや、そもそも文章を理解できないと、日常生活に支障をきたす。役所からの知らせ、銀行からの通知さえも理解できないことになる。そして、そもそも読書という、人類が数百年前から行ってきた最大の楽しみを味わうことができないことになる。文学作品を理解できず、ミステリーの醍醐味を知らず、恋愛小説の恍惚も知ることができない。

そして、それ以上に、文章をしっかり読まないと、この複雑な現実世界を理解することができない。簡単な図式や数百字の文字で人間の心や社会のあり方を理解することはできない。

現在起こっていることを理解し、その複雑な関係を把握し、これから先の行動について推論し、自分の意見をまとめるには、新聞を読み、専門誌を読み、専門書を読みこなす必要がある。それができてこそ、現実を分析し、将来についての展望を持つことができる。それができてこそ、専門家の意見を参考にして自分の考えをまとめることができる。

言うまでもなく、文章は思考そのものの跡を示す。

文章をたどれないということは、他人の思考をたどれない、つまりは他人の思考について思考できないということにほかならない。言い換えれば、自分で考えることができないということでもあるだろう。

ただ読むだけでは読解力はつかない

では、どのようにして日本人の読解力を養成するのか。どうやって、文章をしっかりと読みこなし、難しい文章も理解できるようにするのか。

もちろん、文章をたくさん読むことが読解力の向上に最も効果的だ。

私自身のことを言えば、読解力を高めるための勉強など意識的にした記憶はない。国語の問題集を解いたこともないと思う。ただ、中学生のころから、おもしろい小説やら世界的名著やら、時には読んでいるのを親に見つかったらこっぴどく叱られそうな読みものやらを手当たり次第に読んだ。そうこうするうち、いつのまにか読解力がついていた。

きっと、ある程度読解力に自信のある人は、私と同じような経過をたどってきただろう。何かの特別な勉強をして読解力をつけた人など、いないに等しいのではないか。

だが、だからといって読書が当たり前の行為でなくなった現在、一昔前に読解力をつけた人のやり方をそのまま若者に強制するわけにはいかない。

そこで私がこれから示すのは、もっと効率的な方法だ。

具体的にはのちに説明するとして、ここでは理念だけを示そう。

私は、読解力をつけるには、言葉を実際に使うこと、文章を書くことが大事だと考えている。

サッカーの試合を深く見ることができるのは、どのような人だろう。もちろん、経験者だ。テレビのサッカー中継にも、かつて名選手として活躍した人が解説者として呼ばれる。

言うまでもないことだが、サッカー経験のない人がサッカーをしっかりと理解して見ることができるとは思えない。経験があるからこそ、選手の気持ちがわかり、いい作戦がわかり、それぞれのチームの作戦がわかり、その潜在力などもわかる。経験のない人がいくらテレビ中継を見ても、解説者の意見を口写しにして語るだけであって、本当の意味で理解しているとは思えない。

つまり、実際にプレイしたことのある人が、正確に、そして深く試合を見ることができるといえるだろう。それと同じで、文章についても、ただ読むだけの訓練をしても、深く読むことはできない。実際に言葉を操作し、文章を書くことによって、文章を理解できるようになる。そうするうちに、文章を読み取れるようになる。

英語の勉強をする場合、文章を読む力ばかりをつけようとしても、本当には読む力はつかない。会話ができるようになり、作文もできるようになってこそ、細かいニュアンスも含めて文章を正確に読むことができるようになる。

読み取るだけでは、細かいニュアンスはわからない。自分でしゃべり、人の話を聞いているうちに、それが皮肉を交えた言い方なのか、真面目な言い方なのか、ちょっと古風な言い方なのか、今風の言い方なのかがわかってくる。そうすると、文章を読むとき、筆者はどのような思いでその言葉を使っているのかがわかってくる。

私は様々な機関で小論文指導を行っている。論理的に文章を書く方法を教え、様々な課題に取り組んでもらう。そうするうちに、多くの受講生が高度な小論文を書けるようになる。

ところが、それ以上に、読解力が上がるという効果がある。受講後のアンケートに、「結局、小論文試験では失敗したが、小論文を勉強したおかげで国語の成績が上がったので、小論文が受験科目にない難関校に合格できた」というコメントがしばしば寄せられる。実は私自身、このようなコメントを読んで、書くことがいかに読解力養成に効果があるのかを認識したのだった。

第二章から、そのような認識に従って、実際に言葉を使うこと、文章を書いてみることを重視した読解力養成の方法を示すことにする。

 

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この続きは、『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)をご覧ください。

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樋口裕一『「頭がいい」の正体は読解力』

ものごとを正確に読み取り、理解する力=読解力。文章を読んで考えをまとめたり、会話で相手の意見に反論するときなど、あらゆる場面で不可欠だ。しかし、読解力のない日本人が増えている。読書量の不足やネット記事・短文SNSの普及による「長文を読み解く耐性がない」「言葉の意味は知っていても使いこなせない」ことが主な原因だ。本書では、問題を解きながら実際に言葉を使い、文章を書き、例文の要点をつかむという「語彙力」→「文章力」→「読解力」の3ステップで鍛えていく。飛ばし読みや資料の要約、会話やSNSでのコミュニケーションにも役立つ、現代人の必須スキルを磨く!

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「頭がいい」の正体は読解力

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樋口裕一

1951年、大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士後期課程満期退学。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在、多摩大学名誉教授、東進ハイスクール講師。通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長。MJ日本語教育学院学院長。250万部の大ベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『65歳 何もしない勇気』(幻冬舎)、『笑えるクラシック』(幻冬舎新書)など著書多数。

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